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17 諸悪の根源

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 大窓を背にした位置にデスクがあり、ソファセットを通り越し、その前に立つ。

 社長は虎の獣人で、完全人化が出来るのに、あえて耳と尾を残し、威圧をわざとらしく出して、能力の高さを誇っている。ジム通いが趣味で、辺境に行ってはロッククライムや滝登りを楽しんでいるらしい。見た目も派手な嫌なタイプだ。

「第二経理部のアレスを連れて来ました」

 課長に紹介され、頭を下げる。

「君がアレスか」

 上から下まで観察されて、居心地が悪い。社長の手が上がり、人払をされた。それにより課長が部屋を出て行き、秘書も社員も部屋から出て行った。

 本気で冷や汗をかく。
 特に失敗はしていないはずだ。社に迷惑をかけるような事も身に覚えがない。

「ジラル領の領主と懇意にしているのは事実か?」

「ジラル領、ですか」

 これはどっちだ。
 隠すべきか、正直に話すべきか。
 ただ思うのは、ウォルが領主なのかということだ。営業だと聞いている。まさかとは思うが、私の知り合いにジラル領の者はウォルしかいない。

「孤児院にいたミルルとユートという名の子どものことは?」

 表情を殺しながら、両手を握りしめる。これは、あれだ。間違いなく私の敵だろう。

「ジラル領の領主が何か」

 自分に発破をかけ、気合を入れる。

「君には必要のないモノではないのかね?」

 社長は幾つだ? すでに60歳目前ではなかったか。妻がいて、息子がいて、孫までいる。

「必要のないモノ、ですか」

 胸が痛い。
 ミルルを蔑めていたひとりだと言うのか。

「私の事業に損失を与えるなど、社員としてどうかと思うが?」

「……と言いますと?」

 コイツ、もしや未成年のうちから育て、成人を迎えたら買い、経営する風俗で働かせているのか?

「まあ良い、ジラル領の領主に会ったら言っておけ、私に刃向かえば領ごと潰すと」

 嫌な笑みを見せられた。

「それはどうですかね? 私では何とも」

「クビを覚悟の発言か?」

 社長が何か合図を送ったのだろう。奥のドアから護衛が出てきて、詰め寄られ、襟首を掴まれた。虎の獣人だ。社長の親類かもしれない。

「子どもに手を出しているのですか? それはこの国の法律上、有罪に当たりますが?」

 護衛に殴られ、ソファに背を打ち付けた。掴み上げられ、もう一発食らう。

 妙な笑いが腹の底から湧き上がった。

「クビで良いですよ。貴方の元では働く気も失せる。忠告させてもらいますが、犯罪者をのうのうと生かしておくような国ではないですよ?」

 情けないが私ではどうにも出来ない。
 負け犬の遠吠えとはよく言ったものだ。

「おまえに何ができる。社会的に抹消されるのを楽しみに待つが良い」

 社長の手が追い払う動作をし、護衛に掴まれて立たされ、部屋から連れ出された。

 廊下に放り出され、絨毯に膝をつき、切れた唇から流れる血を拭った。

 これはどうしたら良いのか。
 軍の詰所に駆け込んだ所で信用問題だ。あれだけきっぱりと悪事を露呈させたと言う事は、すでに証拠は隠蔽済みなのだろう。

 ただ思うのは、二人を助けられて良かったということ。

 成人を待っていたら、二人とも売られてしまっていたかもしれない。
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