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しおりを挟む俺が普段過ごしている庭は言うならば建物に囲まれているような作りとなっている。
とは言え、本当に全く、周囲を建物に塞がれているわけではなく、他の庭とつながっている部分もあった。
ちなみに庭自体広いので、周囲に壁があった所で閉塞感はあまり感じない。
建物と言っても低い建物であったり、そう言った所の周囲にこそ、背の高い樹々が配置されていたりして、むしろ気にならないような工夫もされていた。
ともかく、俺が今足を向けているのは他の庭に繋がっている場所であり、同時に昨日、例の男の気配を感じた方向でもある。
この王宮で育ったと言っても過言ではないルニアが、実際に行った所のない場所であっても、王宮内のざっくりとした配置を覚えていないはずがなく、それは侍従や護衛達も同じこと。
いつもなら足を止める場所を通り過ぎてなお、俺が歩き続けるのを見て、周囲の者たちが戸惑っているのが伝わってくる。
なのに俺は、引き返そうとは微塵も思わなかった。
わかる範囲でこの先に見知らぬ気配などない。
どころか、おそらくは誰もいない。
精々が廊下を行き過ぎる女官や文官たち、あるいは下働きの者たちぐらいのものだろう。
このまま先へ進んで、いったい何がどうなるというのだろう。
明確な答えなんてなく、ただ、そうしなければならないという漠然とした焦燥感だけが、今の俺を支配していた。
庭の様子は同じようでいて場所によって少しずつ違う。
例えば、先程までいた所だと、整えすぎない素朴さが残されていたけれど、今、足を向けているこの先はそれよりもずっと人工的であるだとか、そんな風に。
とは言え、通路となっている部分の脇、植え込みの背は高く、目隠しの役目を存分に果たしているところは多くて、隠れて何かをしている者がいないわけでもないのが実情とも言えた。
なお、何かとは主に休憩や昼寝などだ。
なにせもう少し建物に近づくと、管理や女官も使用する場所となる。
その更に先は外部の者も出入りするエリアで、ただそちらは流石に、渡り廊下のようになっている場所を横切らざるを得ず、衛兵が常に配置されていて、誰の目にも触れず行き交うことは出来なくなっていた。
俺自身今日はそちらに進む予定はない。
そしてそちらは言うならば向かって右手側、左寄りの所はやはり建物の一部を横切らなければならないけれど、外部に通じる王宮自体の裏側、いわゆる裏門や通用門とも呼ばれる場所に繋がっていて、昨日の男はおそらくそちらから来たのだろうと思われた。
衛兵も用がある者なら通してしまう。
ただ、今は俺なので誰にも止められたりしなかったけれど、そうでなければ見咎めるのだろう兵の姿は何人も横目に見てきてはいた。
そう言った者たちを幾度も交わしてあんな場所まで入り込むなんて。
迷ったと言っていたが、そんなこと一切何も信用できない。そもそも、ただでさえ、あの男。
(謹慎が半年というだけでも初めから短すぎたんだっ! 王宮への立ち入り禁止措置も同時に受けていたはずなのにいつの間に解けていたんだ? それとも、そこまで強力な縛りを課していなかったとでも言うのかっ?! それこそ、まさかだろう? いくら目的が俺たち王族じゃなかったとは言え、よりにも寄ってシェラに接触するなんてっ! あり得ないっ! ルニアじゃそこまで意識できなかったけど、今の俺は違うっ、あんな男っ! あんな、)
あん……な?
内心でひとしきり苛立ちを吐きこぼして、だけどそこではたと思考ごと足を止めた。
今、自分がいったい何にここまで苛立っていたのか。
わかっているはずのそれが、どうしてか、そこから先が霞のようにぼやけて。
自分でも何故か、見つけることが出来なかったからだった。
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