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26-1・隠された秘密
しおりを挟む俺はシェラと親しいつもりでいる。
実際に今、ラティ以外で頼りにしているのがシェラぐらいであることは、間違いようもない事実だった。
ただ、今朝話したように例えば見合い、だとか、そういう話となった時に、いったい俺は何処まで彼に踏み込んでいいのか判断できず、躊躇する気持ちがあることを自覚したのもまた事実ではあって。
(俺はこんなにも臆病だったんだろうか……)
あるいは人に遠慮するような人間だったのか。
そんな風にいくら自問しても、答えなんて出るわけがない。
なにせ、少なくとも前世では違ったように覚えている。
勿論、全く親しくない人に、いきなりそう言ったことを訊ねたりするほど、無作法ではなかったつもりだ。
だが、『親しい友人』であるならば、それぐらいは訊ねられる程度の関係を築けてはいたはずだとも思うだけで。
ああ、だけど。
(ルニアなら、何もおかしくはないな)
と、何処かで納得した。
ルニアの世界はひどく狭い。
立場も相俟って、親しい友人と言える存在がシェラぐらいしかおらず、ラティに囲われて育ってきている。
加えて、婚姻だとか恋人だとか見合いだとか。
そんな話を、誰かとした覚えが一度もなかった。
報告というような形で伝えられることはあるし、お茶会だとかの社交の場でそう言った話題が出たことがないとまでは言わない。
でもそれはあくまでも社交界での話題の一つにすぎず、また単純にルニアの方から訊ねて、確かめるような相手がいなかったというだけの話。
きっと、それもあって躊躇ったのだろうとは思う。
思う、けれど。
(見合い……シェラが、誰かと結婚する……それも、あのイニエレス家の次男と? ……いや、見合いは結局してないと言っていた、そういう話が出たことがあるだけだと。知っている相手だったから対処しただけ……本当に? 本当にそれだけで、シェラがわざわざ対処するだろうか)
自問する、思い出す。
今、シェラは近くにいない。
何のことはない、ただ少し長めの休憩をとっているだけである。
いつも通り、おそらくあと数十分で戻ってくることだろう。
朝の遅い時間。
だが、昼にはまだ少し時間があって、俺はいつも通り私室のソファの上、目の前に数冊の本を重ねて、手にも一冊の本を持って。
開いて、だけど目は、意識は文字なんて全く追わず、昨日と、そして今朝のことを考え続けていた。
こういうタイミングを選んで、シェラはいつも休憩をとるようにしているようだった。
だから今もいない。
そして俺は存分に、シェラの目を気にせず考えに耽っている。
もやもやした。
どうしてもすっきりせず、気になって仕方がない。
シェラは大丈夫だと言った、問題はないと。
俺が心配するようなことなんて何もないのだと。
嘘を言っているとは思わない。思わない、のだが。
(なのにどうしてすっきりしないんだ……)
シェラは何かを隠している、あるいは誤魔化しているのではないか。
それはただの予感や違和感のようなものだったのだけれど、でも、根拠もなく俺には、そう思えて仕方がなかった。
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