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66 竜の背

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 思い当たる節が多すぎて、紘伊は自分で言った言葉に傷ついていた。短時間でも心変わりはある。状況に応じて態度を変えなければならない瞬間も。ただ紘伊の側にいたハーツの事は疑っていない。少なくとも自分の領にいる親類や友の子どもまで道具にするような事はしないと言い切れる。

「見放されたって分かっているなら、俺の味方になってくれても良いんじゃねえ?」

 悪かったという意思表示なのか、オーギュは押し倒した紘伊の体を引き上げる為に手を差し伸べて来る。紘伊はその手を無視して自分で起き上がった。ここ数日、体の至る所を打ちつけているし、慣れない乗馬で身体中が傷んでいる。起き上がってみたものの、足がガクガクして普通に立っているのか自分で自分がわからないでいると、オーギュの手が紘伊の脇を支えて木の幹に座らせてくれた。

「無理するなって、——俺が無理させてるのか」

「……別に、俺が頼んで連れて行ってもらっているので」

 ありがとうとは言いたくない。でも嫌な相手とはいえ頼っているのは紘伊だ。置いて行かれると困るという打算もある。

「味方って言うけど、詳細知らされずに言われても、何も答えられないし、どうして良いのか分からない」

「聞く? っていうかさ、この状況で俺の言う事聞かねえってナシだろ」

 オーギュが空を仰ぐ。葉に切り取られた空に影が通り過ぎ、大きく風が枝を揺らした。馬がいななき、紘伊は風から身を守る為に俯いて腕で顔をかばった。

 オーギュが馬の尻を叩き、木々の隙間を走らせる。鞍を外していたのはこの機会を待っていたからだと気づいても、紘伊にはどうしようもない。

「最初から——」

 紘伊の言葉は続かない。それよりも先にオーギュの腕にさらわれた。腹に腕を回され、まるで荷物のように脇に抱えられて運ばれている。

 結局、紘伊の理解など必要がないのだ。上空を飛ぶ者とオーギュは獣人語で話している。間には距離と風があるのに、さして大声でもないオーギュと、木々の隙間から見える翼を持つ者は話が通じているらしい。

 森が開ける。山の中腹にあたる木々が途切れた場所で、高度を落とした翼を持つ者の足にオーギュが飛びつき、オーギュとオーギュが抱える紘伊ごと上空へ舞い上がった。さらにはその者を待つように巨大な生物が上空を優雅にも見える姿で飛んでいて、生物の上へ上昇した翼の者の足から手を離したオーギュは、気流など関係もないように飛び降りて、生物の羽と羽の間に着地をする。

 上空から見れば中央区などすぐそこに見える。ふたつ山を越えた先、土と草の大地に領区を囲う壁と街が幾つか通り過ぎた先に、王都を囲う壁と王城が見えている。

 紘伊はただ向かう先を見ている。手をついた所が竜の鱗であろうが、身を守るようにしてくれている者が敵か味方か分からなくても、紘伊にはどうしようも出来ない現実の真っ只中だ。

 竜の咆哮が空に響いた。
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