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40 悲劇
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竜の領から離れ、中央区へ向かう道の途中で野営をする。テントもない完全な野宿だが、馬車が1台あるから、そこを診療用にしている。
トオルは堕胎をしたばかりで血が足りなくて青白い顔をしているし、熱も出ている様だった。毒の影響は抜けているらしいが、だからと言って安心は出来ないと聞いた。
皆と離れてハーツと話す。
「悪いが彼らを領には連れて行けない。分かってくれるか」
マサキには毒を飲ませた疑惑があるし、トオルは竜族長の伴侶だった。そんな彼らを領に連れて行けばハーツが咎められてしまう。
「どこへ連れて行くんだ?」
「中央区の外れに、そういった者達が集う町がある。監視付きの場所だが生活には困らない」
「そういった者って?」
そう聞き返すとハーツはため息を吐く。言いにくそうにしたが、ヒロイを膝の間に座らせて、逃げない様に閉じ込めてから話し始めた。
「どうしても獣人と生きられない人がいる。逆に獣人が受け入れられずに捨てる場合もある。あの伴侶のように、人の保護者と種族の族長との契約によって送られて来た者は、道具に近い扱いになる事が多い。望んでいない子を孕れば、最もな理由を付けて消したりする話も聞いていた。あとは獣人の精液を受け入れた人は体が作り変えられている為もある。それは獣人が人を拒否する理由になってしまうんだ」
紘伊は怒って逃げてしまいたかったけど、ハーツの腕の中から逃げられない。この世界の獣人は勝手だ。やはり人を利用する者の方が多いのだ。ハーツの方が珍しい。
「中央区の人の町は獅子族が管理している。それは兄が王でいる間は変わらない。定期的な手紙のやり取りと、年に一度会いに行くのを許可させる。それで許してはくれないか」
胸が苦しくなる。そこに行ける人はまだマシなんだろう。トオルだってハーツがいなければ、あのまま命を落としていた。マサキだってそうだ。罪を着せられて始末されていたかもしれない。
「仕方がないよね。領には連れて行けないよね」
「悪いな、ヒロイ。俺はヒロイが大事なんだ」
紘伊に決定権はない。ハーツを捨てて生きる事も考えられない。目を瞑る。それしか方法はない。だって一族ごと危険に巻き込んだのは紘伊だ。こんなヤツ捨てても良かったのに、ハーツはそうしなかった。紘伊を優先してくれた。一族もまたハーツを優先してくれたと言う事だ。紘伊に出来る事は、ハーツに守られてこれ以上勝手をしない事だ。
「マサキと話して来ても良い? できれば拘束も解いてあげたい」
ハーツの許可を得てマサキの所へ行く。マサキは警護しているヴィルのいる所から少し離れた所にいる。足に拘束具をはめられて、手枷は外されている。マサキはずいぶん憔悴していたが、ゆっくりとスープを飲んでいる。少しずつだが良くなってはいるようだ。
「ヒロイ」
紘伊が近づけば、マサキは明るい笑顔を見せてくれる。最初に会った印象よりも痩せていた。
「体は大丈夫? 辛くないかい?」
「うん、連れ出してくれてありがとう。竜族は態度が冷たくて怖かったから、逃げられて嬉しい」
「竜族の街にいたんだろ? 待遇が良くなかったのか?」
マサキの顔が曇った。
「獣人ってさ、処女厨だって知ってた? 僕はそれが理由で受け入れてもらえなくて、いっぱい働かされてた。それで呼び出されたと思ったらあれだよ? 意味がわからないんだ」
「トオルが毒を飲まされたの知らない?」
「ヴィルさんに少しだけ聞いたけど、獣人がいると気分が悪くなるから長く話せなくて。トオル大丈夫かな。無事だと良いな」
マサキの手が荒れている。細かい傷が腕や足にある。治って跡になっているものや、まだ赤く腫れているのも見えた。
「中央区に人だけが暮らす町があるんだって。トオルが良くなったら、一緒にそこで暮らせるよ」
「獣人がいない場所?」
「いないけど監視はされる。身を守る為だから我慢して欲しい」
獣人は怖い。爬虫類に殴られた経験があるからマサキの気持ちがわかる。
「……獣人がいない場所に行きたい」
静かに泣き出したから、細くなった体を抱きしめた。辛いね。なぜこんな悲劇が起こらなければならないのだろう。幸せに思っていた自分が後ろめたく思える。
トオルは堕胎をしたばかりで血が足りなくて青白い顔をしているし、熱も出ている様だった。毒の影響は抜けているらしいが、だからと言って安心は出来ないと聞いた。
皆と離れてハーツと話す。
「悪いが彼らを領には連れて行けない。分かってくれるか」
マサキには毒を飲ませた疑惑があるし、トオルは竜族長の伴侶だった。そんな彼らを領に連れて行けばハーツが咎められてしまう。
「どこへ連れて行くんだ?」
「中央区の外れに、そういった者達が集う町がある。監視付きの場所だが生活には困らない」
「そういった者って?」
そう聞き返すとハーツはため息を吐く。言いにくそうにしたが、ヒロイを膝の間に座らせて、逃げない様に閉じ込めてから話し始めた。
「どうしても獣人と生きられない人がいる。逆に獣人が受け入れられずに捨てる場合もある。あの伴侶のように、人の保護者と種族の族長との契約によって送られて来た者は、道具に近い扱いになる事が多い。望んでいない子を孕れば、最もな理由を付けて消したりする話も聞いていた。あとは獣人の精液を受け入れた人は体が作り変えられている為もある。それは獣人が人を拒否する理由になってしまうんだ」
紘伊は怒って逃げてしまいたかったけど、ハーツの腕の中から逃げられない。この世界の獣人は勝手だ。やはり人を利用する者の方が多いのだ。ハーツの方が珍しい。
「中央区の人の町は獅子族が管理している。それは兄が王でいる間は変わらない。定期的な手紙のやり取りと、年に一度会いに行くのを許可させる。それで許してはくれないか」
胸が苦しくなる。そこに行ける人はまだマシなんだろう。トオルだってハーツがいなければ、あのまま命を落としていた。マサキだってそうだ。罪を着せられて始末されていたかもしれない。
「仕方がないよね。領には連れて行けないよね」
「悪いな、ヒロイ。俺はヒロイが大事なんだ」
紘伊に決定権はない。ハーツを捨てて生きる事も考えられない。目を瞑る。それしか方法はない。だって一族ごと危険に巻き込んだのは紘伊だ。こんなヤツ捨てても良かったのに、ハーツはそうしなかった。紘伊を優先してくれた。一族もまたハーツを優先してくれたと言う事だ。紘伊に出来る事は、ハーツに守られてこれ以上勝手をしない事だ。
「マサキと話して来ても良い? できれば拘束も解いてあげたい」
ハーツの許可を得てマサキの所へ行く。マサキは警護しているヴィルのいる所から少し離れた所にいる。足に拘束具をはめられて、手枷は外されている。マサキはずいぶん憔悴していたが、ゆっくりとスープを飲んでいる。少しずつだが良くなってはいるようだ。
「ヒロイ」
紘伊が近づけば、マサキは明るい笑顔を見せてくれる。最初に会った印象よりも痩せていた。
「体は大丈夫? 辛くないかい?」
「うん、連れ出してくれてありがとう。竜族は態度が冷たくて怖かったから、逃げられて嬉しい」
「竜族の街にいたんだろ? 待遇が良くなかったのか?」
マサキの顔が曇った。
「獣人ってさ、処女厨だって知ってた? 僕はそれが理由で受け入れてもらえなくて、いっぱい働かされてた。それで呼び出されたと思ったらあれだよ? 意味がわからないんだ」
「トオルが毒を飲まされたの知らない?」
「ヴィルさんに少しだけ聞いたけど、獣人がいると気分が悪くなるから長く話せなくて。トオル大丈夫かな。無事だと良いな」
マサキの手が荒れている。細かい傷が腕や足にある。治って跡になっているものや、まだ赤く腫れているのも見えた。
「中央区に人だけが暮らす町があるんだって。トオルが良くなったら、一緒にそこで暮らせるよ」
「獣人がいない場所?」
「いないけど監視はされる。身を守る為だから我慢して欲しい」
獣人は怖い。爬虫類に殴られた経験があるからマサキの気持ちがわかる。
「……獣人がいない場所に行きたい」
静かに泣き出したから、細くなった体を抱きしめた。辛いね。なぜこんな悲劇が起こらなければならないのだろう。幸せに思っていた自分が後ろめたく思える。
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