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30 秘密
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竜に挟まれている乗り物に乗り込む。人を運ぶだけのカプセルのような物で、中には固定されたソファが前後に2脚あるだけだった。床から半円の真ん中辺りまでは黒塗りされていて、柔らかな素材の敷布がある。上部は透明な板が覆っていて、状況に応じて遮光幕が張れるようになっている。
前方の椅子にハーツと並んで座ると、後ろの座席に2名が乗り込んで来る。腰に剣を下げた兵士のようだ。2人とも視線は外だ。ハーツと紘伊を見ないようにしている。
「揺れるからつかまっていろ」
左右にいる竜が飛び立つ準備をしている。羽ばたきだけで浮いて行く。空が近くなり、見えていた風景が見えなくなる。
「風をつくり高度へ飛翔する」
上下の揺れがひどい。でもある程度上昇すると揺れが落ち着いた。今度は後ろへ重力がかかる。風が蒸気の流れになって棚引いている。
「他領の上空を飛行するには許可がいる。だが一定以上の高度を通れば必要がない。だが竜族の招待だ。眼下を臨む事を禁じられている」
「そうなんだ」
竜が運ぶ乗り物は不安定だ。立ち上がって外を見ようとは思わなかったが、まさか禁じられているとは思わなかった。でもそうかと思う。上空から領地の全貌を見せれば軍事的にまずいものなのだろう。ハーツが思い一つで爬虫類の領を潰そうと言うように、この世界は争いが身近なんだと思う。紘伊の世界だって争いはあった。たまたま紘伊が守られた場所に生まれただけのこと。
「この世界には竜以外に飛ぶ乗り物はないの?」
「小型の乗り物ならあるが、領地をまたいで飛び行く乗り物は竜だけだ。あとは鳥族がいるが、わざわざ強者の的になったりはしないな」
鳥の獣人もいるらしい。でもきっと人化している。紘伊が見分けるのは難しいのだろう。
「不思議な世界だ」
ハーツを見る。獅子の種族といっても屈強な人にしか見えない。紘伊が見慣れて来ているせいもあるだろう。愛を語るハーツは人よりも情が深いと思える。獣人だからなのだろうか。
「俺にはヒロイの方が不思議だ」
「なぜ? 普通の人だよ」
そう言ってハーツを見ると目を細めて笑んでくれる。
「普通の人が俺に寄り添える訳がない」
「ほんとうに? 信じられない」
そう言うと頬を指先で撫でられた。
「竜族の中にも人を伴侶に迎えている者がいる。会えば分かる」
そうかなあ? と頭の中に疑問符を浮かべながら、そういえばと思う。
「人と獣人の人化を見分ける方法はある?」
「見分けられないのか?」
ハーツが馬鹿にして来たのかと思って見れば、本気で疑問に思っているのだと分かった。
「見分けられたら爬虫類の獣人から逃げられていたと思うよ」
そう言うとハーツの纏う雰囲気がピリついた。しまった禁句だったと思っても遅い。
「あれの話は聞きたくもないが——そうだな、見目の違いは個性だろうか。人化は獣人の擬態だ。どの種族が擬態してもほぼ同じ容姿になる。記憶に残りにくい容姿、表情のない顔、変わりのない体型、あれらは作り物という印象が強い。ヒロイとは全然違うと思うが」
今まで見て来た人化を思い出す。ホテルにいたのは獣人の人化だ。今後ろにいる兵士も人化している。
「ハーツも人化できる?」
「いや、俺のような力が強い者が人化をすると、元の姿に近くなってしまい人化の意味がない。だから4大辺境領の有力者は人化をしない。元より変化を使えるからな」
「変化?」
ハーツは秘密というようにヒロイの唇に指先で触れた。
「秘密は愛しい人にも明かさないものだよ」
男臭い笑みにドキドキする。秘密って何が出来るのだろう。絶対にいつか聞き出そう。
前方の椅子にハーツと並んで座ると、後ろの座席に2名が乗り込んで来る。腰に剣を下げた兵士のようだ。2人とも視線は外だ。ハーツと紘伊を見ないようにしている。
「揺れるからつかまっていろ」
左右にいる竜が飛び立つ準備をしている。羽ばたきだけで浮いて行く。空が近くなり、見えていた風景が見えなくなる。
「風をつくり高度へ飛翔する」
上下の揺れがひどい。でもある程度上昇すると揺れが落ち着いた。今度は後ろへ重力がかかる。風が蒸気の流れになって棚引いている。
「他領の上空を飛行するには許可がいる。だが一定以上の高度を通れば必要がない。だが竜族の招待だ。眼下を臨む事を禁じられている」
「そうなんだ」
竜が運ぶ乗り物は不安定だ。立ち上がって外を見ようとは思わなかったが、まさか禁じられているとは思わなかった。でもそうかと思う。上空から領地の全貌を見せれば軍事的にまずいものなのだろう。ハーツが思い一つで爬虫類の領を潰そうと言うように、この世界は争いが身近なんだと思う。紘伊の世界だって争いはあった。たまたま紘伊が守られた場所に生まれただけのこと。
「この世界には竜以外に飛ぶ乗り物はないの?」
「小型の乗り物ならあるが、領地をまたいで飛び行く乗り物は竜だけだ。あとは鳥族がいるが、わざわざ強者の的になったりはしないな」
鳥の獣人もいるらしい。でもきっと人化している。紘伊が見分けるのは難しいのだろう。
「不思議な世界だ」
ハーツを見る。獅子の種族といっても屈強な人にしか見えない。紘伊が見慣れて来ているせいもあるだろう。愛を語るハーツは人よりも情が深いと思える。獣人だからなのだろうか。
「俺にはヒロイの方が不思議だ」
「なぜ? 普通の人だよ」
そう言ってハーツを見ると目を細めて笑んでくれる。
「普通の人が俺に寄り添える訳がない」
「ほんとうに? 信じられない」
そう言うと頬を指先で撫でられた。
「竜族の中にも人を伴侶に迎えている者がいる。会えば分かる」
そうかなあ? と頭の中に疑問符を浮かべながら、そういえばと思う。
「人と獣人の人化を見分ける方法はある?」
「見分けられないのか?」
ハーツが馬鹿にして来たのかと思って見れば、本気で疑問に思っているのだと分かった。
「見分けられたら爬虫類の獣人から逃げられていたと思うよ」
そう言うとハーツの纏う雰囲気がピリついた。しまった禁句だったと思っても遅い。
「あれの話は聞きたくもないが——そうだな、見目の違いは個性だろうか。人化は獣人の擬態だ。どの種族が擬態してもほぼ同じ容姿になる。記憶に残りにくい容姿、表情のない顔、変わりのない体型、あれらは作り物という印象が強い。ヒロイとは全然違うと思うが」
今まで見て来た人化を思い出す。ホテルにいたのは獣人の人化だ。今後ろにいる兵士も人化している。
「ハーツも人化できる?」
「いや、俺のような力が強い者が人化をすると、元の姿に近くなってしまい人化の意味がない。だから4大辺境領の有力者は人化をしない。元より変化を使えるからな」
「変化?」
ハーツは秘密というようにヒロイの唇に指先で触れた。
「秘密は愛しい人にも明かさないものだよ」
男臭い笑みにドキドキする。秘密って何が出来るのだろう。絶対にいつか聞き出そう。
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