獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
上 下
40 / 112

40 悲劇

しおりを挟む
 竜の領から離れ、中央区へ向かう道の途中で野営をする。テントもない完全な野宿だが、馬車が1台あるから、そこを診療用にしている。

 トオルは堕胎をしたばかりで血が足りなくて青白い顔をしているし、熱も出ている様だった。毒の影響は抜けているらしいが、だからと言って安心は出来ないと聞いた。

 皆と離れてハーツと話す。

「悪いが彼らを領には連れて行けない。分かってくれるか」

 マサキには毒を飲ませた疑惑があるし、トオルは竜族長の伴侶だった。そんな彼らを領に連れて行けばハーツが咎められてしまう。

「どこへ連れて行くんだ?」

「中央区の外れに、そういった者達が集う町がある。監視付きの場所だが生活には困らない」

「そういった者って?」

 そう聞き返すとハーツはため息を吐く。言いにくそうにしたが、ヒロイを膝の間に座らせて、逃げない様に閉じ込めてから話し始めた。

「どうしても獣人と生きられない人がいる。逆に獣人が受け入れられずに捨てる場合もある。あの伴侶のように、人の保護者と種族の族長との契約によって送られて来た者は、道具に近い扱いになる事が多い。望んでいない子を孕れば、最もな理由を付けて消したりする話も聞いていた。あとは獣人の精液を受け入れた人は体が作り変えられている為もある。それは獣人が人を拒否する理由になってしまうんだ」

 紘伊は怒って逃げてしまいたかったけど、ハーツの腕の中から逃げられない。この世界の獣人は勝手だ。やはり人を利用する者の方が多いのだ。ハーツの方が珍しい。

「中央区の人の町は獅子族が管理している。それは兄が王でいる間は変わらない。定期的な手紙のやり取りと、年に一度会いに行くのを許可させる。それで許してはくれないか」

 胸が苦しくなる。そこに行ける人はまだマシなんだろう。トオルだってハーツがいなければ、あのまま命を落としていた。マサキだってそうだ。罪を着せられて始末されていたかもしれない。

「仕方がないよね。領には連れて行けないよね」

「悪いな、ヒロイ。俺はヒロイが大事なんだ」

 紘伊に決定権はない。ハーツを捨てて生きる事も考えられない。目を瞑る。それしか方法はない。だって一族ごと危険に巻き込んだのは紘伊だ。こんなヤツ捨てても良かったのに、ハーツはそうしなかった。紘伊を優先してくれた。一族もまたハーツを優先してくれたと言う事だ。紘伊に出来る事は、ハーツに守られてこれ以上勝手をしない事だ。

「マサキと話して来ても良い? できれば拘束も解いてあげたい」

 ハーツの許可を得てマサキの所へ行く。マサキは警護しているヴィルのいる所から少し離れた所にいる。足に拘束具をはめられて、手枷は外されている。マサキはずいぶん憔悴していたが、ゆっくりとスープを飲んでいる。少しずつだが良くなってはいるようだ。

「ヒロイ」

 紘伊が近づけば、マサキは明るい笑顔を見せてくれる。最初に会った印象よりも痩せていた。

「体は大丈夫? 辛くないかい?」

「うん、連れ出してくれてありがとう。竜族は態度が冷たくて怖かったから、逃げられて嬉しい」

「竜族の街にいたんだろ? 待遇が良くなかったのか?」

 マサキの顔が曇った。

「獣人ってさ、処女厨だって知ってた? 僕はそれが理由で受け入れてもらえなくて、いっぱい働かされてた。それで呼び出されたと思ったらあれだよ? 意味がわからないんだ」

「トオルが毒を飲まされたの知らない?」

「ヴィルさんに少しだけ聞いたけど、獣人がいると気分が悪くなるから長く話せなくて。トオル大丈夫かな。無事だと良いな」

 マサキの手が荒れている。細かい傷が腕や足にある。治って跡になっているものや、まだ赤く腫れているのも見えた。

「中央区に人だけが暮らす町があるんだって。トオルが良くなったら、一緒にそこで暮らせるよ」

「獣人がいない場所?」

「いないけど監視はされる。身を守る為だから我慢して欲しい」

 獣人は怖い。爬虫類に殴られた経験があるからマサキの気持ちがわかる。

「……獣人がいない場所に行きたい」

 静かに泣き出したから、細くなった体を抱きしめた。辛いね。なぜこんな悲劇が起こらなければならないのだろう。幸せに思っていた自分が後ろめたく思える。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

処理中です...