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本編
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しおりを挟む更新が遅くなってしまい申し訳ありません。忙しさのピークが過ぎたのでこれからはもっと更新頻度を上げたいなと思っております。
目の前にあったか顔は夢の中で見た青年と同じ顔だった。
「あの時の·····」
「そうそう。魔法を使って末っ子くんの夢の中にちょっとお邪魔させて貰ったんだ。」
そう言ってハロルドはルーカスの頭を撫でる。
「いや·····テオのところの末っ子くん可愛すぎないか?ギルなんてこんなことしたら撫でんなって直ぐに怒るぜ?なぁ、テオ末っ子くん俺にくれない?」
「寝言は寝て言ってくれませんか?」
テオドールは顔を引きつらせながら笑った。その顔を見たハロルドは瞬時に黙った。
「ははっ、嘘だって·····な?ほら、立ちっぱなしもあれだし座ろうぜ?」
そうして3人は席につきハンナがお茶を用意するために部屋を出て行った。
「それで、ハルは何しにわざわざ屋敷まで来たの?」
「何って·····一言で言えばアフターケア?だって、こういう時は間を取り持った方が色々といいでしょ?」
改まって兄弟で向かい合って話すとなると確かに緊張する。ましてや、今まで良好な関係を築いてきた訳では無いので余計に話しづらい。
「まぁ·····確かに」
「という訳で末っ子くん?」
「はい。なんですか?」
「テオに文句とか文句とか文句があったら全部言っていいよ!テオが逆ギレしたら俺が止めてあげるから。」
「逆ギレはしない!·····ルーカス、思ってること全部教えて?どんな事でも受け止めるから。」
ルーカスはその言葉に頷いた。しかし、いざ何かを言おうと思うと躊躇ってしまう。
もし自分の言葉でテオドールが傷つけてしまったらどうすればいいのか、嫌われたらどうしよう?など様々な不安がルーカスを襲う。
ルーカスが黙ってしまいハロルドとテオドールはどうしようか迷ったが自然と言葉が出てくるまで待つことにした。
数分の沈黙が続きようやくルーカスが決心をした。
(この間俺と約束したから·····もう、見て見ぬふりをしないって·····そのためにしっかり伝えなきゃ)
ルーカスは押し寄せる不安を耐えるためにギュッと手に力を入れた。そして、重たい口を開いた。
「俺は·····正直、今までの事を許したかって言われたら·····許せないです。」
「うん。」
「だって、今までずっと耐えてきました。冬の寒さも夏の暑さも顔を洗う時の冷たい水、冷えきったご飯それに叩かれた時の痛み·····全部全部1人で耐えてきました。」
「·····うん。」
「誰も喋ってくれない寂しさも·····誰も祝ってくれない誕生日も·····全部1人で·····耐えてきました。」
今までの生活を思い出したルーカスは溢れてくる涙を抑える事が出来なかった。
「なっ·····なのに、·····ごめんねの·····うっ、一言で·····許してしまったら·····今まで·····グスッ·····俺の気持ちは·····っ、どうしたらいいんですか?」
押し寄せてきた感情に耐えきれず、ルーカスは初めて声を上げて人前で泣いた。
テオドールも目の前で苦しいと全身で叫んでる弟を見て涙が零れそうになった。しかし、泣く権利は自分には無いと言い聞かせ必死に耐えた。
そして、隣に座っていたそっとルーカスを抱き寄せた。
「今まで苦しかったよね·····ごめんね。謝る権利が無いのは分かってる·····自分の罪から逃れたいための言葉にしか聞こえないのもわかってる。·····それでも謝らせて。本当に·····ごめんね。」
「·····っ、だったら·····うっ·····あやまらないで·····」
「·····ごめん」
「·····ばか、兄様のバカ!もっと、早く助けてよ」
ルーカスは目の前にいるテオドールの服をギュッと掴んだ。
「本当にそうだよね·····ルーカスはこんなに小さい体で必死に戦ってたのに私は·····バカだ。本当にバカだよね」
そう言ってテオドールはルーカスを抱きしめる力を強めた。腕の中にいる弟はとても細く小さい。こんな身体で寒さも暑さも痛みも悲しみも怒りも·····全て全て1人で耐えてきた。
その事実に改めて気付かされたテオドールは自分の無力さに嫌気がさした。年上で実の兄なのに何もしてこれなかった。自身の保身のためにルーカスに近寄りもしなかった。
謝罪でどうにかなるのであれば何時間でも何日でも何ヶ月、何年でも謝り続ける。しかし、今は謝罪も必要だが1番は誠意を示すことが必要だ。
「ルーカス、私はこれから何があっても君を真っ先に助けるよ。例え君がこの国に対し謀反を起こして追われても私はルーカスを助ける。まぁ、その前にそんな事態にならないようにするけどね。」
テオドールが真剣な顔で言ったその言葉で、モヤモヤとしていたルーカスの心が少し晴れた気がした。
「俺が·····そんなことする訳ないじゃないですか。」
「例えだよ。それ以外にもルーカスが望むなら何だってするよ。ルーカスが幸せになれるように私は全力でこたえる。」
「·····何でも·····ですか?」
「うん。私に出来ることなら何でも。ルーカスが幸せになれるのならお父様やエルドそしてお爺様やお祖母様だって協力してくれる。これからは全員ルーカスの味方だよ。」
「そう言うなら末っ子くん俺も君の味方だ。もし、君が家に居たくないと言うのであればいつでも俺のとこにおいで?王城でいつでも匿ってあげる。」
そう言ってニカッと笑うハロルドと暖かい眼差しで見つめてくるテオドールを見てルーカスは、ようやく止まった涙が再び流れそうになるのを必死に止めた。
「わかりました。もし、俺がこの家に居たくなくなったら遠慮なく家出します。」
「ははっ、それがいい。末っ子くんなんなら今までの鬱憤を晴らすのにテオにグーパン喰らわせてもいいぞ。」
ルーカスは自分の手を見つめた。叩かれたら痛いのは今までの経験からわかっている。きっと叩く方も痛いはずだ。だから、自分は人に手をあげるようなことは絶対にしないと決めていた。
なにより、自分の母親と同じような事は絶対にしないと誓っていた。
「·····叩きません。痛いですから。」
そういったルーカスの顔を見てハロルドはクスッと笑った。
「君は幼いけど大人だね。もっと子供らしくしてもいいんだよ?わがままだって言っていいし時には怒鳴り散らかしたっていい。」
「私が言えるような立場じゃないけど·····ハルの言う通りだよ?」
「·····そうですね。·····頑張ります」
わがままを言うこと、感情を外に出すことを今までしてきたことがない。すぐに出来るとは思えないが少しずつでも自分の思いを外に出して行けるようにしようとルーカスは決めた。
そして、改まってルーカスはテオドールに向き合った。テオドールもまたルーカスを見て真剣な顔になった。
「今までの事は·····まだ許せません。」
「うん。簡単に和解できることでは無いのはわかってるよ。」
「俺のため·····っていうさっきの言葉は本当ですか?」
「本当だよ。偽りじゃない。」
「その言葉·····信じます。だから、これからは俺にしっかり向き合ってください。」
「うん。何があっても見て見ぬふりはしないってここで誓うよ。」
「··········ありがとうございます。··········テオドール兄様」
そう言ってぎこちない笑顔を見せたルーカスにテオドールは目を大きく開けた。
「今·····名前·····呼んだ??」
テオドールのその言葉にルーカスは急に恥ずかしくなりそっぽを向いた。テオドールは何度もルーカスが言ってくれた自分の名前を心の中で繰り返した。
そして、あまりの嬉しさに再びルーカスを抱きしめた。
「ルーカスが名前を呼んでくれるだけで何でも出来そう·····。」
ルーカスを抱きしめながらテオドールは、必ずルーカスを幸せにしようと決意した。先程のぎこちない笑顔も素敵だがもっと自然に笑えるようにしてあげようと決めた。
(いつか·····心からの笑顔を見せてくれたらいいな·····)
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