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「帰ってきたか」
「帰るっていったじゃないか」

 ランはレクスの居室の王城の離れの一角に戻ると、居間のソファに荷物をほうり投げた。

「で、オレはこのくそ広い部屋のどこにいればいいわけ? このへん?」

 バタンバタンとランはそこらじゅうのドアを開けて、こじんまりした部屋を見つけるとそこに荷物を置いた。

「そこは続きの間だ。こっちに空き室がある」
「じゃあ初めから言えよ……」

 ランはちょっと恥ずかしくなって乱暴にその部屋に荷物を置いた。

「はあ……ちょっと一人にして。疲れた」
「わかった」

 ランはレクスにそう言って部屋から追い出した。レクスが用意した小部屋は日当たりも良くて居心地がよさそうだった。

「……なんか変なことになっちゃったな」


 ごろん、とランはベッドに寝転がって呟いた。昨日はただ明日のパンの心配をしていただけなのに、今日の出来事が盛りだくさん過ぎてランは頭痛がしそうだった。

「とりあえず、良かったのかな」

 レクスの辛そうな顔につい流されてこんなことになった。本人にも言ったようにランは愚痴くらいしか聞いてやれないと思う。それでレクスの気が晴れるなら全然協力しよう、とランは思った。

「レクスの気に入るお嫁さんが見つかるまで……か」

 ランはいつの間にかうとうとと眠りについていた。



「――ラン、ラン」
「ん……レクス」
「そろそろ夕飯だけど」
「ん……」

 耳をくすぐるレクスの声。その声にランがうっすら目をあけると鼻の先にレクスの顔があった。

「わっ……!」
「どうした?」

 あまりの近さに声を出してしまったランに、レクスはいたずらっ子のように笑った。

「あんまり無防備に寝てたからつい」
「ちぇ……」

 からかわれたのだ、と気付いたランは口を尖らせた。ベッドのふわふわ加減もあってついぐっすりとねむってしまったのだ。

「さ、食事が冷めてしまう」
「わかったよ」

 レクスに急かされて、ランはしぶしぶ食卓についた。食事を取りながら、ランはレクスに聞いた。

「明日から僕はどうしたらいいのかな」
「好きにしてくれたらいいよ」

 そう言われても困る。ランはレクスの予定を聞く事にした。

「レクスは? 何をしているの?」
「俺は午前は勉強、午後はお茶会……という名の見合いだ」
「勉強もしてるのか」
「うん。勉強は好きだ。別に見合いを断る方便って訳じゃなくて好きでやってる」
「そっか……」

 ランはあんまり勉強は好きではなくて学校も途中で辞めてしまった。どちらかというと体を動かしている方が好きだ。

「明日は建築学の学者の人が来てくれる。専門家の意見を聞きたいと前から……」

 レクスの勉強の範囲はランの想像以上だった。レクスは建築についてつらつらと述べていたがランにはちんぷんかんぷんだった。

「……あ、こんな話おもしろくなかったか」
「ううん。話してるレクスが面白いからいいよ」
「俺が面白い?」
「うん、楽しそうで」

 ランがそう言うと、レクスは少し恥ずかしそうにそっか、と頬を掻いた。
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