24 / 31
本編
23 ブラッドの家
しおりを挟む
薔薇の香りに包まれて、目を覚ました。
ブラッドがいる。俺を大事そうに抱えて、一緒に眠っている。
「目が覚めましたか」
身じろぎをすると、ブラッドが目覚めて、体から手を放してくれた。薔薇の香りはブラッドからしているのか、部屋の香りなのか、わからない。もう自分も薔薇の香りなのかもしれない。
「王城から戻って1日半眠っていましたよ。体は大丈夫ですか?」
動こうとすると腹と背中が痛い。視線を体へ向けると、裸で布団を掛け、ブラッドと寝ていたことに気づく。恥ずかしくて身を丸めようとしたら、痛みが強くなる。腹に派手な色の痣が出来ている。背中にもできていることが想像できた。
ブラッドはローブを羽織ると、横にある机から水を取った。
「飲んでください」
水を口移しで飲まされた。口移しはブラッドにとって当たり前なのだろう。自然な行動で、普通に受け入れてしまってから、羞恥が押し寄せる。ブラッドの見た目が綺麗すぎるのがいけない。思わず見とれてしまうと、ぼーっとしている間にいろいろされてしまう。
「軽い食事を用意しています。食べられますか?」
そう言われると、お腹がすいていることに気づいた。頷くとブラッドの手が腰に添えられ、体を起こしてくれた。へッドボードに背を預ける形で、背中にクッションを入れてくれる。それからスプーンで液体の何かをすくって口に運ばれ、口を開けると、中に流し込んでくれた。野菜とパンを煮込んだようなもの。胃に優しいようにとろとろになっている。ブラッドに口に運んでもらって、お皿にあるぶんを食べ終えると、口に薬を入れられた。また口移しで水を飲まされた。
これってキスと何が違うんだろうと思うと、いけないことをしているようで、怖くなる。
「痛み止めです。また眠くなるかもしれません、横になりますか?」
頷けば、背中からクッションを外し、背中を支えてくれた。
「ここはどこ?」
「フィンレイ自治領の私の家です」
ブラッドの言葉を頭の中で繰り返して、驚く。それはとても遠い場所なのでは。
そう思った俺の気持ちを読んだのか、ブラッドは寝ころんだ俺の体に布団を掛けながら、うっすら笑った。
「王城から転移魔法陣で移動しました」
ああ、それじゃあ一瞬だ。と思って異世界だなあと思う。召喚ができるのだ、転移など簡単なのだろう。
「獣人の王は神に近い存在ですから、いろいろ不思議なことができるのですが、秘密にされていますので、シンも秘密にしてください」
シッと口に指を当てるブラッドを見て、懐かしいと思ってしまった。
「食器を片付けて来ますので、ゆっくり休んでください」
ブラッドは食器を持って部屋を出て行った。相変わらず従者も侍女もいない。広い部屋にひとりきりになると、寂しいと思ってしまう。
何もかも忘れて、ブラッドとふたりでいれば、そのうちそれが当たり前になって、何も悩まなくて済むのだと思う。それでもう良いのだと思える。俺は最低だ。
そうして思い至る。ここはフィンレイ自治領のあの家だ。ということは逃げ出せば、研究所の裏山へ出られる。アイザックのいる研究所の近くだ。そう思い、思いを打ち消す。そんなことをしたら、今度こそ王に殺される。
シーツを体に巻き付け、ベッドを降りる。以前と同じように、部屋を出る。玄関のドアを開ける。すんなりと開き、外の世界が目前に広がる。でも一歩が踏み出せない。……踏み出せず、ドアを閉め、ベッドに戻った。
ドアに鍵がかかっていたら、逃げていたかもしれない。でも開いていた。ブラッドに俺を閉じ込める意思はない。好きにしていいと言われ、言われると好きにできない矛盾。泣けてきて、シーツを抱えて、嗚咽を隠した。
「大丈夫ですか?」
ブラッドが帰って来て、ベッドに座り、俺の髪を撫でた。
「……辛い想いをさせてしまってすみません」
ブラッドが謝って来る。謝るくらいなら離してくれたら良いと思ったら怒りが湧いた。
「どうしてここに連れて来た? ここは一度、逃げた場所だろ? 逃げたら、その先はアイザックのところだ」
名前を出してしまい、しまったと思ってブラッドを見る。ブラッドは驚いた顔をして、俺を見て、悲しそうに笑った。
「王の行為を止めることができず、シンを傷つけてしまいました。王はああ言っていましたが、シンが従うことはないのですよ? 王のことは私が今度こそ止めますから心配しないでください。どうぞシンの望み通りに行動してください」
ブラッドの言葉に喉が詰まる。やって来た自由にどう動けば良いのかわからない。自分がどうしたいのか、わからない。
俺が動かなかったのを見たブラッドが、安堵の息を吐く。それを見て胸が痛む。ブラッドが俺を想っていてくれるのは本当のことなんだろう。ただ想いが強すぎて乱暴な行為につながる。馬車での行為はそういうことなのだろうと思えた。
「痛みが癒えるまでゆっくり休んでください。そうでなければ心配でなりませんから」
ブラッドが言い訳を用意してくれる。俺は頷いてベッドに横になった。ブラッドが布団を掛けてくれる。ブラッドに背を向けて、体を丸めた。
ブラッドがいる。俺を大事そうに抱えて、一緒に眠っている。
「目が覚めましたか」
身じろぎをすると、ブラッドが目覚めて、体から手を放してくれた。薔薇の香りはブラッドからしているのか、部屋の香りなのか、わからない。もう自分も薔薇の香りなのかもしれない。
「王城から戻って1日半眠っていましたよ。体は大丈夫ですか?」
動こうとすると腹と背中が痛い。視線を体へ向けると、裸で布団を掛け、ブラッドと寝ていたことに気づく。恥ずかしくて身を丸めようとしたら、痛みが強くなる。腹に派手な色の痣が出来ている。背中にもできていることが想像できた。
ブラッドはローブを羽織ると、横にある机から水を取った。
「飲んでください」
水を口移しで飲まされた。口移しはブラッドにとって当たり前なのだろう。自然な行動で、普通に受け入れてしまってから、羞恥が押し寄せる。ブラッドの見た目が綺麗すぎるのがいけない。思わず見とれてしまうと、ぼーっとしている間にいろいろされてしまう。
「軽い食事を用意しています。食べられますか?」
そう言われると、お腹がすいていることに気づいた。頷くとブラッドの手が腰に添えられ、体を起こしてくれた。へッドボードに背を預ける形で、背中にクッションを入れてくれる。それからスプーンで液体の何かをすくって口に運ばれ、口を開けると、中に流し込んでくれた。野菜とパンを煮込んだようなもの。胃に優しいようにとろとろになっている。ブラッドに口に運んでもらって、お皿にあるぶんを食べ終えると、口に薬を入れられた。また口移しで水を飲まされた。
これってキスと何が違うんだろうと思うと、いけないことをしているようで、怖くなる。
「痛み止めです。また眠くなるかもしれません、横になりますか?」
頷けば、背中からクッションを外し、背中を支えてくれた。
「ここはどこ?」
「フィンレイ自治領の私の家です」
ブラッドの言葉を頭の中で繰り返して、驚く。それはとても遠い場所なのでは。
そう思った俺の気持ちを読んだのか、ブラッドは寝ころんだ俺の体に布団を掛けながら、うっすら笑った。
「王城から転移魔法陣で移動しました」
ああ、それじゃあ一瞬だ。と思って異世界だなあと思う。召喚ができるのだ、転移など簡単なのだろう。
「獣人の王は神に近い存在ですから、いろいろ不思議なことができるのですが、秘密にされていますので、シンも秘密にしてください」
シッと口に指を当てるブラッドを見て、懐かしいと思ってしまった。
「食器を片付けて来ますので、ゆっくり休んでください」
ブラッドは食器を持って部屋を出て行った。相変わらず従者も侍女もいない。広い部屋にひとりきりになると、寂しいと思ってしまう。
何もかも忘れて、ブラッドとふたりでいれば、そのうちそれが当たり前になって、何も悩まなくて済むのだと思う。それでもう良いのだと思える。俺は最低だ。
そうして思い至る。ここはフィンレイ自治領のあの家だ。ということは逃げ出せば、研究所の裏山へ出られる。アイザックのいる研究所の近くだ。そう思い、思いを打ち消す。そんなことをしたら、今度こそ王に殺される。
シーツを体に巻き付け、ベッドを降りる。以前と同じように、部屋を出る。玄関のドアを開ける。すんなりと開き、外の世界が目前に広がる。でも一歩が踏み出せない。……踏み出せず、ドアを閉め、ベッドに戻った。
ドアに鍵がかかっていたら、逃げていたかもしれない。でも開いていた。ブラッドに俺を閉じ込める意思はない。好きにしていいと言われ、言われると好きにできない矛盾。泣けてきて、シーツを抱えて、嗚咽を隠した。
「大丈夫ですか?」
ブラッドが帰って来て、ベッドに座り、俺の髪を撫でた。
「……辛い想いをさせてしまってすみません」
ブラッドが謝って来る。謝るくらいなら離してくれたら良いと思ったら怒りが湧いた。
「どうしてここに連れて来た? ここは一度、逃げた場所だろ? 逃げたら、その先はアイザックのところだ」
名前を出してしまい、しまったと思ってブラッドを見る。ブラッドは驚いた顔をして、俺を見て、悲しそうに笑った。
「王の行為を止めることができず、シンを傷つけてしまいました。王はああ言っていましたが、シンが従うことはないのですよ? 王のことは私が今度こそ止めますから心配しないでください。どうぞシンの望み通りに行動してください」
ブラッドの言葉に喉が詰まる。やって来た自由にどう動けば良いのかわからない。自分がどうしたいのか、わからない。
俺が動かなかったのを見たブラッドが、安堵の息を吐く。それを見て胸が痛む。ブラッドが俺を想っていてくれるのは本当のことなんだろう。ただ想いが強すぎて乱暴な行為につながる。馬車での行為はそういうことなのだろうと思えた。
「痛みが癒えるまでゆっくり休んでください。そうでなければ心配でなりませんから」
ブラッドが言い訳を用意してくれる。俺は頷いてベッドに横になった。ブラッドが布団を掛けてくれる。ブラッドに背を向けて、体を丸めた。
2
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる