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67 着地場所
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巨大な竜のそばに竜族が付き添うように飛んでいる。その光景をオーギュに守られる体勢で竜の背に乗っている紘伊の心中は複雑だ。
竜族はこの国の王に背く事なく竜の領地を治めたのではないのか。新たな領主として治める事を推したハーツの友人であるデュオンがここにいる状況の意味が紘伊には理解が出来ない。
彼らは紘伊の理解など気にもせず、獣人語で話している。時に笑い声が聞こえ、軽口のような響きもあった。声は近づく者から発せられ、遠くの者とは意思で会話をしているようだ。
王城へ向かっているのかと思えば迂回をするように方向を変える。巨大な竜が中央区を迂回したが、城壁からは確認されたようで、場内の騒がしさが兵の動きで分かる。分かるくらいの高度で飛ぶのは、わざとだろうか。
「降りるぞ」
オーギュは紘伊の腹を抱え、風に舞うように竜の背から飛び降りる。紘伊は叫ぶ間さえ与えられず、荷物のように運ばれる。紘伊の意思などお構いなしだ。
滑空して来たデュオンの足に手を掛けたオーギュは、落ちるスピードを落とし、上手い具合に畑の真ん中に着地をした。続いてデュオンが降りて来る。見上げれば巨大な竜と竜族の十数名は中央区を迂回して南下して行く。竜の領地に戻るのかもしれないと紘伊は思う。
長屋のような民家が左右に連なる中央の畑の中に立った紘伊は、この地区が壁で覆われている事を確認した。壁の上には乗り越えられないようにする為だろう、有刺鉄線が張り巡らせてある。等間隔にある防犯カメラは紘伊の国の技術だろう。ここは刑務所だろうか。だとすれば兵がいる筈だ。
「ヒロイ?」
呼びかけられて振り向く。長屋のドアが開いていて、そこに人が立っている。その向こうにも人が数人顔を出した。マサキだ。思わず駆け寄ろうとする所をオーギュの手に止められた。
「どういう事だ? おまえは味方なのか? それとも彼らをどうにかしようと連れて来たのか?」
振り返ってオーギュを見れば、紘伊の脇を通ってデュオンが強い足取りでマサキに向かう。止める隙などなく、思考もうまく回らない間にマサキの前にデュオンが立った。思わず息を飲む。悪い想像しかできなかった。だけどデュオンはマサキの前に膝をつき、俯いた。まるで王族の前にひれ伏すような態度だった。
「マサキ、すまなかった」
デュオンの言葉に困惑する。
マサキの両手が固く握られて、震えている。
「別に、気にもしてなかったよ」
そう言うマサキの目には涙が溜まっていて、瞬きと共に流れて落ちる。
デュオンが震えるマサキの手をそっと掴み、引き寄せて甲に唇を寄せた。
「どう言う事?」
紘伊のつぶやきに答えたのは、ウンザリしているとポーズを取ったオーギュだ。
「そう言う事だろ」
納得はできないが、マサキの相手はデュオンだった? どこかの一般の竜族に娶られたのだと勝手に思っていた紘伊はなかなか認識が改められないでいる。マサキは伴侶とされた竜族に相手にもされなかったんじゃなかったのか。理解ができないでいる間に、目前ではマサキとデュオンが抱擁をしている。かなりの身長差があって、マサキはデュオンに抱きついて、彼の胸に顔を押し付けて泣いている。でも背に回ったマサキの手がデュオンの服を握っている所を見ると、会いたかったのだろうなと思えた。
竜族はこの国の王に背く事なく竜の領地を治めたのではないのか。新たな領主として治める事を推したハーツの友人であるデュオンがここにいる状況の意味が紘伊には理解が出来ない。
彼らは紘伊の理解など気にもせず、獣人語で話している。時に笑い声が聞こえ、軽口のような響きもあった。声は近づく者から発せられ、遠くの者とは意思で会話をしているようだ。
王城へ向かっているのかと思えば迂回をするように方向を変える。巨大な竜が中央区を迂回したが、城壁からは確認されたようで、場内の騒がしさが兵の動きで分かる。分かるくらいの高度で飛ぶのは、わざとだろうか。
「降りるぞ」
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滑空して来たデュオンの足に手を掛けたオーギュは、落ちるスピードを落とし、上手い具合に畑の真ん中に着地をした。続いてデュオンが降りて来る。見上げれば巨大な竜と竜族の十数名は中央区を迂回して南下して行く。竜の領地に戻るのかもしれないと紘伊は思う。
長屋のような民家が左右に連なる中央の畑の中に立った紘伊は、この地区が壁で覆われている事を確認した。壁の上には乗り越えられないようにする為だろう、有刺鉄線が張り巡らせてある。等間隔にある防犯カメラは紘伊の国の技術だろう。ここは刑務所だろうか。だとすれば兵がいる筈だ。
「ヒロイ?」
呼びかけられて振り向く。長屋のドアが開いていて、そこに人が立っている。その向こうにも人が数人顔を出した。マサキだ。思わず駆け寄ろうとする所をオーギュの手に止められた。
「どういう事だ? おまえは味方なのか? それとも彼らをどうにかしようと連れて来たのか?」
振り返ってオーギュを見れば、紘伊の脇を通ってデュオンが強い足取りでマサキに向かう。止める隙などなく、思考もうまく回らない間にマサキの前にデュオンが立った。思わず息を飲む。悪い想像しかできなかった。だけどデュオンはマサキの前に膝をつき、俯いた。まるで王族の前にひれ伏すような態度だった。
「マサキ、すまなかった」
デュオンの言葉に困惑する。
マサキの両手が固く握られて、震えている。
「別に、気にもしてなかったよ」
そう言うマサキの目には涙が溜まっていて、瞬きと共に流れて落ちる。
デュオンが震えるマサキの手をそっと掴み、引き寄せて甲に唇を寄せた。
「どう言う事?」
紘伊のつぶやきに答えたのは、ウンザリしているとポーズを取ったオーギュだ。
「そう言う事だろ」
納得はできないが、マサキの相手はデュオンだった? どこかの一般の竜族に娶られたのだと勝手に思っていた紘伊はなかなか認識が改められないでいる。マサキは伴侶とされた竜族に相手にもされなかったんじゃなかったのか。理解ができないでいる間に、目前ではマサキとデュオンが抱擁をしている。かなりの身長差があって、マサキはデュオンに抱きついて、彼の胸に顔を押し付けて泣いている。でも背に回ったマサキの手がデュオンの服を握っている所を見ると、会いたかったのだろうなと思えた。
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