サクササー

勝瀬右近

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第1章 第3話 信義

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 いよいよ会戦が始まろうとしていました。
 数百メートルを間において、獣人軍とノスユナイア軍が向かい合っています。


●布陣は以下のとおり。

 最後列には横一列に第八、第十各師団から選抜された弓兵初撃部隊が広く展開。
 そのすぐ前に第十師団の司令官で元帥のヴィッツ=ボーラの部下であるグネウ=コナーブス中佐率いる重装甲歩兵旅団と、第八師団司令官ロマ=ガーラリエルの部下ビットール=イサーニ大佐率いる第1旅団も重装甲歩兵である。この2つの重装甲歩兵旅団が横並びに布陣。二個旅団の総数は3500である。
 この二個旅団を挟むように右左翼に第八師団のカルロ=ゼン中佐率いる巡装甲騎兵旅団2000。突撃狂の異名を持つナバ=コーレル大尉率いる第1大隊を擁する。
 これら3個旅団の後方には、ボーグ=デルマツィア大佐とロマ=ガーラリエル少将自ら率いる重装歩兵二個旅団4500が、魔法部隊約1000名とともに控える。
 そして最後方には後方支援としてヴィッツ=ボーラ大将(元帥)の第十師団の残り全ての兵士、約7600が控える。

 対するグナス=タイア率いる獣人兵は総数で約12000。
 ロマ率いる第八第十混成軍約11000と、ほぼ同数の激突となる。





「おおー。いるいるいやがるぜぇ!」
「獣面が勢ぞろいだ!くかかか!」
「俺たちを初撃部隊に任命とはなかなか味な真似してくれるなあ。あのオネーチャンはよ!なあグネウ!」
兵士のひとりからそう言われたグネウという指揮官らしき男が呆れた顔で鼻息を噴き出します。
「ボーロフ大尉。お前はいつになったら俺を上官として扱ってくれるんだ?」
「かてぇこといっちゃいけねぇなグネウ!親愛の表れって奴さ」
「ったく・・・まあ俺はいい・・・だが他師団の司令官に不謹慎な発言は・・・」
「あーあ!後衛でのんびりできると思ったのによ!これが成功したらサービスしてくれねぇと割に合わんなぁ!ボーロフ?!」
「ああ、たっぷりサービスしてもらおうぜ!」
「あのボイン少将殿のサービスが楽しみってもんだぜ!」
「ボインって言うほどでかくはねぇけどな!」
「俺は小ぶりのボインも好きだぜ!ゲハハ!」
「俺はあの腰つきがたまんね~~~」
「ふひゃはははは!」
 下卑た男達の笑い声がそこらじゅうに響き渡りました。そこへ一騎がやってきます。ナバでした。
「いよう!グネウ!」
 また無礼な下士官がやってきやがったと言わんばかりの表情のグネウ。
「いや、今はこう言っておくか!コナーブス中佐殿!」
「何の用だ!こんなときに持ち場を離れるとはいい度胸だな!コーレル大尉!」
「そうだそうだ!」
「帰れ帰れ!突撃狂!」
「馬鹿の一つ覚えが!!」
 ナバはニヤリとして声を大きくしました。
「うれしいねぇ!俺も有名人になったもんだ!かははははは!」
「図に乗るなよてめぇ!」
「これが終わったらおめぇなんざ袋にしてやる!」
「威勢がいいな雑魚ども!」ナバは非難の嵐をものともせずに大声で言います。
「んだとこらああ!!」
「かまわねぇ!やっちまえ!!」
「女に殴り飛ばされるような腰抜けがぁ!!」
「やめんか!このバカどもが!」グネウ=コナーブス中佐の一喝で騒いでいた兵士たちが一瞬にして不承不承ではありましたが静まり返ります。
 口笛を吹いたナバがコナーブスを見据えました。
「さすが中佐殿」
「もういい。何の用かと聞いたのだ。コーレル大尉」
 グッと睨みつけるコナーブス。
「いやな。隣に俺の部隊が配置されてるのは知っていて・・・だとは思うんだがな」
 今度はナバがコナーブスの部下達をにらみつけ、握った拳を突き出しました。
「たった今俺らの指揮官を侮辱したクソども!この戦いが終わったらこの俺が貴様等にこいつをブチクラワス!くたばってトンづらするんじゃねぇぞ!!」
「上ぉ等だ!」
「てめぇこそ忘れるなぁ!」
 ナバは罵詈雑言怒号が響き渡る中、爆発しそうな怒りを抑えるように口角に力を入れて立ち去りました。
「総員整列!隊列を乱すなぁ!!」
 コナーブスがそう叫ぶとグナス=タイアの軍勢に向けて数騎が前に進み出ました。ゆっくりと。
 数騎は両軍の中央あたりで止まると開戦前の口上を大声で述べはじめました。
 これがいうなれば宣戦布告の合図となり、これがどうなるかで戦端が開かれるか否かが決定されるのです。
「グナス=タイアに告ぐ!奪ったアスミュウムを返還するのなら、我々も温情を持って遇する用意がある!!返答や如何・・・」
 これに対してドーシュは口上を述べた者に魔法攻撃で殺すと言う挙に出たのです。「へ・・・くたばんな」合図を受けた魔法使いの獣人が魔法陣を編み出し、中央から白い光線が放たれると同時に、口上を述べていた兵士が炎に包まれて、あっと言う間にボロ屑のようになって倒れ散りました。
 それを見た先頭にいたコナーブス率いる突撃部隊が激昂、喚声を上げます。
「ぬおあああああ!!?」
「んならあああ!突撃ぃぃぃ!」
「ぶち殺せぇぇぇぇぇ!!!」
 これを合図にロマの突撃命令が全軍に下りました。
「進軍!突撃ぃぃ!」
 攻撃開始のラッパの音が鳴り響き、怒号と地響きと共に両軍が激突。
 グナス側から魔法の白い光線が放出され、コナーブスとイサーニの旅団に直撃。しかし彼等の持つ大型の盾に刻まれた魔法陣の光が輝くと、上空へと攻撃魔法を弾き飛ばしました。空高くいく筋もの軌跡を描いた魔法の力はまっすぐに天空を目指しながらその過程で安定した元素へと分解され、様々な色を放ちながら輝く光の粒へと姿を変えて行きます。

 ヴィッツ=ボーラはその様子を見上げて目を細めました。
「始まったようですな。ボーラ閣下」
「うむ」
「2年前の討伐戦の時は、あの初撃の魔法攻撃でわが軍にかなりの被害が出たようですが・・・」
「今回は・・・」
「・・・・無傷のようだな」
 ボーラはそういったものの表情は厳しいまま崩しません。
「ラットリア=ツェーデル・・・。怖ろしいお方だ。盾にあれほどの防御魔法を篭められるとは・・・」
 すると「ツェーデル院長は2年前にも防御魔法を施しておられます。同等なのでは?」ひとりの下士官が言います。
「中尉。盾に刻まれた防御魔法は同等であろうが、効果は各々の兵士の資質による」
「それはわかりますが、それほど大きく変わるとは・・・」
「思えないか?」
 中尉は当たり前だといわんばかりにうなずきます。
「お言葉ですが、わが軍の兵士はどの師団も選りすぐりです。資質によるばらつきが大きいとは思えません。それが酷ければ作戦に支障を来たすどころの話ではありませんから・・・」
「ふふ・・・」
「幕僚長?」
「いやすまん。ジョブローナ大尉。確かに貴公の言うとおりかも知れんが、兵士の強さは様々な因で変化する」
「と、仰いますと?」
「戦場での士気の上下は指揮官の資質に大きく左右されると言うことだよ。それこそが指揮官の存在理由といってもいいだろうな」
 それを聞いたジョブローナの表情には不服の色が伺えましたが、反論はしませんでした。
「心の折れてしまった者がどんなに強力な魔法防御を纏った盾を持ったとしても、その効果は十全ではない。逆に士気高い心の強き兵士が使うそれは絶対防御に勝る」
 ボーラ元帥がその言葉に付け加えるように言います。
「今戦っている兵士の心に去来している思いは指揮官の信頼に応えようと言う気持ち・・・つまり信義。・・・そしてその信義に応えるに値する指揮官が信頼しているのは三賢者がひとりラットリア=ツェーデル。・・・これ以上望むものは何もあるまい」
 戦場においては指揮官が兵士を強くする。同じ事をしても指揮官によって結果が違うのはそういう理由があるからなのだ。それがわかっていても、戦争は結果が全てだと考えるジョブローナ大尉は、眼前に繰り広げられる戦場に改めて目を凝らし、ユリアス=ロマ=ガーラリエル少将を探している自分に気が付きました。



「あの防御魔法の様子ならあと2~3回は持ちこたえましょうな。ツェーデル女史が味方でよかった」
「充分すぎるほどです幕僚長。忌々しい獣人の魔法使いなど、たいした魔法量を持っていないでしょうからな」
「さもあらんな。言うまでもない」
「まだまだこれから。騎兵はどうしている」
 ボーラが戦線の両翼に視線を走らせます。
「敵の両翼と戦闘状態に入っています。あれは・・・」
「あの剣はナバ=コーレル大尉だな」
「突撃男か」
「聖魔剣ハーバルウォッケン。あれは目立ちますからな。ガルバ殿はお知り置きか」
「王国軍で知らぬものはおりますまい?」
 ナバの剣は通常の剣より刀身の幅が広く、少しだけ長いものでした。しかし聖魔剣ハーバルウォッケンの遠目からでもはっきりそれとわかる特徴として、霊牙力を剣に纏わせるので戦いの最中は常にボヤっと光を放っているのです。
「驚くべきはコーレルの霊牙力の底のなさよ。あのような魔剣を戦場で使うなど自殺行為にも等しいというのに・・・」
 ジョブローナは戦場で光るハーバウウォッケンを見つめながら言いました。
「ガルバ幕僚長。コーレル殿はアレを何処で?」
「ああ。ジョブローナ大尉は知らなかったのか」
「知ってはいましたが、まさか本当に魔剣とは・・・」
「そうか。・・・話によれば先祖代々受け継がれてきたものらしい。出所ははっきりせんが、嘘か真か、失われた種族の塔の守り主を倒すことによって得られる・・・」
 ジョブローナは笑いながら言いました。
「幕僚長、まさかその話を信じているのですか?」
 ガルバは鼻から息を軽く噴き出しました。
「嘘か真か・・・といったであろう?信じる信じないはさておき、言い伝えによれば塔の守り主を魔法によって変化させたのがあの剣・・・という事らしい」
「馬鹿げた迷信です。失われた種族が遺した七つの塔は探検家や卑しい発掘屋共に全て探索しつくされて、そこには確かに化け物が、今現在も巣くっていますが、守り主などいないことがはっきりしています」
 ジョブローナは少し興奮気味に話をつづけました。
「確かに失われた種族の塔は有史以前から存在している謎めいた遺跡です。しかしこの世に隠された七つの剣のひとつ・・・など、自分の剣に箔をつけたいが故の方便にきまってます」
「ずいぶん噛みつくではないか大尉」
 ジョブローナはハッとして笑顔を作りました。
「す・・・すみません。そんなつもりは・・・わたしはただ真実が知りたかっただけで・・・」
 ボーラ元帥が話を切り上げにかかります。
「いずれにしてもコーレルの強さが本物であることは確かだ。強い者には誰もが憧れ嫉妬する。剣にまつわる話もコーレル自身ではなく、誰かが面白半分に言いふらした戯言だろう」
 自分もそう思う。ジョブローナは心で思い、うなずきました。
 そしてガルバがボーラに言います。
「ガーラリエル少将お墨付きの巡装甲騎兵旅団ですか・・・。団長のカルロ=ゼン中佐は有能な男と聞いています」
「あの突撃狂の手綱を取るのは骨が折れよう」
「ああ!」
 ジョブローナが思わず声を上げると全員が戦線に視線を向けました。
 数百の獣人兵が遠方からまるで飛ぶように大きく跳躍する姿が見えました。「あの攻撃で前回は戦線が大きく乱されたのだ!」一同が息を呑んで様子を見据えています。
 跳躍力では人間の比ではない獣人の最も得意な戦法でした。敵の真っ只中に着地し、その体躯を生かした攻防力で戦線を攪乱するのです。
 敵陣の中に飛び込むなど人であればまずもって躊躇するであろう攻撃方法は獣人ならでは。何処かから手に入れた鎧が彼等の厚い獣毛とあいまって更に防御力を上げているため、隊列を組んで戦術を組み立てる人間の兵士にとって、飛び込まれると非常に厄介な攻撃でした。
 しかし獣人が飛ぶことをわかっていたかのように隊列を組んだ重装甲歩兵達は大きな盾を上空に向けて構え、亀甲防御の体制をとります。
 それを見た獣人兵は嗤(わら)いました。
「盾で魔法は避けられるだろうが、バカめ!そんなやわな板切れなど踏み壊してくれる!!」
 体重が数百キロとも言われる獣人がそのまま落下しながら蹴撃体勢をとりました。すると兵達の盾の間からキラッキラッと光が放たれたのです。「なにぃ!?」次の瞬間、攻撃体勢で落下していた獣人たちが次々と吹き飛ばされてしまったのです。
「なんと・・・。あんな場所に魔法兵を・・・」
「奇策だな・・・だが危うい・・・一匹でも着地させてしまえば、いかに装甲兵に守られていても軽装の魔法兵では・・・」
 幕僚長ガルバの言葉通りに、いくつかの場所で着地を許してしまったのか、戦線が混乱しているのが見て取れました。
「コナーブス!」
 着地した獣人兵に切りかかったのは旅団長であるグネウ=コナーブス中佐でした。隙を見た十人あまりの兵が獣人に向けて槍の攻撃を繰り出し、串刺しにされた獣人兵は元居たグナス勢の方へと排除されたのが見えました。
 仲間の死体を見て怒り狂った獣人兵たちが更に飛び込んできますが、物理攻撃防御魔法を施した重装甲に阻まれ、魔法兵の攻撃で敢え無く倒されてゆきます。
「我が方の魔法兵が戦線を離脱してゆきます!」
「魔法力が尽きたか・・・」
 ボーラは表情をより険しくして思いました。
”キンゼー=ガーラリエルが死んだのは次の攻撃への展開が上手くいかなかったからだ。ロマ・・・いけるか・・・”
 魔法兵の離脱によって重装甲歩兵のみの攻撃になったとたんに戦線が押され始めたのが見えました。氷壁が剥がれ落ちるように兵士が倒され始めましたがそれでも持ちこたえています。
 いったいこれからどうするつもりなのかとボーラの周囲の幕僚達が固唾を呑んだそのとき、獣人たちがまた跳躍攻撃を始める態勢をとり始めたのです。
「ボーラ閣下!」
 ガルバは援護を進言しようとしました。が・・・。
「まて!何だあれは・・・」
 ボーラが目を見開きました。
 軽い地響きとともに岩が地面からせり上がり、舞台のようなものが現れました。高さは人の身長の三倍程度というところです。
「なんだあれは・・・」
「上に人がいます!馬鹿な!アレでは狙い撃ちされてしまう!」
 次の瞬間、ボーラの周囲で響動(どよめき)が起こりました。
「おお!」
 大きな魔方陣が4つ5つと現れ、獣人兵の群れに向かって無数の氷の矢が雨あられのように軌跡を描いたのです。それによって跳躍しようとしていた獣人も吹き飛ばされ、押されていた味方の装甲兵たちが息を吹き返しました。
「なんと!」
「なんと強力な攻撃魔法だ」
 獣人の群れがあちらこちらで吹き飛んでいる様が見て取れました。
「まさかツェーデル殿か?!」
「まさか!」
「いや!違う!あれは三賢者ではない!」


「小賢しい!!打ち落とせ!!」
 獣人の中でもひときわ魔法力のある者達がやぐらの上に向かって魔術の印を切り結びました。「俺の全力を食らわせてやる!」数箇所に現れた魔法陣の中央から太い光の束が岩の櫓の上の魔法使いに一直線に放たれたのです。
 魔法力がつきかけている獣人とはいえ、複数集まれば凄まじい力になります。
「やはり!」ジョブローナが一歩乗り出します。
「まだ魔法力を残していたのか!」
「まずい!これはまずいぞ!」
 遠距離からでもわかるほどの熱量が複数の方向から櫓上の魔法使いに向かっているのがわかりました。
「炎熱魔法か!」
 岩のやぐらを見ると、魔法使いの前に仁王立ちするものがありました。
「誰だ!あれは!!」
「ガ!・・・ガーラリエル少将!?あれはガーラリエル少将です!!」
「無茶だ!吹き飛ばされるぞ!」
「よせ!!死ぬ気かロマ!」
 ボーラも思わず叫び、一歩踏み出します。
 櫓の上の舞台に居た魔法使いは「ガーラリエル様!無茶です!やめてください!」叫びました。
 振り向きもせずロマは大きな盾を突き進んでくる光の束に向けて構えます。
 どおおんという大音響と共に、熱を伴った光の筋が天空へと直線を描き、一瞬にして元素へと還元された炎熱の還元物質がものすごい爆風とともに四方に巻き上がりました。あまりの音の大きさに最前線に居た獣人兵や重装甲歩兵たちが一歩退きます。
 そしてそれが合図であるかのようにラッパが高らかに鳴り響いたのです。
「戦線離脱!重装甲兵は後退!!ひけひけええええ!!!」
 それは見事としか言えない光景でした。
 戦線の最前列に居た重装甲歩兵たちが海の潮が引くように後方へと下がるその隊列の間から入れ替わりで無傷の重装歩兵旅団が現れたのです。
 それを見ていたボーラは瞬きすることも出来ないほどに目を見開いて言いました。
「ロマ・・・」ボーラは己の老いを感じざるを得ませんでした。「見事・・・」そして思ったのです。
 自分で言っておきながら恥ずかしい。ロマのラットリア=ツェーデルに寄せる信義は自分が思っているよりずっと深く大きい。本人が自覚しているかどうかは計り知れないがユリアス=ロマ=ガーラリエルの強さは自分の想像をはるかに超えた並々ならぬ信義と強い覚悟に裏打ちされてのことなのだ、と。

 岩の舞台の上の魔法使いが叫びます。
「ガーラリエル様!」
 仁王立ちの後ろ姿のロマの持っていた盾が、鉄のよじれるような嫌な音を発すると施された魔法防御の力が尽きたのか、バキンッとまるで断末魔の声を上げるかのように真っ二つに割れました。そして材質が分厚い金属であるにもかかわらずまるで土くれが崩れるように崩壊してしまったのです。炎熱魔法による攻撃のすさまじさがうかがえました。
「ガーラリエル様!血が!」
 ロマは振り返って微笑みました。
「すまないタニア。読み誤った。ラティに叱られるな」
 ロマの右腕を覆う手甲の間から僅かに血が滴り落ちていましたが。彼女は背負っていた大刀の柄を握ります。剣を背中に留めてあった帯剣金具がそれに反応するように左右に開いて外れると、大きな剣を軽々と抜き構えたのです。
 それを見た兵士たちから意気上がる喊声が沸き起こります。
 爆風で逆立った短い乱れ髪を直そうともせず肩越しに振り返ってロマは言いました。
「だがお前は見事だったぞタニア。良くやった。後方に下がっていろ!」
 そう言うと岩のやぐらから飛び、一回転して着地。そのまま重装歩兵たちと共に獣人の群れに向かって突進していきます。それを見送るタニアの隣にいつの間にかやって来た魔法使いがロマに向けて手を差し伸べると、白い光のオーラがロマを包み込みました。
「クオーラ」
 タニアにクオーラと呼ばれたその男は「せっかちな将軍様ですね」そう言ってタニアをチラリと見ると彼女を促します。
「さ、ここは危険ですローデス少尉。後方へ」
「ありがとうクオーラ」
 礼の言葉は自分を気遣ったことにではなく、ロマに治癒魔法をかけたことに対してでした。
「これが私の仕事です」
 心配そうな表情でタニアはロマの武運を願い、踵を返しました。





 タニア=ローデスの遠距離魔法攻撃とによって甚大な被害を被(こうむ)り、疲弊した獣人軍に今度は無傷の重装歩兵の攻撃が始まり、敵は徐々に勢いをそがれ始めていました。そこに騎兵部隊による遊撃がさらに追い打ちをかけます。
「俺に続けぇ!」
 十数騎のナバ率いる巡装甲騎兵小隊は突撃力を生かした攻撃で獣人たちを翻弄していました。
「こしゃくなチビ人間どもめが!どけどけぃ!」
 そこに現れたのはひときわ大きな体躯を持った獣人です。ナバたちの前に立ちはだかりました。
 ナバの狩る馬は大きな頭に短い角が数本生え、硬い鱗に覆われた体は獣人ほどに大きくまるで装甲のような皮膚を持っていました。決して足は速くありませんでしたが、その突破力は並みの怪物を凌ぎます。それを知りながらも現れた獣人はナバの前に身構えたのです。
「出てきやがったな大物が!」
 獣人は物凄い雄たけびを上げ、突撃してくる戦車のような馬をその身で受け止めたのです。ゴズンという鈍い音とその反動で馬から放り出されたナバは最初からわかっていたかのように獣人の頭を飛び越えて着地しました。
 獣人は主を失った馬の首をひねりあげて殺すと振り返りざまに叫びます。
「死出の旅路の土産に覚えておくがいい!我が名は三武帝がひとりバイエヌ!俺の前に出てしまった不運を呪うがいい!」
 バイエヌと名乗った獣人は自分の身と同じ大きさの馬を渾身の力でナバに向かって投げつけると同時に大きな爪を振り上げ、地響きを立てて突進してきました。
「マシュラのひ弱な人間め!引き裂いてやる!!」
 さっきまで自分が乗っていた馬が飛んでくるのを避けたナバは名乗りを上げました。
「我が名はナバ=コーレル!死ぬのはてめぇの方だ!バイエヌ!」
 まるで上空から振り下ろされた大斧のように獣人バイエヌの爪がナバを襲います。
「なめるなぁぁぁ人間がぁぁっぁあ!!!」
 ギインという硬質な音が響き渡り、勝ち誇った笑みで顔を歪ませたバイエヌは次の瞬間に表情をひくつかせました。
「こ・・・・こしゃくなああ・・・。うおあああああああ!!」
 ナバは聖魔剣ハーバルウォッケンでバイエヌの巨大な爪を受け止めたのです。それを見て怒り狂ったようにバイエヌが再度凶刃を振り下ろしました。
「食らうかあ!うすのろがぁ!」
 爪が地面に突き刺ささり、舞い上がった土ぼこりの中からバイエヌの笑い声が聞こえてきました。
「ガァハッハッハア!!久々に血が滾るわ!!この愚かなマシュラは俺がやる!誰も手を出すなあああああ!」
 ナバは突撃狂の名に相応しい応答をバイエヌに返しました。自分の倍は在ろうかと言うバイエヌに突進したのです。
 魔法が使えない戦士がもつ特有の力の源でもある闘気のオーラ、霊牙力がナバの体全体から湧き出るように自らを包み込み始め、時間と共にハッキリと輝きを増しました。気合の雄叫びと共に剣と爪が打ち合わされ、それと同時に霊牙力が四方に風圧を生じさせたのです。
 お互いの武器が打ち合わされるたびにどおんという轟音と風が巻き起こり、砂を舞い上げます。
「おおおおああああああ!!」
 バイエヌが放った横殴りの爪牙(そうが)に、それを受けた剣ごと吹き飛ばされてしまったナバは土ぼこりを上げながら転がってゆきます。
「くたばったかマシュラ!!」
 ナバは口内の砂を吐き飛ばすと改めて剣を構えました。その目は爛々と光り輝き、やる気充分でした。「まだまだあああ!!」
「そうこなくてはなぁ!!たっぷりと俺の力を味わわせてやる!」
「ほざけ巨大猫が!」
 バイエヌとナバが怒声を上げて激突した時を同じくして、ロマを含む重装歩兵隊は。
「ぬがああ!」
 まさに族長に相応しい巨躯を現したグナス=タイアが重装歩兵の1人を殴り飛ばし、ロマの前に立ちはだかったのでした。
 グナスはギロリとロマを睨みつけると、すぐに彼女を指差して吼えるように言いました。
「その徽章!貴様がガーラリエルの娘だな!」
 そういうが早いか、爪牙をロマへ叩き込みます。それをひらりと避けるロマ。何度かその攻防が続くとロマはグッと目の前の巨体を見上げました。
「どうした、ガーラリエルの娘よ。我はグナス=タイア!!仇を討ちに来たのであろう?わしが憎くないのか?!」
「私は私怨では戦わない!」
 一瞬呆れた顔をしたグナスは蔑むように笑いました。
「クックック・・・グァハハハハハハ!きれいごとを!ならば死ねぃ!!」
 グナスは更にロマへ攻撃しながら叫びます。
「わしの爪が怖いか!所詮きさまら人間共はひとりでは何も出来んひ弱で半端な存在よ!どうあがいても勝てんのだ!我の力を思い知るがいい!!」
 グナスはそう言って身構えると全身に力を篭め、邪悪な気を体中に溜め込みました。
「!」
 それに気がついたロマは咄嗟に傍に落ちていた盾を拾い上げて身構えました。
「があぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
 グナスの咆哮は炎の槍となって兵士たちを襲ったのです。骨も残さない高温の炎は重装の中身を一瞬で灰燼にし、主を失った鎧がガラガラと音を立てて崩れ落ち、転がります。
「灰となったか!愚かなりガーラリエル!!」
 グナスがそう言って見おろすと一枚の盾が目の前に立っていました。その盾が高熱によって崩れ落ちると同時にそこから跳躍した影。無傷のロマでした。
「おおお!」
 重装を身に着けていながら霊牙力によってグナスの身長を超えて飛び上がり気合と共に剣を振り下ろすロマ。それを受けたグナスは彼女の剣圧に押されてしまったことに驚きます。
「!ぐっ!ク!」
 受けた腕を押し戻すようにしながら反対の腕の爪牙でロマに攻撃を繰り出しましたが軽い身のこなしでロマはそれを避けて着地しました。
 ロマはこのとき内心で葛藤していた自分自身に怒りを覚えて思わぬことを口走ります。
「聞いたほどではないな」
「なに!?」
「聞いたほどではないといったのだ!グナス=タイア!」
 これは仇討ちではない。
 彼女はボーラから言われたその言葉をわかっていても抑えきれていない自分に苛立っていたのです。
 そしてロマの放った言葉は当然グナス=タイアの怒りを倍増させました。顔に怒りを充満させてロマに何度も爪牙を叩き込みます。
「殺してやる!!殺してやるぞ!ガーラリエルゥゥ!!!微塵に刻んでくれるわああああああ!」
 グナスの何度目かの攻撃を避けた時に機を見たロマは一気に反撃に転じました。今度は霊牙力を輝かせたロマがグナスを押し始めたのです。そして幾度かの打ち合いの末、バキンという音の響きと共に、グナスの大きく鋭い爪が一本折れ飛びました。



 後方からその様子を伺っていたボーラが言いました。
「各々方!時が来た!」
 その言葉でガルバ幕僚長が叫びました。
「作戦開始!魔法隊を防護しつつ全重装兵は前進せよ!絶対防御準備!」
 男達の喊声が響き渡り、魔法兵を伴った重装兵たちが前進を始めました。
 戦いの主導権は完全にノスユナイア軍の物になっていました。先刻重装歩兵と入れ替わって後方に下がったヴィットール=イサーニ大佐とグネウ=コナーブス中佐率いる重装甲歩兵が左右に展開し、獣人軍包囲が完了していたのです。

「おのれ・・・おのれガーラリエル!小賢しいマシュラの小娘がぁぁ!」
 グナスは天空に向かって吼えると、そのまま口から炎の槍を吐き出し、ロマに向かって突進したのです。
 怒り狂ったグナスの吐き出す炎を飛び越え、叩き入れた一撃はグナスの頭部を覆う兜を直撃しました。グラリと揺らぐグナス=タイア。
「その兜!質が悪いな!なぜ盗んだアスミュウムで作らなかった!?」 
 ロマは少し興奮していたのか、自分でも思っていなかった皮肉を吐きました。一歩後ずさりして踏ん張ったグナスは怒りに顔を紅潮させ、口を開いて炎を吐き出そうとします。しかし。
「きさ・・・きさ・・・ま・・・ころ、殺して・・・」
 魔法力が尽き、炎が吐き出されることはなかったのです。怒りが心頭に達したグナスはロマにとびかかろうと突進しました。
「ぬがあああああああああ!!」
  ここでロマは勝機を見ます。
「グナス!覚悟!!」
 突きの体勢でグナスへと突進。
  高揚感と確信と怒り、そして奇妙な満足感。全てがロマの体を駆け巡り支配しました。
 が。
  剣がグナスに届くと思った瞬間、グナスを突き飛ばしてグナスのいた位置でロマの剣を突撃を受けたのは。
「ドォォーシュ!!!」
「兄者・・・。撤退だ・・・逃・・・げろ・・・」
 ドーシュから素早く剣を引き抜いて後退するロマを憎憎しげに見ながらドーシュは言いました。
「口惜しいが・・・この女・・・兄者では・・・。・・・だが・・・只では帰さんぞ。ガハッ!」
 血を吐きながらグナスの弟ドーシュは自らの鎧を掻き捨てて胸を露出させました。そこにあったものを見てタイアが叫びます。
「ドーシュ!貴様まさか!!」
「タイア一族の誇りを見せてやる!!ガーラリエルの娘よ!思い知れ!!」
 ドーシュの異様な気迫にハッとして何かを感じたロマ。更に一歩後退して剣を構えなおしました。

 一方、ナバとバイエヌは睨みあい、ナバがまた突進しようとした、そのとき。
 ゴオンという音を上げてバイエヌが馬に突撃され吹っ飛びます。
「ゴア!」
 唖然としているナバの目の前で更に一撃、そしてまた一撃。さすがのバイエヌも不意を食らう形で馬十数頭による連続の体当たりには耐え切れずに、弾かれ土ぼこりを上げて転がってゆきました。
 ナバはその光景を見て憤怒の表情で視線を動かします。
「てめぇ!邪魔すんなぁあゼン!」
「ナバ!ここまでだ!!」
 その言葉の意味するところは、この闘いは終わりだと言うことでした。
「未だ終わってねえ!!」

「終わりだガーラリエル!」
 そう叫んだ時背後にいた兵士たちから声がかかりました。
「ガーラリエル閣下!」
「こちらは片付きました!」
「助勢します!」
 振り返ったロマは自軍の兵士の人数の多さに戦慄しました。
「だめだ!来るな!撤退だ!下がれ!下が・・・・!!」
「ククク・・・死ねや糞共が・・・はーっはっはっはっはっはっはあああああ!!」
 ドーシュが呟くと同時に乳白色の光の壁があちこちで現れました。それは戦線を分断するための絶対魔法防御の光です。しかしロマの背後で声をかけた魔法使いは間に合わなかったのです。ドーシュの胸にある赤い玉が輝きもせず一気に膨れ上りました。
「うわああああ!!!」
 ロマは叫び声を上げて腕を自らの胸の前で交差させました。ロマの霊牙力の光が収束すると腕に魔印が浮かび上がり、そこから放出された光が羽のように広がったと同時に、ドーシュから膨れ上がった赤い邪悪な光球が爆発してしまったのです。
”ラティ!お願い!私に力を!”

 戦線後方から見ていたボーラは驚愕しました。
「な・・・何が起こった!!なんだあの赤い光は!」
「馬鹿な・・・あれは・・・あれは魔法爆発です!絶対防御を!!」
「魔法爆発だと?!何が起こったのだ・・・・絶対防御は・・・」
「退避!退避ぃぃ!!」
「ボーラ元帥!魔法爆発の余波がこちらに向かっています!退避してください!!」
 ボーラのいる場所からは、既に展開されていた絶対防御壁魔法の白い光の壁の間を爆風が地面をそこにいた兵士ごとめくり上げながら吹き飛ばして広がってゆくのが見えました。そしてそれはボーラの立っているその場所へと向かっていたのです。
「元帥!」
 ボーラは何かに気がついたかのように手を軽く上げて制し、前方を見据えました。迫る地殻の津波が本隊に届くと思ったその時、そこに絶対防御壁が現れたのです。
 タニアが最後の魔法力を振り絞って絶対防壁魔法を展開させていました。「ガーラリエル様が・・・」彼女の魔法力は限界を迎えていて、この巨大な魔法爆発に耐えられるかどうか彼女自身わかりませんでした。しかしそのとき自分の中に新たな力がわきあがってくるのを感じ、ハッとして振り返るとそこには。
「クオーラ・・・」
 タニアはにっこりと微笑みます。
「ありがとう」
「礼には及びません。これも仕事です、少尉」
 クオーラは無表情のままタニアへ自分の魔法力を与え続けました。
 やがて瓦礫が破壊されるような大きな音を上げて魔法爆発の爆風が絶対防御壁にぶちあたると、爆音を響かせ上空へと進路を変え、地殻と共に四方へと散っていったのです。

 しばらくして砂埃が晴れると、爆発の凄まじさを物語る大きな爪あとが現れました。ドーシュのいた爆心からノスユナイア軍に向けて扇上にめくれ上がった地面に一筋の道が出来上がっています。
 その道の先に立っていたのはロマ。彼女が交差させている腕の魔印が鈍く光っていました。それがしばらく明滅していましたが、フッと消えるとロマは左右を見、放心した表情で虚空を見つめました。
「なんて事・・・。私は・・・何と言うことを・・・してしまっ・・・」
「ガーラリエル様ぁぁぁ!!!」
 後ろから騎兵の一団が近づいてきて、その中の一騎に同乗してやってきたのはタニアでした。
「ガーラリエル様!」
 馬からタニアが下りると同時にロマは精根尽き果て、膝から崩れ落ちるように倒れこみ、昏倒してしまったのです。

 この魔法爆発でノスユナイア王国軍第八師団は重装歩兵約1000名を瞬時に失い、作戦の結果は成功とも失敗とも判別し難いものとなったのです。
 ノスユナイア王国軍が獣人を圧倒していたのはボーラ大将率いる後方支援部隊から見ても確実なことです。
 頃合を見計らい、絶対防御壁による戦線の遮断で戦略的撤退という作戦は、魔法爆発という思わぬ反撃で混乱をきたしましたが、概ねではうまくいったと言えました。
 この戦いは過酷な実地戦闘訓練なのです。獣人を滅ぼす必要はありません。痛手を与えて怖れさせ、追い返しさえすればよかったのです。
 図らずもロマの考案した戦術と同じであったマクリエル=キンゼー=ガーラリエルの考案した戦術は確かに獣人相手に有効でした。
 痛手を与えることでは作戦は成功したと言えます。しかし、実施したユリアス=ロマ=ガーラリエル少将の率いる兵士たちが強すぎ、結果として自決覚悟の攻撃を決意させる程に獣人を追い詰めてしまった事は想定外の出来事でした。
 魔法爆発でノスユナイア軍に甚大なる被害が齎(もたら)され、この機に獣人たちが態勢を立て直して再度襲い来ると思われましたが、全ての獣人兵はもとより、長であるグナス=タイアが傷つき、そしてなにより弟ドーシュを失った事がグナス自身の戦意を喪失させていたのです。
 獣人たちは絶対防御壁を見るや、バラバラと撤退してゆきました。
 神稀鋼塊(アスミュウムインゴット)を回収することもせず大山岳地帯につながる深い森の奥の、その更に奥へ。


第1章 第4話に続く>>>>>>>>>>>>>




情報◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【魔法力】
魔法は無限に使えるわけではなく、魔法量という限界値がある。
一般に『強い魔法使い』というとこの魔法力が大きい者をさすが、どんな魔法使いであれ魔法力が尽きれば魔法は使えなくなる。
魔法力は体を休めることによって回復するが、限界まで魔法力を放出すると完全に回復するまで2~3日、長い者で5~6日かかってしまうので、必ず余力を残すのが普通。
自動車で例えると、魔法力は排気量、魔法量はガソリンタンクである。
さらに魔法圧と言う単位があるが、この二つの関係は水流と水圧の関係に似ている。

【霊牙力;れいがりょく】
魔法使いは魔法力を持っているが、魔法を使えない剣闘士や戦士は霊牙力という自分の力を何倍にも増加させる能力を持っている。この霊牙力が強い者が戦士(兵士)に向いている。
しかし魔法力に限界があるように霊牙力にも限界がある。尽きてしまえば通常の戦闘力だけとなる。
この力は体の各部に集中させることでその部位のみに力を増幅させることもできる。

【魔法印】
防具に施す魔力が宿った文様。
この印を施すと防御力が上乗せされるが衝撃相殺なので防御回数に限界がある。
印を施すのが強力な魔法使いであればあるほど防御回数が増える。
また、その回数や規模は使用者の霊牙力にも左右される。
ロマの重装鎧には三賢者のひとり、ラットリア=ツェーデルの魔法印が施されていたということもあるが、彼女の霊牙力と相まってグナス=タイアの弟であるドーシュ=タイアが捨て身で放った巨大な魔法爆発にもなんとか耐えることが出来た。

【絶対防御魔法】
魔法によって生成される、いかなる攻撃も受け付けない防御壁。
壁の形やドーム型などいくつかタイプがあるが魔法力消費量が膨大な為に長時間維持することが出来ない。その上この魔法を使った魔法使いは移動することが出来なくなるため、魔法力が枯渇した途端に敵の攻撃に晒されるという弱点があり会戦においては撤退時に使うぐらいである。
戦闘中に使うことは戦術上愚策とされている。

【魔法爆発】
魔法の源となる元素を急激かつ過剰に反応させて爆発させる強力な黒魔法だが、きっかけとなる媒体(起爆体)をあらかじめ作っておく必要がある。使用した者はまず助からないという黒魔法の為、全ての国で禁術となっている。
爆発には指向性がある。

【馬】
この世界の馬は牛を巨大化させたような容姿を持つ。足が短いため速度はそれほどでないが、持久力と突撃力に優れている。通常は単騎での戦闘はせず最低でも小隊単位の集団で行動する。
普通騎兵は馬に乗ったまま戦うが、状況によっては下馬して戦ったり、二人乗りで戦うこともある。

【炎熱魔法】
獣人が得意とする火炎系の攻撃魔法だが、獣人だけが使えるというわけではない。
強力な魔法使いのものになると半径500mに被害を及ぼすほどの巨大な火球を飛ばすことも出来る。

【魔法量の譲与】
治癒魔法を使う魔法使いだけが行える魔法量回復魔法。当然だが自分の魔法量を分け与えるのでそれが尽きれば譲与はできなくなり、魔法も使えなくなる。

【帯剣金具】
剣を背負うのがこの世界では当たり前となっているが、その時に剣を固定する器具。
どのように固定するかというと、形状記憶合金のように形状を瞬時に変えることで固定する。
ジェミン族が失われた種族の技術を応用して開発したいわゆる人機融合技術。
遠い昔に発掘された失われた種族の機械に魔法力を注ぎ込み金属を通すことでこの動作が生まれることを知ったジェミン族が用いたのが最初。実際に失われた種族がどのようなことに使っていたのかは不明。
蝶番で動作するのとはわけが違い金属の塊が分子構造を変えて曲がる、捩れるなどの変形するので継ぎ目は一切ない。異様な金属の動作に一時は金属が意思を持ったとまで言われたが、実際は一定の動作しかしないのでそれを応用するのは簡単だった。

神稀鉄鋼アスミュウムが触れると動作するためアスミュウム合金の剣であることが条件だが、多寡はあるものの刀剣類は全てアスミュウム合金であることが当たり前なので剣であれば動作するといって問題ない。
そして使用しているうちに『馴染み』という現象が起こるらしく、馴染むと別の剣が触れても動かなくなるという特性も持っている。どうしてかはわからないが、だいたいひと月程度で馴染むらしい。剣を変えるときには溶解して作り直し、前述の機械に通しなおすことで解決できるため使用されなくなった帯剣金具は収集され再利用される。。
作り方は意外と簡単で、初めに剣の形に成型したもの(デザインは様々、たいてい軽量化を重視して作る)を作って、前述した機械を通すと棒状に変形する。その変形したものを叩くかプレスして(溶かす削るは厳禁。温めるのはOK)剣が当てやすい形に成型して完成。

剣はこの帯剣金具が開発されるまで腰に下げて帯刀していた。以前から大型の剣はあったがこのような事情から持つ者が少なかった。しかしこの帯剣金具の普及で剣を背負うようになってから剣の大型化が進み、一般化した。
この刀剣拘束具は通常鎧に装着されているものだが、そのほかに体に装着したハーネスにこれを装備して使う物など、服装に応じた種類がいくつかある。
この金具の締め付けは意外と強く、この衝撃に耐えられずに折れてしまうような剣はナマクラといわれている。

この金属改質機ともいえる失われた種族の遺した機械は世界中で発掘されるが形も大きさも様々で、一番大型のものはノスユナイア王国の同盟国であるレアン共和国にしかなく、当然門外不出となっている。レアン共和国にはそれを使った防壁などの防衛設備がある。

これをさらに応用して鎧に活かせないかと考えた者がいたが、鎧は金属だけで作られるわけではなく、裏あては布や皮だったりするので無理がある。それを無視できたとしても鎧は通常使用者に合わせてフィッティングするので当然オーダメイド。関節という動きもある。前述した金属を成型して機械を通して改質し、さらに叩いて成型する、という手間が加わるのはコストの増大を招く。大量生産に向かない。コンパクトにはなるが重さが変わるわけではないのでありがたみが少ない。発動条件がアスミュウムの接触なので、馴染まないうちは思わぬところで発動して危険。このように諸々の手間だけで済まない問題が多数噴出した為いくつか作ったところで諦められたらしい。


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