上 下
53 / 58

52・真っ黒い荒野③

しおりを挟む

 とは言え、フォルが嘘を言ったり誤魔化したりしているとも思えない。
 ならフォルの言葉はそのまま、ありのままの事実だということなのだろう。
 神人かむびと
 そう言われても、いまだにその神人なのだという実感がわかない僕には、やはり理解しがたい話であることに変わりはなかった。

「さっきまでいた森は、僕達のいた砂漠のある世界より下にある世界で、そしてここ魔界はそれよりも更に下。最下層に位置する。瘴気も魔力も、下に行けば行くほど濃くこごって、上に行けば行くほどんで研ぎ澄まされていくんだよ。だから、最も清らかだと思われる最上界で生きてきただろう神人殿に、この最下層の瘴気にも魔力にも、いずれにも耐えられるとは思えない。んだ魔力とこごった魔力では、同じ魔力でも全くの別物だしね」

 だから早く、この界から上がりたいのだとフォルが続けた。

「界渡りは、上から下に落ちるのはそれほど難しくないんだけど、下から上に上がるのはそれよりずっと難しくて。せめて適した場所でないと、僕も魔術を上手く使えない。現に僕達は皆、半ば強制的に本来の姿に近い姿へと戻ってしまっている。ホセだけはどうやら、さっきまでの森のあった界の方が相性が悪かったみたいで、今は辛うじて人型に近い姿が取れているみたいだけれど」

 だからフォルは今、赤竜の姿でいるらしい。ネアもおそらくは、何も偽らない姿と大きさが今のこの形だということなのだろう。初めて会った時よりも少しだけ大きく、だけど砂漠で影を作ってくれていた時よりもずっと小さい姿となっていた。
 シズは何も変わらない。変わらない、がしかし、気配が少し違うだろうか。
 些細な変化ではあったが、それでも違ってはいるらしいと悟った。

「これはどの世界にも言えることなんだけど、世界って言うのはどこでも一定の魔力や瘴気が満ちているというわけじゃない。濃いところや薄いところってのはあってね。今、目指しているのも、魔力や瘴気が他よりもずっと薄いところなんだ。そこでなら多分かろうじて、界を上がる魔術を行使することが出来るはずだから。逆に言うとおそらくは、そこ以外では難しい」

 だから先へと急いでいるのだと話してくれたフォルは、歩みを止めるつもりがないらしかった。
 僕が抱えられたままなのもおそらくは、その方が早いからなのだろう。

「だから神人殿は何も心配せず、ただ、今はおとなしく運ばれていてくれればいいよ。僕達に任せておいて」

 そんな風に力強く請け負って話を終わらせたフォルは、のそのそと足を前方へと押し出し続けた。
 僕もフォルに言われた通り、ただ大人しくホセに体を預けきる。
 視界の先に揺れる世界は、どこまでも真っ黒で。
 ごつごつとした岩場の点在する、荒れ果てた土地にしか見えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...