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琉生からもらった茶まんじゅうの広告。その下に付箋が貼られていた。
『友達として連絡したい』
そのメッセージと共に、通話アプリのIDと電話番号が書いてあった。
そして桃音は今、スマホ片手に悩んでいる。
琉生のIDも電話番号も、以前と変わっていなかった。もちろん桃音の電話帳に登録してあったが、アプリとの連携を切っていた。だから琉生から見たら、つながりがなくなったように見えたのだろう。
連絡をしていいのだろうか。友達としてとはどういう意味だろうか。
夕食後、そうやってスマホ片手に悩んで三十分が過ぎた。
広告のまんじゅうの写真は、できたてなのかホカホカと湯気を立てている。
できたての茶まんじゅうなんて食べたことないな、とか考えながら、スマホをタップできずにいた。
琉生の余命八ヶ月。なんでそうなったのかは知らない。ただ彼が、八ヶ月後に死ぬというその数字しか知らない。
今は五月。彼は、新しい年を迎えられないのだ。残りの人生をどう過ごすのだろう。
ピロンッ――
通話アプリに琉生のアイコンが増えた。それをタップしてメッセージを書き込む。
『今日はありがとう。あのおまんじゅう、本当に美味しかった! できたても食べてみたい。食いしん坊のモモより』
当たり障りのない内容を書き込んだ。
すると、すぐに返事がくる。
『やっぱりモモだ。おとなしいから別人かと思ったよ』
そして桃音も確信した。やっぱり沢田琉生は、あのルイだった。
『上司と一緒だもん。私だって、十匹くらいは猫をかぶるよ』
『じゃ、今は仕事じゃないから。猫はかぶっていないんだね』
『相手がルイなら、かぶる必要もないでしょ』
そこで猫のスタンプを送りつける。ニャー!
『電話してもいい?』
そのメッセージにはすぐに返事ができなかった。
しばらく考えてから『OK』のスタンプを送る。
握りしめていたスマホが、通話を知らせるために鳴り出した。
着信がくるとわかっていたはずなのに、身体を大きく震わせる。
ゆっくりとスライドさせる。
「もしもし?」
『もしもし? オレ、オレだよ、オレオレ』
「オレという知り合いはおりません。って、何、オレオレ詐欺やってるのよ。いつのネタよ」
そんな詐欺が騒がれた時代に、よく電話でそう言っていた。
懐かしい気持ちがこみ上げる。
『はは。やっぱりモモだ。猫十匹かぶってるモモ、同姓同名の別人だと思った』
「もう、うっさいわね。で、なんの用?」
『なんの用って、冷たい……。僕さ、モモに謝りたかったんだよね』
ズキンと心に針が刺さった。
『ごめん。あのときのこと……。それを謝りたかった。モモ、ずっと待っていてくれたんだろ?』
あのとき――桃音は琉生と付き合っていた。男女交際と呼ばれるような関係だ。それは、他の人には内緒の関係。
高校三年の冬。
桃音も琉生も、推薦入試で錚々に進学先を決めていた。だから二人で、特別な日――クリスマスイブの日に、デートをする約束をした。
高校生のデートである。一緒に映画を見て、一緒にご飯を食べて、それだけ。
たったそれだけでも、桃音にとっては初めてのことで、何日も前からそわそわしていた。
周囲は大学受験でピリピリとしているため、琉生とのデートは当然のことながら二人だけの秘密。
そんな特別感もあった。
『友達として連絡したい』
そのメッセージと共に、通話アプリのIDと電話番号が書いてあった。
そして桃音は今、スマホ片手に悩んでいる。
琉生のIDも電話番号も、以前と変わっていなかった。もちろん桃音の電話帳に登録してあったが、アプリとの連携を切っていた。だから琉生から見たら、つながりがなくなったように見えたのだろう。
連絡をしていいのだろうか。友達としてとはどういう意味だろうか。
夕食後、そうやってスマホ片手に悩んで三十分が過ぎた。
広告のまんじゅうの写真は、できたてなのかホカホカと湯気を立てている。
できたての茶まんじゅうなんて食べたことないな、とか考えながら、スマホをタップできずにいた。
琉生の余命八ヶ月。なんでそうなったのかは知らない。ただ彼が、八ヶ月後に死ぬというその数字しか知らない。
今は五月。彼は、新しい年を迎えられないのだ。残りの人生をどう過ごすのだろう。
ピロンッ――
通話アプリに琉生のアイコンが増えた。それをタップしてメッセージを書き込む。
『今日はありがとう。あのおまんじゅう、本当に美味しかった! できたても食べてみたい。食いしん坊のモモより』
当たり障りのない内容を書き込んだ。
すると、すぐに返事がくる。
『やっぱりモモだ。おとなしいから別人かと思ったよ』
そして桃音も確信した。やっぱり沢田琉生は、あのルイだった。
『上司と一緒だもん。私だって、十匹くらいは猫をかぶるよ』
『じゃ、今は仕事じゃないから。猫はかぶっていないんだね』
『相手がルイなら、かぶる必要もないでしょ』
そこで猫のスタンプを送りつける。ニャー!
『電話してもいい?』
そのメッセージにはすぐに返事ができなかった。
しばらく考えてから『OK』のスタンプを送る。
握りしめていたスマホが、通話を知らせるために鳴り出した。
着信がくるとわかっていたはずなのに、身体を大きく震わせる。
ゆっくりとスライドさせる。
「もしもし?」
『もしもし? オレ、オレだよ、オレオレ』
「オレという知り合いはおりません。って、何、オレオレ詐欺やってるのよ。いつのネタよ」
そんな詐欺が騒がれた時代に、よく電話でそう言っていた。
懐かしい気持ちがこみ上げる。
『はは。やっぱりモモだ。猫十匹かぶってるモモ、同姓同名の別人だと思った』
「もう、うっさいわね。で、なんの用?」
『なんの用って、冷たい……。僕さ、モモに謝りたかったんだよね』
ズキンと心に針が刺さった。
『ごめん。あのときのこと……。それを謝りたかった。モモ、ずっと待っていてくれたんだろ?』
あのとき――桃音は琉生と付き合っていた。男女交際と呼ばれるような関係だ。それは、他の人には内緒の関係。
高校三年の冬。
桃音も琉生も、推薦入試で錚々に進学先を決めていた。だから二人で、特別な日――クリスマスイブの日に、デートをする約束をした。
高校生のデートである。一緒に映画を見て、一緒にご飯を食べて、それだけ。
たったそれだけでも、桃音にとっては初めてのことで、何日も前からそわそわしていた。
周囲は大学受験でピリピリとしているため、琉生とのデートは当然のことながら二人だけの秘密。
そんな特別感もあった。
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