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32-1・相談事の行方

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 結論から言うとラティに相談したところで、いい案など全く出て来なかった。
 と、言うよりはそもそも、ラティは俺がシェラを気遣うことそのものについていい顔をしなかったのである。

(ベッドの中で相談したのがダメだったのか……?)

 なんて思ってみるが、多分それだけが理由ではない。
 否、それも理由の一端ではあるのだろうけれども。
 だって、二人っきりの閨の中で、他の誰かの名前が出ること自体、いい気分にならないことぐらい俺にだってわかる。
 多分俺も、ラティからそんな風に自分以外の誰かの名前が出たら面白く思わないだろうから。
 ただ、相談相手としてラティを選んだこと自体は喜ばしく思ってくれていたようで、だからこそ聞かないわけではないという程度の話だったのだろう。
 何よりラティは、ある意味当然のことながらシェラ自身をそこまで重要視していないようだった。
 俺がシェラを気遣うこと自体よく思ってもいなければ、そもそもシェラに心をかける必要性自体、ありはしないだろうと言わんばかりの言葉尻で、なにせ、

「? 暇を出せばいいじゃないか。もうルニアは大丈夫なんだろう? むしろ彼が近くにいることで不安定になるのなら早く暇を出すべきだね」

 などと心底不思議そうにはっきり言い放ったのだから。
 俺は二の句が継げなかった。
 そういう話じゃない、と言いたいが、ではどういう話なのかともし聞き返されたりすると上手く説明できる気がしない。
 これは俺が前世の日本人的感覚を引きずっているからなのだろうかと思ったりもした。
 しかし一方でそれは、多分、今までのルニアには言わなかっただろうことでもあるだろうなとも思う。
 俺が、今の俺・・・になったからこそのラティの言動。
 そんなラティの態度はなんとなく、記憶を思い出して、以前とは全く変わってしまっただろう俺自身をそのまま受け止めてくれているかのようで、何とも面映ゆい気持ちにもなったのだが、それはともかくとして。
 とにかく、いい案が出て来なかったことに間違いはない。
 元々、シェラを侍従として雇い入れたのはラティだ。
 あくまでもルニアの心の安寧の為に。
 それが今度は事情が変わって、いない方がよくなったというのなら遠ざけるだけの話。
 王族であるが故の、あるいはラティにとって大切なのはあくまでもルニアだけだからこその傲慢さだった。
 もちろん、とは言ってもシェラの今後について全く何の保障もせず放り出したりなんてしないだろうとは思う。
 だけど少なくとも俺ほど、シェラに心を砕いていないのは間違いない。
 俺はなんとも複雑な気持ちになる。
 ラティが心を傾けるのは俺だけ。シェラではなく、俺。
 そんな事実を嬉しく思ってしまったのだから。
 ラティの言うこと自体、何もおかしくないというのもある。
 否、元よりシェラは、侍従になりたくてなったわけではない。
 ただ、俺の都合でそば近く似合ってくれただけ。
 なら、どんな理由にしろ、早く解放した方がいいという意味だとすれば、必要がなくなったのなら、暇を出せばいいというのは理にかなったこととも言えるのだ。
 ラティがそこまでの意味を込めて発言していたかどうかはともかく、俺も、だったら、

(暇を出すこと自体は悪いことではないのかもしれない……)

 などと思い始めるほどだった。
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