イケメンってズルいと思う。

サクラギ

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 一ノ瀬が離れて、咲と目が合ったことがある。
 すっごく誇らしげに笑まれて、小さくなる自分の心が、酷く弱く思えて、嫌になった。

 そういうのあると、好きとか、付き合うっていう行為が、ますます遠くなって行く。
 あの日、夜の店で一ノ瀬に会ってしまったから、店にも行きにくい。
 っていうか、そういう行為にまで億劫になってて、一ノ瀬の残したものが大きくて、嫌になる。

 それからすぐに就活が始まったし、今住んでいる場所から通勤しやすい所を選んでいたのに、寮のある場所にしようかとか、いっそ都会に出て行こうかとか、考えるようになった。

 一ノ瀬と行動範囲が被るの、嫌だったから。

 資料室で、一ノ瀬とすれ違った。
 手にしている会社紹介パンフの、所在地を見られた気がして、ドキッとする。
 すでにひと月、話していない。
 夏季休暇に入っていて、そんなに大学で会うなんて思っていなかったから、油断した。

 油断したと思って、廊下に出て、気にしすぎだと思う。
 俺がイヤだ、嫌いだって言ったから、もう一ノ瀬は近づいて来ない。

 ……それなのに。
 バイトの終わりとか、何となく辺りを見てしまうのとか、スマホの画面、気にしてしまうとか。

 咲と一緒のところ、見たくないから、しばらく周囲気にせず歩いたり。
 無駄な努力。
 そういうのしている間、忘れられていないんだなって、考えて、落ち込む。

 夜、夢で一ノ瀬を見る。
 すごい甘い夢の時と、女と一緒にいる時だったり。
 その時々で違うけど、胸の傷みは一緒だ。

 甘い夢見て目覚めると、ひとりが空しくなる。寂しいと思う。
 女と一緒だったり、振られる言葉言われたり、そういうの見ると、悲しい。

 就活も大変だけど、感情の持って行き方も、難しい。
 だから、嫌だった。
 好きな人、欲しいけど、就職先決まって、そのあと、長く付き合える相手が欲しかった。
 だから最初、一ノ瀬を拒んだのに。
 俺が甘い。流されやすい。
 だから嫌だ。

 でもさ、って、最終的に思う。
 最後に女を選べる相手は、ムリだっていうこと。
 子供が欲しいって言われたら、俺には太刀打ちできないから。

 そういうの考えると、付き合うの、ムリだって思う。

 単純に好きだっていう感情だけでいられた高校の頃が懐かしい。
 当時はすごく苦しくて、好きを持て余して、感情を別の場所にぶつけていたっていうのも、あるのだけど。

 過去なんてサイテーだと思っていたのに、今では懐かしく思うくらいに、時間が経った。
 ハズなのに、あまり変わっていない自分に気づいて、嫌な気分になる。

 あの時の先輩は、俺をひどく抱いたけど、実は頭良くって、優等生で、少なくとも学校の目立たない場所でああいう行為に及ぶような、人じゃなかった。

 特殊な、男が好きっていうのを抱えるのって、お腹の中にドロドロしたもの、溜まるんだろうなって思う。
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