99 / 141
25-4
しおりを挟む俺は思考を止めて、シェラの話を聞くこととなる。
とは言え、内容は先ほど初めに聞いたものと同じ。否、少しばかり詳細が追加されていると言えなくもない。
「繰り返しになりますが、昨日もただ知っている気配でしたし、仮にも一度見合いの話が持ち上がった相手、全くの無関係とも言い切れません。見知らぬ相手ならまだしも、念の為、僕からも注意しなければならないかと判断し、すぐに戻るつもりでお傍を離れたのですが……そこで何故か僕との見合いの話を持ち出され、剰えあそこまで入り込む際の僕の名前も使用したと告げられ、慌てて諸々の確認の為、急ぎ家に一度戻ることとなったのです。勿論、殿下にはご報告致しましたし、殿下の指示とも言えました。本来ならルニア様にこそご判断を仰ぐべきだったのですが、殿下からは自分から告げるので先に確認するようにと」
実際にラティは俺に教えてくれてはいた。
想定外のことが起こった、心配はいらない、とだけは。
先程はラティに言付けたと言っていたが、正確にはラティからの指示だったということらしい。
なんとなくもやもやする。
シェラの見合いというだけでもなんだか冷静でいられない気分になるというのに、名前さえ使用されたというのだろうか。
それは確かにそう急な確認が必要になるだろうと頷いた。
「それって結局、実家は、」
ああ、でもこんなこと突っ込んで聞いてはいけないのだろうかとも一瞬思うが、俺の方からねだったわけでもなく、詳細を話してくれたのはシェラの方だと思い直す。
シェラも俺からの問いに、特に気分を害しただとか言うようにはまったく見えなかった。
「どうやら行き違いがあったようだというのは確認できましたが、それ以上は……元々見合い話も、もう何年も前……4年ほど前でしょうか? それぐらいに立ち消えになっていたはずなんです。ですのに、そのようなことを告げてくるのですから、僕にも正直何が何やら。再度見合いの話が立ちあがっているだなんてこともあり得ませんし。なぜ、イニエレス伯爵家のご子息がそのような発言をしたのかは今確認を急がせておりますので、場合によっては、先程の処罰は変更になるやもしれません」
つまり事実確認の洗い出し中。
俺はここでまたしても、これ以上掘り下げて訊ねるかどうかを迷ってしまう。
気にならないと言えば嘘になるだろう。
だが件の男自身に興味があるわけではなく、シェラに害が及んでいないようなのならそれでいいとも同時に思う為だった。
距離感を測りかねていると言えばそれまでだ。
俺はこの件について、シェラにどこまで踏み込んで訊ねてもかまわないのか、判断がつきかねているのは事実だったからだ。
シェラが気を取り直したようににこと微笑む。
「とにかく、ルニア様が心配なさるようなことは何も起こっていないことは間違いございませんよ」
相変わらずシェラの顔は天使と見まごう迄に愛くるしい。
「あ、ああ、そうか……なら、いいんだが……」
俺はなんとも言えないわだかまりを胸の内に押し込めて、今はこれ以上食い下がるのはやめることにした。
33
お気に入りに追加
2,051
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる