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41 略奪

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 獅子軍は中央区と領地の別ルートで来ていたから、野営後は二手に別れる事になる。その為、紘伊はマサキとトオルと離れる事になったけど、ヴィルが付き添い、経過を報告してくれる事で落ち着いた。

 紘伊はハーツの腕の中で馬に乗り、領地を目指しているのだが、領地から来た軍の殆どが残ると言う。

「始まるの?」

 ハーツにそう聞くだけで通じる。

「俺はきっかけを作っただけで実行は領主だ。王へ報告され、どう指示を受けたのかも伝わっては来ない。残った軍の指揮はアルツェだ」

「ハーツは不満?」

 浮かない顔をしているハーツを心配する。竜族と話を付けて来たのはハーツだ。先頭に立って戦いたいと思うのかもしれない。

「いや? 俺の任務が一番重要だからな」

「任務?」

「ヒロイを無事に領地へ連れて行く」

 そんなの簡単だと思うのに。ハーツには真剣な表情がある。

「ヒロイの存在が各領に伝わった。契約の儀を行っていない、気に怯えない稀な人を俺が独占している」

「独占って。そんな言い方すっげえ嫌なんだけど」

 獣人に怯えないのは、気というものが分からないからだ。ただの鈍感なだけだと思う。獣人の怖さは分かった。殴られたら痛いし、簡単に殺されてしまう事も分かる。獣人にとっての人に対する命の軽さにも気づいた。

「人界へ繋がる道が閉じた。これからは軽く人を攫って来る事ができなくなる。純粋な人が貴重な存在となって来る。ヒロイは人界への道が閉じた今、その性質も含め、貴重な存在となった。俺は今や略奪犯だ」

 嬉しそうに笑んで髪にキスをされる。
 紘伊の知らない所で、紘伊の価値が上がっている。紘伊にしてみたら、ただハーツを好きになって、ハーツのそばに居たいから、ウェルズ領を目指しているだけなのに。

「俺は今からヒロイをウェルズ領の俺の家に連れ帰り、奥深くに隠して俺のものにする」

「契約の儀は?」

 そう言うとハーツが抱きしめてくれる。

「あれは獣人に慣れない人を伴侶という名に縛って強制的に従わせるものだ。ヒロイには必要ない。それに別段、子孫を残す義務もない、気にするな」

 ハーツは紘伊が怖いものを察している。紘伊を対等に扱って尊重してくれる。

「ハーツ大好きだ、早く俺をハーツだけのものにして」

 ハーツ以外の誰にも奪われたくない。竜族との取引も、爬虫類の領地だけでは済まなかっただろうと思う。紘伊の価値が上がっただけの何かを要求されている筈だ。

「イーズ領とノイズ領からは正式な招待状が届いたそうだ。そこが出て来たら全面戦争に成りかねなかったが、問題は周辺にある中小の領だ。ヤツらが奪いに来ている気配を感じないか?」

 イーズ領は狼族、ノイズ領は熊族が管理する地域だ。

 ヒロイは首を振る。でも言われれば後ろを駆っていた兵士の数が減っている。

「俺に近づく事も出来ぬのに、悪足掻きを仕掛けて来ている。速度を上げる。舌を噛まない様に気をつけろ」

 ハーツが馬の腹を蹴る。速度が上がるがハーツの腕に守られている。不安はない。ハーツがいる。それだけで良い。
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