贖罪の救世主

水野アヤト

文字の大きさ
583 / 875
第三十五話 参戦計画

しおりを挟む
「はあっ!せい!おりゃああああっ!!」
「ほら、隙だらけ」
「!!」

 とある建物の広い空間の中で、一人の少年と一人の女性が戦っていた。少年は威勢のいい雄叫びと共に、自慢の剣を振り回すが、相手の女性には掠りもしない。しかも隙を付かれ、女性の振った剣の斬撃に自分の得物を弾かれ、見事に敗北してしまっていた。

「これで、私の十七勝目。簡単に勝てすぎて、お姉さんびっくりしちゃった」
「いやそれは、教官が強すぎるだけなんじゃ⋯⋯⋯」
「なに言ってるの新米勇者君。こんなに手加減してあげてるんだから、せめて一勝くらいはして欲しいのだけど?」

 二人のいる空間は、騎士や兵士が訓練のために使用する、模擬戦のための部屋であった。
 ここは、ホーリスローネ王国にある、国の象徴であるホーリスローネ城。城内にあるその部屋で、若き新米勇者が教官役であるこの女性に、模擬戦でひたすらしごかれていた。
 少年の名は、有馬櫂斗《ありまかいと》。伝説の秘宝に選ばれし、勇者連合の新たな勇者である。

「櫂斗、弱すぎ⋯⋯⋯」
「うっ、うるさい!教官が強すぎるんだよ!」
「じゃあ、今度は私の番ね。もし私が一勝でも出来たら、櫂斗が弱すぎなだけってことで」
「おい悠紀、教官嘗めてると痛い目見るぞ」
「それは櫂斗でしょ。さっき、伝説の勇者になった俺が負けるわけない⋯⋯⋯、とか言ってたの誰だったっけ?」

 訓練場には二人の戦いを見学していた、三人の少女の姿があった。その内の一人、早水悠紀《はやみゆき》は櫂斗と交代し、教官と呼ばれている女性に挑む。

「へえ~、次は悠紀ちゃんがやりたいんだ。私に勝つの、簡単じゃないよ?」
「私、相手が強い方が燃えるんで。油断すると火傷しますよ、ユーリ教官」

 教官と呼ばれている女性の名は、ユーリ・ヤノフスキ―。櫂斗達の戦技教官として派遣された、ホーリスローネ王国軍の兵士である。
 
「悠紀ちゃん、やる気十分ね。あとの二人はどうかしら?」
「⋯⋯⋯早水さんの次は私でお願いします。危ないから、華夜は見てるだけでいい」
「⋯⋯⋯」

 この場にはあと二人、模擬戦を見学していた少女達がいる。悠紀の次にユーリと戦おうとしているのは、九条真夜《くじょうまや》。その傍には、彼女の妹である九条華夜《くじょうかや》の姿もある。

「お姉さん的には二人まとめて相手にしてもいいけど、どうする?」
「もちろん、私一人で十分です。起動《スタート》!」

 悠紀の言葉を聞き、彼女の首にかかっているペンダントの宝石が、眩い光を放って形を変えていく。宝石は形を変え、彼女の右手で槍となって、その姿を現わした。自身の得物を構え、戦闘態勢に入った悠紀に対し、ユーリもまた剣を構える。

「いきます!!」

 構えた槍と共に、悠紀は駆けた。床を力強く蹴り、一気にユーリとの距離を詰め、槍の切っ先を彼女目掛けて放つ。速く鋭い突きの一撃。しかしユーリは、その一撃を完全に見切っていた。あっさりと突きを躱し、自分の得物である剣を振り上げ、悠紀目掛けて振り下ろす。
 振り下ろされた剣に反応し、悠紀は槍を盾代わりに、その斬撃を弾いて見せた。相手の反撃に注意しつつ、彼女は連続して突きを放ち続ける。元は槍術を習っていただけあり、彼女の槍捌きは手慣れていた。だが所詮、その槍術は実戦を想定したものではない。その程度の技量では、兵士であるユーリには届かない。

「はい、隙見せた」
「!!」

 連続突きを全て躱され、相手の実力に驚愕してしまった、その一瞬の気持ちの隙を見逃さない。槍の切っ先を剣で弾き、無防備となった悠紀の首筋に、ユーリが剣の切っ先を突き付ける。
 勝負は一瞬で決まった。決して悠紀が弱いというわけではないが、教官であるユーリが相手では、実力の差が開き過ぎているのだ。

「もっ、もう一回お願いします!」
「やめとけよ悠紀。何度やったって無駄だって」
「そうかしら?少なくとも、悠紀ちゃんの方が新米君より骨があるわよ」
「そっ、そりゃあ⋯⋯⋯。悠紀の方が俺より鍛えてるし⋯⋯⋯」
「ついでに言うと、悠紀ちゃんは君より勇者のセンスあるわ」
「んなっ!?」
 
 剣の扱いが完全素人である櫂斗と、槍術を学んでいる運動神経抜群の悠紀では、勇者としての才は彼女の方が上だろう。それぞれの得物の使い慣れ方も、櫂斗とは段違いである。
 しかし、物語の主人公のように、勇者として活躍したい櫂斗にとっては、教官にセンスが無いと言われたくはない。せっかく、夢にまで見た望みが現実となったのだから、物語と同じように在りたいのである。

「だっ、大丈夫ですよ教官!きっとその内、この剣の隠された凄い力が覚醒したりして⋯⋯⋯」
「だから強くなれるって?それはいいけど、その凄い力とやらが目覚める前に死なないよう鍛えるために、私が君達の教官に任命されたのよ」
「ううっ⋯⋯⋯」
「楽観的に考える子から、戦場では死んでいく。これ、ユーリお姉さんの経験則だから」

 この場では特に櫂斗に言える事だが、戦場を知っているユーリからすれば、彼らは戦いを遊びと勘違いした、愚かな少年少女に見える事だろう。だが、それは仕方がない事である。何故なら彼ら四人は、日常に戦争のない、別の世界の住人なのだから⋯⋯⋯。

 有馬櫂斗、早水悠紀、九条真夜、九条華夜。
 この四人はある日突然、剣と魔法のローミリア大陸に召喚され、伝説の秘宝に選ばれし勇者となった、ただの高校生だったのである。
 戦場に出た事もなく、人殺しも経験した事のない、無垢な少年少女達。彼らはまだ、大人になり切れていない子供である。そんな子供達に背負わされたのは、伝説の勇者という、彼らには荷が重すぎる称号だった。
 四人は人々の期待に応え、この世界で生きていくために、そしてこの世界から無事に帰還するために、戦いに赴かなければならない。そんな彼らが勇者となって、一か月の月日が流れていた。

 この世界を徐々に知り、城での生活にもようやく慣れてきた彼らは、戦うための訓練が必要であった。不思議な力を秘めた秘宝を持っていても、彼らは戦いの素人であった。武器の扱いに慣れていたのは、槍術を習っていた悠紀と、弓道部であった真夜くらいのものだ。それでも、人を殺すために使っていたわけではない。戦うという行為自体、彼らは未経験の素人でしかなかった。
 そんな彼らに、戦場で戦うための戦闘技術を教えるべく、ホーリスローネ王から直々の命を受けたのが、王国軍の女性兵士ユーリ・ヤノフスキーである。普段の彼女は、王国軍訓練生を指導する教官で、王国軍一優秀な教官と言われている。その理由は、彼女の教え子達は皆、実戦においての生還率が、他の兵士に比べ圧倒的に高いからである。
 国王から優秀な教官を与えられ、こうして四人は日々彼女から、戦うための技術や知識を教わっているのだ。今現在行なわれているこの模擬戦も、四人のための実戦訓練の一環である。

「有馬君。君は自分の実力を正直に受け止めるべきよ」
「先輩⋯⋯⋯」
「私達は弱い。秘宝の力を使えても、元々の実力は教官の足下にも及ばない。わかっているわね?」

 彼にとって憧れの先輩である真夜に、こうも正論を言われてしまうと、櫂斗は沈黙しかできなかった。
 望む望まざると訪れる、来るべき戦いの時に備え、今は素直に自分の実力を知り、自分を鍛えるしかない。でなければ、死ぬのは自分達なのである。
 櫂斗と違い、三人は元の世界へ一刻も早く帰還したいと、そう願っている。そのために必要な事、やるべき事を、しっかりと理解しているのだ。故に、悠紀も真夜も模擬戦に積極的であるのだ。特に真夜は、妹の華夜を守りたいという意思がある。華夜が戦わなくて済むよう、代わりに自分が力を付けようとしているのだ。
 
「新米君、真夜ちゃんの言う通りよ。君達の初陣は近いんだから、今は限られた時間の中で、自分を強くする事だけを考えなさい」
「⋯⋯⋯」
「でないとみんな、戦場で五分と経たずに死ぬわよ?」

 彼女の言葉は全て、脅しではなく事実である。
 ユーリが言った通り、勇者として四人が戦う初の実戦は、すぐ近くまでやって来ている。初陣までの猶予は、あまり残されていないのだ。
 迫り来る戦いの足音。事の始まりは、非常に厄介な勢力の出現にあった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...