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凍解1

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 深山荘高見屋は木造つくりで、とってもホッと出来る旅館だった。
エレベーターは無く、全室階段での行き来。廊下なのに、ちょっとした階段があったりと、平成なんだけど、ここの中だけ時代をトリップしたような錯覚におちいる。



  案内された部屋は、角部屋で大きい部屋の中に小さな部屋が別でついてるお部屋だった。
とりあえず、荷物を置いて、ホッと息をつく。
「なんか疲れたな~。とりあえず、今日は滑らなくていいかぁ~。時間も3時だしなぁ~。」
とお茶菓子に手を伸ばす今井さん。
「そしたら、今夜酒盛りするための酒やつまみ買いにいかね?
途中にあった店で地酒売ってたし。」
施設案内書を捲りながら田原さんが提案する。その提案にめぐみちゃんが乗っかった。
「あっ、じゃあ女の子組は夕飯の時間までまったり温泉行ってくるから、美味しいお酒とお肴の買出しよろしくっ」
そう言っためぐみちゃんに背中をグイグイ押されながら廊下を出ようとしたらちょうど部屋に入ろうとした国重さんとすれ違った。

「温泉に行くんだって? ゆっくり浸かっておいで。
あ、でも逆上せたら助けに行けないから程々にね。」
めぐみちゃんも居るのに、国重さんは私の目を見ながらそんな忠告をして今井さんたちがいる部屋の中に消えていった。


 温泉は浴場も木造作りで、こじんまりとした浴槽が4箇所で9つのお風呂が楽しめる仕組みになっていた。ほかにも源泉掛け流しや貸切露天風呂が2箇所あるみたいだけど、私とめぐみちゃんは取り敢えず二人ぐらいしか入れない浴室を選んで入った。
温泉からの眺めはすぐ下を流れる川と、こんもりとした雪景色。
そしてにごり湯。私の好みのツボを心得ていた。

「ふぁ~ 癒されるねぇ~ ちーちゃんこういう趣向の温泉好きだったよね~?」
めぐみちゃんが縁に腕をのせて幸せそうに伸びている。
「うん!!まさに私の好みどんぴしゃだよぉぉぉ!」
「そかそか、そこまで喜んで貰えてよかったよかった。ところでさ、さっきのバスだけど、」

温泉の心地よさに忘れかけていた私の記憶が急にもどってくる。
「バス?なにかあったっけ?」
温泉を肩にかけながら平静を装って聞く。
「アトラクションみたいで凄かったね~!!運転手さん躊躇いも無く進んでいくんだもん!やっぱり雪に慣れている人の運転は違うよね~。」
吹き込んでくる雪が積もっている所にめぐみちゃんは手を伸ばして、手跡をつけたりして遊びながら、先ほどのバスのことを振り返っていた。
「そっ、そうだねっ!」
楽しかったというより私は国重さんの匂いや、大きな手を意識しててそれどころじゃなかった。しかも、手を繋ぐとか!!!!
今日一日で男性へのハードル何個飛んだんだろう・・・。あぁ、なんか胃が痛い。
これから美味しい夕飯が待ってるのに。



 温泉で温まり、脱衣所で準備していたら、めぐみちゃんの携帯が着信を告げた。どうやら、食事処の前で待っているらしい。急いで準備をして待ち合わせ場所に向かった。
 お食事は最高に美味しかったけれど、温泉に浸かっていたときから痛み出した胃のせいで、ほとんど残してしまった。旅館の人ごめんなさい。
申し訳ない気持ちで隣に座るめぐみちゃんを見ると、めぐみちゃんのお膳も大分残っていた。

「めぐみちゃん、湯あたりして気持ち悪いの?」
「ううん、量が多くて胃の入り口まできちゃってていっぱいいっぱい。こういうところってちょっと量が多いよね~。」
と、困った顔でめぐみちゃんが溢していたら
「2人して食べないのなら、俺ら食っちゃうよ?」
先に食べ終えていた田原さん今井さん国重さんがちょいちょいお箸を伸ばしてくれて、なんとか完食できた。残すのは忍びないので助かった。



 食後の運動も兼ねてゆっくり廊下と階段を歩きながら、部屋に戻ると大部屋に3組のお布団、襖を開けてちょっとした廊下の先にある小さい部屋に2組の布団が敷いてあった。
大部屋は布団が3組敷いてあるにも関わらず広くて、部屋半分テーブルと座椅子がそのままあった。
 今井さん曰く「地酒を楽しむ会」は胃が落ち着いてからということで、まったりTVを見ていたら、めぐみちゃんが出窓のイスに腰掛けてる国重さんの組んでいる脚に絡みついてぶらぶら揺れていた。
 ちくんと私の胸が痛んだ。あれ、胃だったのかな。

...あっ、めぐみちゃんもしかして、国重さんの事気にしてるのかな...。
 組んでる脚に絡み付いて楽しそうにお喋りしているし。
 バスで抱き寄せられたり、手繋いだ位で私、なに勘違いしてたんだろ。恥ずかしい。そうだよバスだって、あまりに私が揺れるから見かねてだし、手だって、ヒールブーツっていうそぐわない格好だったからだし、うん。国重さんは優しい人なんだ。
  そう思ってるのに、私の気持ちはなんか重い。はぁ~とため息をついたら、横からプラスチックのコップが出てきた。

 「千歳ちゃんのコップね。
  お~い、そっちの2人もコップ取りに来い~。そろそろ呑もうぜ。」

 「田原さんたちどういうお酒買ってきたの?」
 国重さんの脚から離れて、めぐみちゃんが私の隣に腰をおろした。

 「ん~ 出羽桜の桜花と鍛高譚とあとワインだな。でかい桜花から呑んでいこーぜー。このでかいのは持ち帰るの重いから。」










 トイレ行きたい・・・
 目が覚めるとあたりが真っ暗。
アレ、いつの間にお開きになった??っていうか、私途中からどーなった?
えっと、2時間は呑んでたかな。夕飯がそんなに食べられなくて、おつまみも練り物系やイカの燻製ばかりで酔いが回って1度は部屋に引っ込んだのに、今井さんと田原さんが追っかけてきて、呑もう呑もうとしつこかったから、呑んだのは覚えてる。そのあと、トイレで寝ちゃって・・・
 でも、私布団で寝てたよね?あれっ??なんで大部屋で寝てるのっ?!
  寝ていた布団から起き上がって大部屋のテーブルで突っ伏して思い出していたら、近くの布団がもぞっと動いた。

 「具合大丈夫?」
ひぇぇぇ!国重さんが、肌蹴た浴衣でこっち見てるぅぅぅぅぅぅ
「えっあ はい まだフラフラしますが、大丈夫っぽいです。あの、起こしちゃってごめんなさい。」

 「いいよ。まだ寝付く前だったから。」
 国重さんが起きてきて、テーブルの横に座った。 あ、ノンフレームの眼鏡かけてるんだ。薄暗いから、じっと顔をみても照れることも無い。

 「・・・・あの、私なんでこちら側に寝てるんでしょう・・・」
 最後のほうは怖くて声が小さくなる。
 「トイレの便器に凭れ掛かって寝ちゃったんだよ。鍵あけて寝かせたんだけど、夕飯そんなに食べてなかったし、結構戻しちゃったんだけど、覚えてない?」

 袋から出しっぱなしだった柿ピーに手を伸ばしながら国重さんがこちらを伺うような仕草をする。






  あああああああああああああ 思い出した・・・
 トイレですごーく眠くなって、蓋の上で寝ちゃったんだっ。
そのあと、ドアがガンガン叩かれて、お布団まで運ばれたんだっけ・・・
思えば、所々起きて、吐いたの覚えてる・・・うん。
なんか目が覚める度にビニール袋に吐いて、国重さんがそれをトイレに・・・・・・ああああああああああああああ、私なんてことしたのーーーーーっ!!

 居た堪れなくて、土下座して謝ったら、国重さんが水のペットボトルを渡してくる。

 「田原と今井がほぼ無理やり呑ませてたのが悪いんだししょうがないよ。」
 「でも、結構私、戻してましたよね? その度に国重さんの事起こしてただろうし、その、戻したものも・・・・本当ごめんなさい。」
 「俺も若いころは、そういう失敗してるから気にしないで。田原、今井の介抱もよくやったしね。アイツらに比べたら全然。だから気にしないでいいよ。」
そう言われても、私の脳裏にはばっちりその時の記憶が人生の汚ページとして刻まれている。もう、無茶な呑みかたは絶対しないっ

「めぐが俺の寝る予定の布団で寝ちゃったから、君もこっちのがいいかなって思ったのもあるんだ。で、介抱は俺のがいいとか今井たちが言うから、俺だけこっちに残った訳。」
めぐみちゃんの事、めぐって呼んでるんだ・・・。思い出したくない記憶まで戻ってきて、また気持ちが重くなる。
 「朝まで大分時間あるし、もう一眠りしようか。」
 「・・・はい。」

 国重さんから渡された水を私は重い気持ちと一緒に一気飲みして、布団に戻った。

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