産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生1学期

6月22日(火)晴れ 岸本路子との交流その10

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「産賀くん、その本もう読んでくれてるんだ」

 定番の部活の日。部室へ来た僕がわきに抱える本に岸本さんは気付く。そう、僕は先週勧められた岸本さんの本の一冊を読み始めていた。なぜ部室へ持ってきたかといえば、たぶん今日も創作は進まないから本だけでも読んで何か吸収しようと思ったからだ。

「うん。まだ序盤も序盤だけど、面白くなりそうだね。確か前にも同じ作者さんの本は読んだことあるから間違いないとは思ってたけど」

「わたしもこの先生のシリーズは間違いないと思ってるわ。その本は図書室で?」

「いや、家からちょっと行ったところへ図書館があるんだ。そこの方が冊数が多いから……」

「……う、産賀くんはどの辺りに住んでるの?」

 岸本さんの切り込み方に僕は内心ちょっとだけ驚く。素晴らしく自然な会話の繋ぎだ。誰目線と言われてしまうかもだけど、岸本さんは成長している。

「僕は南中の方で、住宅街だから目立つ建物はあんまりないけど、橋を超えた辺りだよ」

「南中の近くなら……会議室とか入ってる図書館ね。わたしも何回か行ったことあるわ」

「そうなんだ。岸本さんはどこ中?」

「わたしは北中」

 ということは大倉くんと同じ中学か。帰る方向的には真逆になるかな南の図書館へ行った時はだいぶ時間がかかってそうだ。

「産賀くん、話は変わるのだけれど、その……わたしが友達になりたくて気になる子について」

「おお! 何か進展があったの?」

「そうなの! 産賀くんから貰ったアドバイスを参考に体育の授業で毎回ちょっとずつ話してて……今みたいに出身中学の話とか、勉強の話とかもできたわ」

 なるほど。さっきの流れはその時の再現のようなものだったのか。

「それならもう仲良くできてるってことかな。後は体育以外で……」

「そこなの! 産賀くん!」

「えっ? そこって……どこ?」

「そういう体育のちょっとした時間で当たり障りのない会話はできたのだけれど、それ以外の時間で何を話していいかわからなくて……」

「そうかぁ。当たり障りのないこと以外の会話……」

「産賀くん、女子同士の普段の会話ってどういうものだと思う?」

「それは……森本先輩やソフィア先輩に聞いた方が良くないかな?」

 僕の言葉にそれは考えてなかったという反応をした岸本さんはすぐに二人へ聞きに行った。うん。岸本さんは今日も平常運転らしい。天然的な意味で。

 それから数分すると、岸本さんは僕の隣の席へ返って来た。別に僕へ話す必要はないけど、岸本さんの方が報告する気満々だ。でも、フィードバックをしておくと情報を整理できるかもしれないから聞いてあげなくては。

「先輩たちはなんて言ってた?」

「……森本先輩は自分が面白いと思った最近ゴシップ、ソフィア先輩は……こここ、恋バナ……」

 フィードバックしておいて良かった……先輩方なんですかその極端な例!? いや、女子同士の普段の会話知らないから本当にしてるのかもしれないですけど、もっと何かあったでしょうに。

「う、産賀くん……わたし、両方疎いのだけれど……どうすればいい?」

「た、確かに二つとも盛り上がる要素はあると思うけど、絶対取り入れるものじゃないから無理しなくていいと思うよ。それよりも……岸本さんの好きな本のこと、話してみるといいんじゃないかな?」

「えっ!? 本って……でも、相手が好きじゃなかったら、わたしのこと話しても……」

「確かに好き嫌いはあるかもしれない。でも、友達になりたいって思うなら自分が好きなことをちょっとだけ相手に知って貰うのも必要になると思う。僕はして貰った側だけど……高校でできた友達も好きなものを共有してからもっと話せるようになったんだ」

「そ、そういうものなら……」

「それに、本のこと話す岸本さんは楽しそうに話してくれるから聞いてるこっちも何だか楽しくなったよ? 少なくとも悪い気にはならないと思う」

「わたしが……楽しそうに」

 それから岸本さんは少し考え始める。いつか大倉くんが僕にしてくれたように、好きなものを少しでもさらけ出してくれて、二人が悪い関係じゃなければ、そうして貰った側も歩み寄ろうと思うはずだ。だから、岸本さんとその子が本の話をし続けるかは別として、本好きを知って貰うのは新たな一歩になると思う。

「わかった。産賀くんのアドバイスなら、わたしやってみるわ」

「そ、そこまで評価されるのはちょっと恐れ多いけど……応援してるよ、岸本さん」

 その言葉に岸本さんが頷くと僕は安心した。本当に誰目線かよくわからないけど、少なくとも岸本さんの一人の友達として、成功を祈ろう。
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