彼の優しさに触れて

はなおくら

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出会い

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 私は小国ランティアの王の娘メソア。

 父はランティアの国王である。そうは言っても国王には、十数人の妃、愛人がいる。そして何十人の異母兄弟がいる。

 兄弟姉妹と言ってもろくに顔も見た事が無ければ互いに関心を抱くことも無い。

 私たちは物心ついた頃にはそれぞれ役目を決められて育てられる。ある者は、召使い、ある者はスパイ、そしてある者は、殺し屋、手を血で染める場合もある。

 王の子供だからと裕福な生活は望めない。

 なぜなら国王は、自分の子供に全く興味を持たないからだ。国王の興味は女関係など色事ばかりである。

 だからこそ妃達は自分の美しさを競い、寵愛をモノにしようと躍起になっている。

 自分の子供に目を向ける事など、早々にない。

 そんな中でも子供に愛情を持って接する妃達もいる。私の母は、まだマシな部類だろうと思う。

 だが、愛情深いかと言えばそうではない。いつも国王の顔色を伺い、私も何度も言い聞かされてきた。

「国王陛下のご機嫌を損ねることはしてはならない。決められた役目を感情を殺してやり遂げなさい」と……。

 だから私は愛情や暖かい感情等わかるわけもなかった。

 ………あの人に会うまでは…。

 私は物心つく頃、スパイとして育てられた。気配の消し方を初め、敵国に潜入する訓練、この手を血で染める事など当たり前にやってきた。

 15歳を迎えた時には、敵国への調査等感情も違和感もないままにやってきていた。時には人を殺めることも厭わなかった。

 そんなある日、一つの指令を出された。身分を偽り平民として、隣国のパトラティアの些細な情報を掴めと命令が降った。

 命令を聞き、夜も開け切らぬうちに住処をでた。

 隣国のパトラティアには流れ者が多くどの国以上に栄えた国であった。教育もしっかりされており、老若男女問わず迎え入れるほど、裕福な国であった。

 私は、人気のない森林にボロい家を見つけ、修復しそこを住処とした。

 明日から聞き込み調査を行う為、早めに睡眠をとることにした。

 翌朝、市場が盛り上がる頃を見計らって街へと潜り込む。

 街の人々は誰もが楽しそうに買い物をして過ごしてる。

 そんな中、端の方で貫禄のいい女性二人が話をしている。私はそこへ近づいた。

「こんにちは。最近ここら辺に引っ越してきました。」

「………。」

 私の顔を見た途端、二人の女性は気に入らないと言った顔でどこかへ行ってしまう。

 同じように他の人にそうしても誰もが同じ態度だった。

 少し休もうと、人気のない川辺で休んでいると、人の気配を感じた。

 あたりを見回すと、ボロボロの土汚れ破れた衣服を着ている、同じ年ぐらいの青年が、小汚い缶を頭上に上げている。

 すぐに物乞いだと気づいた。その時、自分の中で今まで感じたことのない何かを感じていた。

 らしくなく、その青年が上げている缶の中に紙幣を入れた。

 すると青年はすぐさま缶の中身を見て顔を上げた。

 話しかけられては困るとその場を後にしようとしたその時、バシッと手を掴まれた。

 私は手を振り払い拳を構えようとした時、一瞬で自分の両手が背中に回され身動き取れなくなっていた。

「なっ…何を!」

「綺麗な人が、こんな野暮なことをしてはいけない。」

「何を言ってるの!離して!」

 私がそういうと青年はすぐに離してくれた。すぐさま振り向き向かい合う。

 彼の顔を見つめていると彼はにっこり笑って言った。

「お嬢さんどうもありがとうございます。これでしばらく生活できるよ。」

 そう言って嬉しそうに去っていこうとする彼の背中を見つめてふと思った。

 王太子の情報をこの青年なら話してくれるかも…と…。

「ちょっと待って!私この国に初めて来て何もわからないの!だから教えてくれない?」

 そういうと青年は振り向き満面の笑みで頷いた。

「もちろん!俺はリュークだ。」

 そして二人で草むらに座り話を始めた。

「ここにきて街の人に話を聞こうとしたんだけど、なぜかみんな離れていってしまうの。他所者だからかしら…。」

 落ち込んだふりをしてそう聞くと、彼はそんな事かとニンマリ笑った。

「そりゃそうだ。この国の自慢は笑顔さっ!君から離れていったのは君が笑わないからだ。だから誤解されるんだ。」

「笑顔?」

 笑顔が何の役に立つというのだろう。自分の城では笑う者は国王とその周りのご機嫌取りしかいなかった。

「メソアは何をしてる時が1番楽しい?」

「楽しいこと?」

「そう!楽しいこと!」

 リュークに言われて考えてみるが、何も思いつかない。今までそんなふうに楽しいと思えることなんてなかったように思う。

 でも今はリュークと話している事が嫌いではないそう…思う…。

「わからない…。」

 私がそういうとリュークは優しい笑みを浮かべて私の手を握って立たせた。

「それならこれからいろんな所を見に行こう!ちょうど隣の村で、祭りがやってるんだ。そこで何か見つければいい。」

 そうして私はリュークに手を引かれて走り出した。

 隣村につく頃、目の前には赤色のライトをメインにキラキラと光っていた。

「わぁ…。」

 祭りなど初めてでもないのに、胸が熱く騒いだ。

 しばらくあたりを見つめていると、リュークが私の手を掴んだまま歩き出した。

 目の前には驚くほど大きな焼き鳥が焼かれている。

「……。」

 黙って眺めていると、

 グーー…。

 測らずしてお腹の音が鳴った。今までで有れば、空腹もコントロールできていたのにどうも調子が狂っている。

 そんな私の様子を見てリュークは焼き鳥を2本買うと、その一本を私の口元へと差し出した。

「食べてみて。」

 そう言われて遠慮気味に口を開いた。濃い味付けをされたそれはとても美味しく驚いた。

 リュークは嬉しそうに目を細めていた。

 それからは、我を忘れてリュークと一緒に祭りを見て回った。自分から自然と笑顔が絶えず自然と大笑いしている自分がいる。

 それが恥ずかしいような嬉しいような言葉にできないほどの感情だった。

 しばらくして少し休憩しようと近くの椅子に二人で腰掛けた。

「なかなかできない体験だったわ!」

「ははっ!楽しんでもらえてよかった。……やっぱり君には笑顔がよく似合う…。」

 そういうとリュークは私の髪先に口づけをした。

「君の淡い水色の髪に海のように濃い瞳もとても綺麗だ…。」

 ドキドキと胸が熱くなり、心臓の高鳴りが治らない。

 彼の言葉が大切な宝物のように感じていた。

 その時彼の顔がゆっくり近づくと、私の顎に触れ、唇に柔らかい感触がした。

 とても驚いたが、不思議と嫌ではない。この時人の温もりがこんなにも心地いいことを初めて知り、そのまま私は受け入れた。

「僕は君を愛してる。……軽い男だと思う?」

 唇を離して、不安げに私の方を見つめる彼に私は一言。

「……いいえ……。」

 そう言って今度は自分から唇を持っていき彼の首に手を回した。

 すると彼もまた私の口づけに答えてくれた。

 祭りが終わる頃、夜も遅く祭りのライトだけが光っている。

「そろそろ帰らなきゃ…。」

「送っていくよ。」

 私が立ちあがろうとしたその時、リュークは私の手を握りそう言った。

「いいえ…もう遅いんだから…。」

 住処を知られては、いけないような気がしてそっと断ろうとしたが、リュークは引き下がらなかった。

「君に何か有れば僕はどうにかなってしまうだろう。」

 私は近くまでならと考えて首を縦に振った。
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