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3章

6 着岸

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 太陽が真上に昇った頃、ボートから陸が見えた。
 それはまるで未来都市のような、不思議な造りの港で、それこそ異世界に迷い込んだ様に思えた。

「これは、壮観だな」

 志津木はニアと共に立ち、ボートから港を眺めている。

「ヨウ、僕も初めて来た」

「うん」

 自然と手を繋いだ。
 出会ってからさして長く共にいる訳でもないのに、二人の繋がりは深くなっている。何度も危機を乗り越えて来たからかもしれない。

「ヨウ」

 ニアの手がギュッと志津木の手を握る。握られたのでニアの横顔を見た志津木は、決意を持つ様なその表情に、不安を持つ。

「僕は、本当にいろいろ忘れていたみたい」

 不安に思いニアを見ている志津木を見遣ったニアは、志津木の中の不安を感じ取り、大丈夫だと言うように笑む。志津木も笑む。この先になにがあっても、ニアが幸せになれるのなら、志津木に不満はない。

「ヨウ、僕には乳兄弟がいた。とても仲の良い血のつながらない兄弟が」

 ニアの表情に笑みが浮かぶ。

「名前はヴォルフ、この先の国のどこかにいる。そんな気がする。僕は異世界に来る時、ヴォルフと共にいた。なんで忘れられたんだろう?」

「そうか、——それは良かった。出会えると良いな」

 ニアに抱きしめられる。
 志津木の内側は複雑だ。ついさっきまで二人きりの世界に浸っていた。なのにニアには仲の良い乳兄弟がいるという。その事実を聞かされた志津木は、この先に志津木の存在はいらないと言われたような、寂しさを感じてしまった。けれど顔にも態度にも出さない。ニアは想う通りの幸せを得るべきだ。

「ありがとう、ヨウ。ヴォルフと出会えたら紹介するよ」

 ニアは岸が近づくに連れ、気持ちが落ち着かなくなっている様だ。ワクワクとした横顔を盗み見て、胸を傷める。ずいぶんニアを内側に入れていたのだと、志津木は自身の想いを胸にする。
 ボートが港に着く。ゆっくり近づき、ボートを停泊させると、クリスが降りる様に指示を出し、志津木とニアは手を繋いだまま動き出す。

「一緒に会いに行こう、ヨウ。ここは獣人が暮らす獣人の国だよ」

 ボートから見える港はとても近代的だ。その向こう側に見える街並みは、高級なホテル群で、その先には高層ビルが建ち並んでいる。港で働く者の姿は獣人ばかり。人と同じ姿に耳と尾がある。種族は様々で、体格もいろいろだ。それは異世界のアダマス国を思わせるが、服装が違う。服装は現代の志津木の暮らしていた世界のもので、海軍を思わせる制服の者もいる。

「これが獣人の国?」

 志津木の記憶の中にあるのは、新聞の記事とニュース番組のキャスターが伝えた言葉だ。
 世界で初めて王が獣人の国が認められた。それは大陸のどこかにあり、正確な位置は公表されていない。世界の富豪と呼ばれる者達が獣人の国を守っていると噂された。一般には知る事も立ち入る事も出来ない国だ。それが今、志津木の前に広がっている。奇跡の投影かと志津木は思った。
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