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 俺は思考を止めて、シェラの話を聞くこととなる。
 とは言え、内容は先ほど初めに聞いたものと同じ。否、少しばかり詳細が追加されていると言えなくもない。

「繰り返しになりますが、昨日もただ知っている気配でしたし、仮にも一度見合いの話が持ち上がった相手、全くの無関係とも言い切れません。見知らぬ相手ならまだしも、念の為、僕からも注意しなければならないかと判断し、すぐに戻るつもりでお傍を離れたのですが……そこで何故か僕との見合いの話を持ち出され、剰えあそこまで入り込む際の僕の名前も使用したと告げられ、慌てて諸々の確認の為、急ぎ家に一度戻ることとなったのです。勿論、殿下にはご報告致しましたし、殿下の指示とも言えました。本来ならルニア様にこそご判断を仰ぐべきだったのですが、殿下からは自分から告げるので先に確認するようにと」

 実際にラティは俺に教えてくれてはいた。
 想定外のことが起こった、心配はいらない、とだけは。
 先程はラティに言付けたと言っていたが、正確にはラティからの指示だったということらしい。
 なんとなくもやもやする。
 シェラの見合いというだけでもなんだか冷静でいられない気分になるというのに、名前さえ使用されたというのだろうか。
 それは確かにそう急な確認が必要になるだろうと頷いた。

「それって結局、実家は、」

 ああ、でもこんなこと突っ込んで聞いてはいけないのだろうかとも一瞬思うが、俺の方からねだったわけでもなく、詳細を話してくれたのはシェラの方だと思い直す。
 シェラも俺からの問いに、特に気分を害しただとか言うようにはまったく見えなかった。

「どうやら行き違いがあったようだというのは確認できましたが、それ以上は……元々見合い話も、もう何年も前……4年ほど前でしょうか? それぐらいに立ち消えになっていたはずなんです。ですのに、そのようなことを告げてくるのですから、僕にも正直何が何やら。再度見合いの話が立ちあがっているだなんてこともあり得ませんし。なぜ、イニエレス伯爵家のご子息がそのような発言をしたのかは今確認を急がせておりますので、場合によっては、先程の処罰は変更になるやもしれません」

 つまり事実確認の洗い出し中。
 俺はここでまたしても、これ以上掘り下げて訊ねるかどうかを迷ってしまう。
 気にならないと言えば嘘になるだろう。
 だが件の男自身に興味があるわけではなく、シェラに害が及んでいないようなのならそれでいいとも同時に思う為だった。
 距離感を測りかねていると言えばそれまでだ。
 俺はこの件について、シェラにどこまで踏み込んで訊ねてもかまわないのか、判断がつきかねているのは事実だったからだ。
 シェラが気を取り直したようににこと微笑む。

「とにかく、ルニア様が心配なさるようなことは何も起こっていないことは間違いございませんよ」

 相変わらずシェラの顔は天使と見まごう迄に愛くるしい。

「あ、ああ、そうか……なら、いいんだが……」

 俺はなんとも言えないわだかまりを胸の内に押し込めて、今はこれ以上食い下がるのはやめることにした。
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