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「そんな女、無視して、コウの傍にいればいいのに、シンだって未練あるんでしょ?」
久しぶりに来た夜の店に、ハナを見つけて、ホッとする。
カウンター席の隣に座って、ハナに愚痴を言う。
ハナにはたった1月会わないのなんて普通のことだったのに、妙に懐かしく感じた。
「もう別に良いかな。そんな深入りしてないし」
嘘だけど、そう言っていないとやっていられない。
「コウは? ホントあのひと、シンのこと、追いかけてたのに」
「っていうか、ハナ、コウに俺のこと、話したの?」
しかもベッド事情とか。ありえない。
「あーね、うん、でも良いでしょ? シンの悪口、言ってないよ? だってシン、すっごい優しいし」
腕に手を絡められ、頬を肩に寄せられる。
すっごく可愛い。
女に触られると鳥肌が立つのに、女の子よりも可愛いハナに触られるとほわんとする。
そういう性だ、仕方がない。
「今日、良いよ? いく?」
可愛くハナに誘われる。
でも、残念ながらその気はない。
「ごめん、ハナ、まだそんな気になれないよ。胸ん中、もやもやしてて」
「あーごめんね、シンちゃん、話し聞くから、早く元気になってね」
「うん、ありがとう、ハナ、だいすき」
んって可愛いキスをする。
触れ合うだけのキスは挨拶のようなもの。
可愛いハナだったら、いくらでもできる。
……のに。
ハナと引きはがされるように、肩を掴まれる。
睨み上げると一ノ瀬で、ハナに誘われて、少し鬱憤が晴れたのに、また厄介な気持ちが溢れる。
「もう良いのか? ハナを抱くのか?」
「ケンカ? こわーい、ぼく、イヤだからね」
ハナが隣で怯えるから、お金をテーブルに置いて、席を立った。
店を出て、少し歩く。
後ろを一ノ瀬がついて来ている。
あの日から、10日くらい経った。
陰口を言われることもなくなった。
ただ、俺がゲイだってことはバレてる。
みんなの興味が別に移っただけだ。
咲と一ノ瀬が付き合ってる。そういう興味へ。
実際、ふたりが仲良さげに歩いているのを何度か見た。
これが残念ながら、本当に似合っている。
咲が楽しそうで、一ノ瀬も楽しそうで。
これで良かったんだと思える。
でも、本心は別で、自分が透明になったような、誰にも必要のない人のような、そういう虚しさがある。
あの日々は何だったのか、わからなくなる。
「もう俺が何してたって、良いだろ?」
歩きながら、少し後ろにいる一ノ瀬に言う。
だって、一ノ瀬だって咲と付き合ってる。
怒るのなら俺の方で、一ノ瀬じゃない。
でも怒らないんだから、そっとしておいてほしい。
そのうち、忘れるから。
「時間、欲しい」
「イヤだって」
手を引かれて、暗がりに引き込まれる。
壁に背中を押し付けられて、強引なキスが襲う。
遅いよ、一ノ瀬。
もう、遠い。
「━━━、ふ、う、んっ……、い、や、イヤだって……」
腕を掴んで引き離そうとしたら、歯がぶつかって、切れた。
口の中に血の味がする。
俺の? 一ノ瀬の? わからない。
「あの人と付き合ったんだろ? だったら俺なんて追いかけて来るなよっ」
「いやだ」
強引に抱き締められる。
なぜ?
なぜ、一ノ瀬が泣いてる。嗚咽が聞こえる。
「いやなんだ、離れたくない」
「もう、遅い、おまえ、女と付き合ってる。付き合えるんだろ? だったらその方が良い。世間の目とか、将来のこととか、悩まなくて済むだろ? 俺は、ムリ。一生、女はムリだから、一ノ瀬とは違うから、だからもう、追いかけて欲しくない、すげえイヤ、すげえ嫌い」
女に触れられて、吐き気がする俺と、腕を組んで笑い合っていられる一ノ瀬とは、違う。
女ができたからって振られるの、二度はムリ。
そういう未来が想像できてしまう、一ノ瀬はムリだ。
久しぶりに来た夜の店に、ハナを見つけて、ホッとする。
カウンター席の隣に座って、ハナに愚痴を言う。
ハナにはたった1月会わないのなんて普通のことだったのに、妙に懐かしく感じた。
「もう別に良いかな。そんな深入りしてないし」
嘘だけど、そう言っていないとやっていられない。
「コウは? ホントあのひと、シンのこと、追いかけてたのに」
「っていうか、ハナ、コウに俺のこと、話したの?」
しかもベッド事情とか。ありえない。
「あーね、うん、でも良いでしょ? シンの悪口、言ってないよ? だってシン、すっごい優しいし」
腕に手を絡められ、頬を肩に寄せられる。
すっごく可愛い。
女に触られると鳥肌が立つのに、女の子よりも可愛いハナに触られるとほわんとする。
そういう性だ、仕方がない。
「今日、良いよ? いく?」
可愛くハナに誘われる。
でも、残念ながらその気はない。
「ごめん、ハナ、まだそんな気になれないよ。胸ん中、もやもやしてて」
「あーごめんね、シンちゃん、話し聞くから、早く元気になってね」
「うん、ありがとう、ハナ、だいすき」
んって可愛いキスをする。
触れ合うだけのキスは挨拶のようなもの。
可愛いハナだったら、いくらでもできる。
……のに。
ハナと引きはがされるように、肩を掴まれる。
睨み上げると一ノ瀬で、ハナに誘われて、少し鬱憤が晴れたのに、また厄介な気持ちが溢れる。
「もう良いのか? ハナを抱くのか?」
「ケンカ? こわーい、ぼく、イヤだからね」
ハナが隣で怯えるから、お金をテーブルに置いて、席を立った。
店を出て、少し歩く。
後ろを一ノ瀬がついて来ている。
あの日から、10日くらい経った。
陰口を言われることもなくなった。
ただ、俺がゲイだってことはバレてる。
みんなの興味が別に移っただけだ。
咲と一ノ瀬が付き合ってる。そういう興味へ。
実際、ふたりが仲良さげに歩いているのを何度か見た。
これが残念ながら、本当に似合っている。
咲が楽しそうで、一ノ瀬も楽しそうで。
これで良かったんだと思える。
でも、本心は別で、自分が透明になったような、誰にも必要のない人のような、そういう虚しさがある。
あの日々は何だったのか、わからなくなる。
「もう俺が何してたって、良いだろ?」
歩きながら、少し後ろにいる一ノ瀬に言う。
だって、一ノ瀬だって咲と付き合ってる。
怒るのなら俺の方で、一ノ瀬じゃない。
でも怒らないんだから、そっとしておいてほしい。
そのうち、忘れるから。
「時間、欲しい」
「イヤだって」
手を引かれて、暗がりに引き込まれる。
壁に背中を押し付けられて、強引なキスが襲う。
遅いよ、一ノ瀬。
もう、遠い。
「━━━、ふ、う、んっ……、い、や、イヤだって……」
腕を掴んで引き離そうとしたら、歯がぶつかって、切れた。
口の中に血の味がする。
俺の? 一ノ瀬の? わからない。
「あの人と付き合ったんだろ? だったら俺なんて追いかけて来るなよっ」
「いやだ」
強引に抱き締められる。
なぜ?
なぜ、一ノ瀬が泣いてる。嗚咽が聞こえる。
「いやなんだ、離れたくない」
「もう、遅い、おまえ、女と付き合ってる。付き合えるんだろ? だったらその方が良い。世間の目とか、将来のこととか、悩まなくて済むだろ? 俺は、ムリ。一生、女はムリだから、一ノ瀬とは違うから、だからもう、追いかけて欲しくない、すげえイヤ、すげえ嫌い」
女に触れられて、吐き気がする俺と、腕を組んで笑い合っていられる一ノ瀬とは、違う。
女ができたからって振られるの、二度はムリ。
そういう未来が想像できてしまう、一ノ瀬はムリだ。
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