52 / 112
52 夜の散歩
しおりを挟む
食事は部屋に運ばれて来るし、着替えも用意して貰えるし、生活として不自由はないけど、従者も護衛も必要以上の会話はしてくれない。紘伊が質問をしても、私には分かりかねます。お答え出来ません。そういう続かない答えを寄越して来る。我慢は2日までだった。ハーツの到着さえ教えて貰えないのはおかしすぎる。
紘伊は従者に領主と会えるようにお願いしたが,領主は忙しいと断られた。
2日目の夜、紘伊は部屋を抜け出し、外に出た。
領主城は高い壁に囲われていて、壁の上が見張り台になっている。夜間も交代で見張りが立ち、灯を持った兵が城内や庭を警備している。
兵もみな人化している。紘伊が見た狼族は領主ひとりで、各領ごとに様々な取り決めがあるのだと思う。
城は広くて廊下も長い。紘伊は二階の部屋を使っていたから、廊下の先の階段を降りて、長く続く廊下へ足を向けた。四角く取り囲む城壁の上を灯りが動いている。廊下の窓から見える庭にも幾つかの灯りが動いている。
廊下の先にあったドアを慎重に開け、その部屋の大きな窓から庭に出た。目の前には綺麗に作り込まれた公園のような場所が広がっている。
中央に白いガゼボがあって、その中央に八角形の池がある。池には薄い灯りが灯されていて、ガゼボの四つのアーチ型の入り口の上部に薔薇型のランプが設られている。
その灯りに照らされ、優雅な態度でくつろぐ人影がある。ボソボソとした声も聞こえるが、獣人語なのだろう。紘伊には分かる単語がひとつもない。
足音で紘伊の存在はバレていると思う。相手は獣人だ。紘伊の常識とは違う。
ぼんやりした灯りの向こうでも、くつろぐ姿の美しさが分かる。狼族領の季節は日本の初夏に近い。ついこの前まで熊族領の豪雪の冷たさに包まれていたのに、ここでは薄手のシャツ一枚で過ごせる。
「ヒロイ、おいで」
甘い声音で呼ばれる。名前を呼び捨てられる相手としたらハーツしか思いつかないが、声が全然違った。それでも呼ばれたら行くしかない。紘伊を知っている相手なのだから。
近づいて行くとガゼボ内にいる3名が紘伊の方へ視線を向けている。顔は北欧っぽい美しさがあるが、銀髪の頭部に狼の耳があり、尾っぽがふさふさと揺れている。残念ながらハーツみたいな胸に獣毛はない。
「ヒロイは本当にハーツェンド様の婚約者なの?」
ガゼボに踏み込む事が出来ずに立ち止まれば、知らない狼獣人に嘲笑われた。クスクス笑いが続いている。
「それはどういう意味でしょうか」
狼獣人の領の中だから、狼獣人の常識に従う気はあるが、理不尽に呼ばれて来た不本意さが紘伊にはあるから、なぜ笑われなくてはならないのかと腹が立つ。
「どこが良いのか」
「趣味が悪いんじゃない?」
領主も美しかったが、彼らも美しい。細くて足が長くてスタイルが良い。見目も冷たく感じるくらいに整っているのに、その表情が悪意に歪められていて醜い。紘伊にしてみれば、初対面の他人を嘲笑える彼らの方が嫌われそうだと思う。ハーツの趣味が悪くて良かったと思わずにはいられなかった。
紘伊は従者に領主と会えるようにお願いしたが,領主は忙しいと断られた。
2日目の夜、紘伊は部屋を抜け出し、外に出た。
領主城は高い壁に囲われていて、壁の上が見張り台になっている。夜間も交代で見張りが立ち、灯を持った兵が城内や庭を警備している。
兵もみな人化している。紘伊が見た狼族は領主ひとりで、各領ごとに様々な取り決めがあるのだと思う。
城は広くて廊下も長い。紘伊は二階の部屋を使っていたから、廊下の先の階段を降りて、長く続く廊下へ足を向けた。四角く取り囲む城壁の上を灯りが動いている。廊下の窓から見える庭にも幾つかの灯りが動いている。
廊下の先にあったドアを慎重に開け、その部屋の大きな窓から庭に出た。目の前には綺麗に作り込まれた公園のような場所が広がっている。
中央に白いガゼボがあって、その中央に八角形の池がある。池には薄い灯りが灯されていて、ガゼボの四つのアーチ型の入り口の上部に薔薇型のランプが設られている。
その灯りに照らされ、優雅な態度でくつろぐ人影がある。ボソボソとした声も聞こえるが、獣人語なのだろう。紘伊には分かる単語がひとつもない。
足音で紘伊の存在はバレていると思う。相手は獣人だ。紘伊の常識とは違う。
ぼんやりした灯りの向こうでも、くつろぐ姿の美しさが分かる。狼族領の季節は日本の初夏に近い。ついこの前まで熊族領の豪雪の冷たさに包まれていたのに、ここでは薄手のシャツ一枚で過ごせる。
「ヒロイ、おいで」
甘い声音で呼ばれる。名前を呼び捨てられる相手としたらハーツしか思いつかないが、声が全然違った。それでも呼ばれたら行くしかない。紘伊を知っている相手なのだから。
近づいて行くとガゼボ内にいる3名が紘伊の方へ視線を向けている。顔は北欧っぽい美しさがあるが、銀髪の頭部に狼の耳があり、尾っぽがふさふさと揺れている。残念ながらハーツみたいな胸に獣毛はない。
「ヒロイは本当にハーツェンド様の婚約者なの?」
ガゼボに踏み込む事が出来ずに立ち止まれば、知らない狼獣人に嘲笑われた。クスクス笑いが続いている。
「それはどういう意味でしょうか」
狼獣人の領の中だから、狼獣人の常識に従う気はあるが、理不尽に呼ばれて来た不本意さが紘伊にはあるから、なぜ笑われなくてはならないのかと腹が立つ。
「どこが良いのか」
「趣味が悪いんじゃない?」
領主も美しかったが、彼らも美しい。細くて足が長くてスタイルが良い。見目も冷たく感じるくらいに整っているのに、その表情が悪意に歪められていて醜い。紘伊にしてみれば、初対面の他人を嘲笑える彼らの方が嫌われそうだと思う。ハーツの趣味が悪くて良かったと思わずにはいられなかった。
2
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
食べて欲しいの
夏芽玉
BL
見世物小屋から誘拐された僕は、夜の森の中、フェンリルと呼ばれる大狼に捕まってしまう。
きっと、今から僕は食べられちゃうんだ。
だけど不思議と恐怖心はなく、むしろ彼に食べられたいと僕は願ってしまって……
Tectorum様主催、「夏だ!! 産卵!! 獣BL」企画参加作品です。
【大狼獣人】×【小鳥獣人】
他サイトにも掲載しています。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる