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3章

7 獣人保護法契約解除

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 ボートを降りて待っていたのは黒塗りのリムジンで、車の脇に立つ者の姿を見て、志津木は体を硬らせた。

「どういう事だクリス! 俺をハメたのか?」

 クリスは振り向きもせず、二台あるリムジンの後方に乗り込んで行く。
 視界の先に立つ男が笑む。咥えているのはキャンディバー。志津木の上司である纐纈 刃コウケツ ジンだ。
 リムジンの運転席の窓が開く。中から覗いたのはシェンエンで、ニヤッと笑んで志津木の気を苛立たせた。

「そう怒るなよ、俺たちは純粋におまえを迎えに来ただけだろう?」

 独特な笑い方が志津木に嫌な記憶を呼び戻させる。あの海での戦闘で、志津木に致命傷を負わせたのはシェンエンだ。

「大丈夫だよヨウ、彼からヴォルフの残香がする。きっとさっきまで一緒にいた」

 志津木の手を引くニアを志津木の動かない手が止める。

「信用するのか? あいつは俺のいた組織の上司だ。あの運転席のヤツは俺を撃ったヤツだ。俺は嫌だ。二度と戻りたくない」

「ヨウ、僕はヴォルフに会いたい。会って、生きているって確かめたい。お願い、ヨウ」

 クイっと手を引かれ、困惑が続く中、行動をニアに決められている。リムジンに乗せられ、ドアが閉まる。幸いは後部座席にニアと二人だけになれたこと。ジンは助手席に行ったようだった。

「状況が飲み込めない」

 高級な革シートの柔らかな座面に座り、前屈みで髪をかき上げため息を吐く。クリスの登場にさえ訳が分からなくて混乱したのに、今度はジンにシェンエンだ。彼らもニアを狙い、志津木を排除しようとしていた。それなのに手を組んでいるのか? それとも利害の一致か? とりあえずニアが無事で居られるのなら文句はないが、急に味方だと言われても納得出来ない。
 さらにニアに乳兄弟がいると言われた。だが志津木は信用ができない。向こうの世界で身内に裏切られたのだ。ニアは甘い。けれど不安ばかりを植え付けたくはない。
 ニアはそんなに大事な乳兄弟の存在を忘れていた。チップの影響だろう。では異世界にいた時は? 一言も乳兄弟の話などしなかった。だが思えば最初の異世界転移の話も聞いていない。転移に必要な条件に王族と聖気がいるという話も。

「この国の空気はアダマス国と似ている」

 ニアが窓を開けて外を見ている。防弾ガラスになっている筈だ。すぐに窓を閉める様に言うと、ニアは困った様に笑った。

「神経質になってる?」

 ニアの言葉に不満を持つ。
 すでにニアは警戒を解き、頭の中には乳兄弟の事しかないのだろう。目的地に近づいて行く事に気持ちを逸らせている。

「俺にとってここは未知の場所だからね」

 獣人の国に人としている事の意味。連れられて行く先の不安。相乗りしている者への不信感。側に居るのに遠いニアの気持ち。志津木はここにいる意味が分からない。ニアの身に危険がなく、志津木の隣ではない場所に居場所が出来たのなら、一緒にいる意味はない。
 獣人保護法は、人の国での法で、獣人の国では意味を成さない。
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