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薄い紅色の生ハムが綺麗に乗ったサラダの皿を押して、遠慮しないで食っていいぞと言うと、良は素直に嬉しそうな顔をした。
美しいものや未知のものに対する彼の感性は鋭くて、とても活き活きとした顔をしてみせるから、裕司は時折彼の寂しい過去は嘘だったのではないだろうかと思うことがある。
都合のよい現実だけ組み合わせて、目を瞑ろうとしてしまう。
起きたことを受け止めたくない自分に出会う度に、情けなさにため息をつきたくなったが、同時にそんな逃避を起こしてしまうほど良のたどってきた道は不穏な薄暗さをまとっていた。
「──俺そんなに変なこと言った?」
裕司の表情を読んだらしい良にそう訊かれて、自嘲は失笑になって表れた。
「いや、俺の考えすぎだよ」
「へ?」
「俺がお前くらいの歳の頃なんて、のんきなもんだったなぁって」
良は目を丸くしてからぱちぱちと瞬いて、ふうん、と呟いた。
「あんたそんなに俺のことばっかり考えてたら疲れない?」
「うーん……俺も一人で考え過ぎるのはよくねぇなぁと思ってるよ」
すると良は、さっきよりもさらに大きな丸い目をして、裕司を見た。
「なんだその顔」
突然人間に出くわした野生動物のような、何とも言えない驚きを顔に表した良は、何も言わずに裕司を見つめたままピザの残りを噛み始めた。
「おい」
「……だって」
「だって?」
「あんたってなんか……いつも一人でいっぱい考えてるように見えたから」
「そうか?」
「そうだよ」
良の目に自分がどんなふうに見えているのか想像することは難しくて、裕司は頬を掻く。
「そんなに意外なこと言ったか? 俺」
「んん……俺にさらっと言ったのはちょっと意外だったかも……」
良が難しい顔をして言うので、裕司の胸には一抹の不安が浮いてきた。彼に失望されることはいつだって恐ろしい。
だから続いて出た良の言葉には、裕司もまた目を丸くしてしまった。
「あんた、俺にかっこ悪いとこあんまり見せてくんないじゃん」
良はそう言って、サラダに真上からフォークを刺した。皿のこちら側からレタスの小さな欠片が落ちたが、良は気付いていないに違いなかった。
「あんたって謙遜するけど、ほんとにだめなところはうまく隠してる感じがする……隠すって言ったら感じ悪い?」
「いや……」
「俺がガキだから仕方ないなって思ってたけど、言ってくれるんだったら俺はそっちの方がいいな」
「……」
裕司は言葉が見つからなかった。良にそのように思われていたことが、二重にも三重にも驚きだった。
「……普通にかっこ悪いだろ、俺なんか……」
言ってはみたが、口に出した瞬間にはもう言葉が上滑りした感触があった。良はまるで口に入れたものが苦かったかのような複雑な顔をして、首を曲げた。
「あんたはあんたのかっこ悪いとこ知ってるんだろうけど、俺はあんたのいいとこしか見せてもらってなくない? わりと雑なとこあるのはわかるけど、欠点て言えるほどじゃない気がするし……」
裕司は頭の中で言葉を浮かべては打ち消して、なかなか応答ができなかった。良の前で格好をつけたいという気持ちがあるのは確かだったが、実際にそうできているとは思っていなかったし、みっともないところや大人げないところを幾度も見せて、それに愛想を尽かさないでいてくれる良を寛容だと思っていた。
確かに、これまでも良は裕司を過大に称賛することが多かった。ただそれは、美点から短所を差し引いた上での言葉として受け取っていたから、その引き算が行われていなかったとしたら話は別だ。
かあ、と急激に顔が熱くなって、裕司は慌てて顔を伏せる。額を押さえると肌の火照りが感じられた。
「え、何、どしたの」
良の驚いた声がしたが、すぐには顔を上げられなくて、こんなに逃げ場のない気持ちになったのは久しぶりだ、と思った。
「…………いや、お前、俺のどこ見てそんなこと言ってんだよ……」
「は?」
本当にわかっていないという声に、裕司は息を吐く。店の空調が突然仕事をしなくなったようだった。
「いつか正気に返ったら、普通のオッサン過ぎて驚くぞ……」
顔を背けたところで、きっと耳が赤いのも何もかも良の目に鮮明に映っているのだろうと思うとたまらなかった。格好がいいの悪いのと言った先からこの有様だ。
しかし良は空になったスープのカップをおもむろにテーブルの端に置くと、そのまましばし考える間を置いて口を開いた。
「あんたがたぶん普通の人なのは一応わかってるつもりなんだけど、あんたみたいな人に俺が会えたのは普通じゃなくない? 俺のこと好きになってくれて、俺のことばっかり考えてくれて、俺と一緒に暮らしてくれる人で、何でもちゃんとしようとしてくれる人……」
声に引き寄せられるように良を見ると、良は空のカップを見ていて、裕司とは目が合わなかった。
表の窓から射す強い日射しはここまでは届かなくて、良の背景に強い濃淡をつけていた。
異国のような彩度の中で、良はくっきりと黒い瞳に黒い睫毛を少しかぶせて、赤い唇を動かして言った。
「俺もあんたに何でも言えるわけじゃないし、見せたくないとこだってあるから、あんたもそうなんだろうなって思ってるけど……あんたが俺の前でどんだけ格好つけてても、あんたが俺にしてくれてることは格好つけてできることじゃないでしょ?」
美しいものや未知のものに対する彼の感性は鋭くて、とても活き活きとした顔をしてみせるから、裕司は時折彼の寂しい過去は嘘だったのではないだろうかと思うことがある。
都合のよい現実だけ組み合わせて、目を瞑ろうとしてしまう。
起きたことを受け止めたくない自分に出会う度に、情けなさにため息をつきたくなったが、同時にそんな逃避を起こしてしまうほど良のたどってきた道は不穏な薄暗さをまとっていた。
「──俺そんなに変なこと言った?」
裕司の表情を読んだらしい良にそう訊かれて、自嘲は失笑になって表れた。
「いや、俺の考えすぎだよ」
「へ?」
「俺がお前くらいの歳の頃なんて、のんきなもんだったなぁって」
良は目を丸くしてからぱちぱちと瞬いて、ふうん、と呟いた。
「あんたそんなに俺のことばっかり考えてたら疲れない?」
「うーん……俺も一人で考え過ぎるのはよくねぇなぁと思ってるよ」
すると良は、さっきよりもさらに大きな丸い目をして、裕司を見た。
「なんだその顔」
突然人間に出くわした野生動物のような、何とも言えない驚きを顔に表した良は、何も言わずに裕司を見つめたままピザの残りを噛み始めた。
「おい」
「……だって」
「だって?」
「あんたってなんか……いつも一人でいっぱい考えてるように見えたから」
「そうか?」
「そうだよ」
良の目に自分がどんなふうに見えているのか想像することは難しくて、裕司は頬を掻く。
「そんなに意外なこと言ったか? 俺」
「んん……俺にさらっと言ったのはちょっと意外だったかも……」
良が難しい顔をして言うので、裕司の胸には一抹の不安が浮いてきた。彼に失望されることはいつだって恐ろしい。
だから続いて出た良の言葉には、裕司もまた目を丸くしてしまった。
「あんた、俺にかっこ悪いとこあんまり見せてくんないじゃん」
良はそう言って、サラダに真上からフォークを刺した。皿のこちら側からレタスの小さな欠片が落ちたが、良は気付いていないに違いなかった。
「あんたって謙遜するけど、ほんとにだめなところはうまく隠してる感じがする……隠すって言ったら感じ悪い?」
「いや……」
「俺がガキだから仕方ないなって思ってたけど、言ってくれるんだったら俺はそっちの方がいいな」
「……」
裕司は言葉が見つからなかった。良にそのように思われていたことが、二重にも三重にも驚きだった。
「……普通にかっこ悪いだろ、俺なんか……」
言ってはみたが、口に出した瞬間にはもう言葉が上滑りした感触があった。良はまるで口に入れたものが苦かったかのような複雑な顔をして、首を曲げた。
「あんたはあんたのかっこ悪いとこ知ってるんだろうけど、俺はあんたのいいとこしか見せてもらってなくない? わりと雑なとこあるのはわかるけど、欠点て言えるほどじゃない気がするし……」
裕司は頭の中で言葉を浮かべては打ち消して、なかなか応答ができなかった。良の前で格好をつけたいという気持ちがあるのは確かだったが、実際にそうできているとは思っていなかったし、みっともないところや大人げないところを幾度も見せて、それに愛想を尽かさないでいてくれる良を寛容だと思っていた。
確かに、これまでも良は裕司を過大に称賛することが多かった。ただそれは、美点から短所を差し引いた上での言葉として受け取っていたから、その引き算が行われていなかったとしたら話は別だ。
かあ、と急激に顔が熱くなって、裕司は慌てて顔を伏せる。額を押さえると肌の火照りが感じられた。
「え、何、どしたの」
良の驚いた声がしたが、すぐには顔を上げられなくて、こんなに逃げ場のない気持ちになったのは久しぶりだ、と思った。
「…………いや、お前、俺のどこ見てそんなこと言ってんだよ……」
「は?」
本当にわかっていないという声に、裕司は息を吐く。店の空調が突然仕事をしなくなったようだった。
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