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71 救出
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紘伊は中央区の外れの人を隔離して住まわせる地区にいた。竜の背に乗って見た王城はとても近く感じたのに、馬車の中の牢に閉じ込められてから体感1時間以上は揺られている。
気分の悪くなったトオルは横になって耐えているし、外に出て逃げようという気力もない。
獣人のいい相手が出来て、側にいて萌えられたらいいなぁくらいの感覚で獣人を求めていたあの頃には考えられないくらいの現実に晒されて——かといって元の世界にも知らないだけで深く獣人が関わっていた事はもう分かっている。これ以上、悪用されないように世界を繋いでいた道を閉ざした。最初はただ伴侶を得る為に繋がりを持った人と獣人の可能性だったのに。
馬車が大きく揺れて馬のいななきが聞こえ、叫ぶような獣人語が聞こえて来る。
「なに?」
半身を起こしたトオルが紘伊を見る。紘伊にだって分からない。さあ? と首を傾げて見せた。
薄ら入って来ていた日差しはなく、空気が冷えて来ていたから夜になっているだろうと思っていたが、馬車の幌が引き裂かれて、外気に晒されるとは思っていなかった。
急激な戦場の間に身を置いている。馬上にある兵が紘伊たちの前に立っているから、その向こうの様子は分からないが、幌が吹き飛んだと同時に牢の上部が壊れている。格子に組まれた上部と布がなくなれば、空には星が瞬いているし、強く吹く風が髪を乱れさせた。
「ヒロイ!」
名を呼ばれてビクッと反応した。でも声では誰か分からない。敵か味方か。ハーツではないとだけは分かる。それでも牢に大人しく入っているのは違うと感じて、トオルの手を引いて壊れた牢の隙間から馬車を降りた。
兵の槍が紘伊とトオルの動きを止める。獣人語が聞こえるが何を言っているのか分からない。
「動くな、戻れって」
トオルが言う。
「獣人語が分かる?」
紘伊が聞くとトオルが頷く。もっと早く教えてくれたら良いのにと思いつつ、状況に警戒し、神経を研ぎ澄ませている。
地面を駆る音と同時に悲鳴が聞こえ、目の前の兵が馬から落とされた。馬が前足を上げていななき、方々へ駆けて行く。開けた視界の先には屈強な獣人が騎馬していて——その中にキースがいた。
「走れ、ヒロイ!」
キースに言われてトオルと共に前へ向かう。言われたように走れない代わりに、キース達が駆けて来てくれた。
キースと一緒にいるのは、竜の領へ同行してくれたヴィルだ。ヴィルが馬上から手を差し伸べ、トオルの腕を掴む。紘伊はヴィルとタイミングを合わせてトオルを馬上に押し上げる。紘伊はキースの手を借りてキースの乗る馬上に引き上げてもらった。
「怪我はないか? 遅くなってすまない」
キースの気遣いの言葉を聞いて、紘伊の存在が獅子族には見限られていない事を知る。
紘伊たちの周囲では、獅子族が中央軍を退けている。その光景を見て根拠のない安堵に包まれた紘伊だ。だけど知らない獣人の馬に乗せられたトオルは怯えている。
「トオル、大丈夫、気を強く持って」
並走して走ってもらってトオルに告げる。獅子の獣人ヴィルの膝の間に座らされ、後ろから囲うように腕に包まれている格好のトオルは今にも失神しそうだ。
「ウェルズ領へ帰ろう、ユウが待っている」
キースに告げられ嬉しくなる。図書館で会った子どもたちの姿を思い出して幸せだった時を思い出した。これでやっと意味のわからない状況から解放される。ハーツが来ていない意味は今は考えない事にする。
気分の悪くなったトオルは横になって耐えているし、外に出て逃げようという気力もない。
獣人のいい相手が出来て、側にいて萌えられたらいいなぁくらいの感覚で獣人を求めていたあの頃には考えられないくらいの現実に晒されて——かといって元の世界にも知らないだけで深く獣人が関わっていた事はもう分かっている。これ以上、悪用されないように世界を繋いでいた道を閉ざした。最初はただ伴侶を得る為に繋がりを持った人と獣人の可能性だったのに。
馬車が大きく揺れて馬のいななきが聞こえ、叫ぶような獣人語が聞こえて来る。
「なに?」
半身を起こしたトオルが紘伊を見る。紘伊にだって分からない。さあ? と首を傾げて見せた。
薄ら入って来ていた日差しはなく、空気が冷えて来ていたから夜になっているだろうと思っていたが、馬車の幌が引き裂かれて、外気に晒されるとは思っていなかった。
急激な戦場の間に身を置いている。馬上にある兵が紘伊たちの前に立っているから、その向こうの様子は分からないが、幌が吹き飛んだと同時に牢の上部が壊れている。格子に組まれた上部と布がなくなれば、空には星が瞬いているし、強く吹く風が髪を乱れさせた。
「ヒロイ!」
名を呼ばれてビクッと反応した。でも声では誰か分からない。敵か味方か。ハーツではないとだけは分かる。それでも牢に大人しく入っているのは違うと感じて、トオルの手を引いて壊れた牢の隙間から馬車を降りた。
兵の槍が紘伊とトオルの動きを止める。獣人語が聞こえるが何を言っているのか分からない。
「動くな、戻れって」
トオルが言う。
「獣人語が分かる?」
紘伊が聞くとトオルが頷く。もっと早く教えてくれたら良いのにと思いつつ、状況に警戒し、神経を研ぎ澄ませている。
地面を駆る音と同時に悲鳴が聞こえ、目の前の兵が馬から落とされた。馬が前足を上げていななき、方々へ駆けて行く。開けた視界の先には屈強な獣人が騎馬していて——その中にキースがいた。
「走れ、ヒロイ!」
キースに言われてトオルと共に前へ向かう。言われたように走れない代わりに、キース達が駆けて来てくれた。
キースと一緒にいるのは、竜の領へ同行してくれたヴィルだ。ヴィルが馬上から手を差し伸べ、トオルの腕を掴む。紘伊はヴィルとタイミングを合わせてトオルを馬上に押し上げる。紘伊はキースの手を借りてキースの乗る馬上に引き上げてもらった。
「怪我はないか? 遅くなってすまない」
キースの気遣いの言葉を聞いて、紘伊の存在が獅子族には見限られていない事を知る。
紘伊たちの周囲では、獅子族が中央軍を退けている。その光景を見て根拠のない安堵に包まれた紘伊だ。だけど知らない獣人の馬に乗せられたトオルは怯えている。
「トオル、大丈夫、気を強く持って」
並走して走ってもらってトオルに告げる。獅子の獣人ヴィルの膝の間に座らされ、後ろから囲うように腕に包まれている格好のトオルは今にも失神しそうだ。
「ウェルズ領へ帰ろう、ユウが待っている」
キースに告げられ嬉しくなる。図書館で会った子どもたちの姿を思い出して幸せだった時を思い出した。これでやっと意味のわからない状況から解放される。ハーツが来ていない意味は今は考えない事にする。
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