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52・真っ黒い荒野③
しおりを挟むとは言え、フォルが嘘を言ったり誤魔化したりしているとも思えない。
ならフォルの言葉はそのまま、ありのままの事実だということなのだろう。
神人。
そう言われても、いまだにその神人なのだという実感がわかない僕には、やはり理解しがたい話であることに変わりはなかった。
「さっきまでいた森は、僕達のいた砂漠のある世界より下にある世界で、そしてここ魔界はそれよりも更に下。最下層に位置する。瘴気も魔力も、下に行けば行くほど濃く凝って、上に行けば行くほど清んで研ぎ澄まされていくんだよ。だから、最も清らかだと思われる最上界で生きてきただろう神人殿に、この最下層の瘴気にも魔力にも、いずれにも耐えられるとは思えない。清んだ魔力と凝った魔力では、同じ魔力でも全くの別物だしね」
だから早く、この界から上がりたいのだとフォルが続けた。
「界渡りは、上から下に落ちるのはそれほど難しくないんだけど、下から上に上がるのはそれよりずっと難しくて。せめて適した場所でないと、僕も魔術を上手く使えない。現に僕達は皆、半ば強制的に本来の姿に近い姿へと戻ってしまっている。ホセだけはどうやら、さっきまでの森のあった界の方が相性が悪かったみたいで、今は辛うじて人型に近い姿が取れているみたいだけれど」
だからフォルは今、赤竜の姿でいるらしい。ネアもおそらくは、何も偽らない姿と大きさが今のこの形だということなのだろう。初めて会った時よりも少しだけ大きく、だけど砂漠で影を作ってくれていた時よりもずっと小さい姿となっていた。
シズは何も変わらない。変わらない、がしかし、気配が少し違うだろうか。
些細な変化ではあったが、それでも違ってはいるらしいと悟った。
「これはどの世界にも言えることなんだけど、世界って言うのはどこでも一定の魔力や瘴気が満ちているというわけじゃない。濃いところや薄いところってのはあってね。今、目指しているのも、魔力や瘴気が他よりもずっと薄いところなんだ。そこでなら多分かろうじて、界を上がる魔術を行使することが出来るはずだから。逆に言うとおそらくは、そこ以外では難しい」
だから先へと急いでいるのだと話してくれたフォルは、歩みを止めるつもりがないらしかった。
僕が抱えられたままなのもおそらくは、その方が早いからなのだろう。
「だから神人殿は何も心配せず、ただ、今はおとなしく運ばれていてくれればいいよ。僕達に任せておいて」
そんな風に力強く請け負って話を終わらせたフォルは、のそのそと足を前方へと押し出し続けた。
僕もフォルに言われた通り、ただ大人しくホセに体を預けきる。
視界の先に揺れる世界は、どこまでも真っ黒で。
ごつごつとした岩場の点在する、荒れ果てた土地にしか見えなかった。
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