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15-1・夜の事情
しおりを挟むとは言え、どう考えてどうするも何も、答えなどあってないようなものなのだけれど。
ラティの受け入れ、ラティの横で、ラティの伴侶として……いずれはこの国の王妃として過ごし、生きていく。それ以外にはない。
すでに俺のお腹の中には子供も成っていて、あと数ヶ月で生まれてくる。
何も憂いはなく、問題もなく、安泰とさえ言ってよかった。
家族仲だって、どこを思い出して切り取っても良好。
周囲の侍従や護衛の態度を始め、部屋の作りだとか様子だとか居心地だとか、環境にも不足はない。……部屋から出られていない以外は。
部屋自体はとても安らげる場所ではあったので、外に出られないと言っても、少々退屈に感じる以外の不服もなかった。それが逆に恐ろしく思う程。
ともかく、なんにせよ、俺に出来ることなど何もないのだ。
諾々と今を受け入れるより他に何も。
俺はその後も丸二日ぐらい、朝食だとか夕食だとかをラティと共にする以外は、ただだらだらと本を読んだり映像を見たりして過ごした。
なお、映像は更にいくつか持って来てもらって、幼少期からのラティを舐めるように見たりもした。
懐かしいと微笑ましく思ったり。やっぱりラティはかっこいいとドキドキしたり。
俺は俺なりにこの閉じこもり生活を、満喫し始めていたようにも思う。
とは言えそれもまぁそろそろ限界だなと思い始めたのは、感じ始めた不調を、自覚せざるを得なくなってきたからだった。
つまり、子供に必要な魔力が、足りなくなってきたのである。
「あ~……限界、かぁ……」
小さく呟く。
少し、考える。
落ち着きたくて、ラティに取ってもらった時間。
それは充分と言えば充分な気がした。
もう俺はラティを……今を、受け入れること自体は、とっくに納得できているのだから。
『離縁』だとかは勿論、疾うに考えてはいない。
勿論、ラティとシェラのイチャイチャが見たいだとかそういう欲望は今もある。
半面、そんなことが叶わないこともまた、すでに理解していた。
じゃあもういいかなと、ちょっと思った。
もうきっと、大丈夫。そんな風に。
何より状況はあんまりよくない。
俺だってお腹の中の子供のことは心配だし、可愛いのだ。
なんとなく実感は薄れてしまっているけれども。
このままラティと離れていても、俺自身が今まで以上に体調を崩すだけ、その果てには子供にも影響があるかもしれないことを、俺はもうわかっていた。
だから。
「……なぁ、シェラぁ、ラティってさ……今、俺と一緒に寝てないじゃん? ……どこで夜を過ごしているのかとか、わかる?」
ラティと俺は、もちろんそれぞれに私室を持っている。
だが、実は寝室は別には持っていなかった。
今、毎晩俺が1人で眠っている寝室が、俺にとってもラティにとっても、唯一の寝室であるはずなのだ。
だから、その部屋に戻らないラティは、いったいどうしているのだろう。
本当ならもっと早くに気になってもおかしくないはずの。同時に、こんな風に口にするということはつまり、閨を共にという踏ん切りがついたと、知らせることにもなるだろう俺からの問いかけに、シェラは一瞬ぴたりと動きを止めて。
そしてどうしてか、やけに注意深く、俺の様子をうかがってきたのだった。
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