9 / 82
-3
しおりを挟む
袖をまくって、腰紐をウンと引っ張ってなんとか着替えたランは、手招きするレクスについてドアをくぐった。
「こ……これ……食べていいのか?」
目の前にあらわれたご馳走を見て、ランはごくりとつばを飲み込んだ。
「ああ」
パンにサラダにスープにステーキ、海老のグリル、鮭のムースに鶏ときのこのパスタ。食べきれないほどの豪勢な食事がテーブルに並んでいた。
盛り付けもどれも芸術品のように綺麗で、ランは王都に来る前だってこんなのは食べたことがなかった。
「う……美味しい」
「そうか、良かった」
行儀なんて無視してステーキにかぶりついたランは思わず唸った。柔らかく上質な牛肉の滋味が口内を駆け巡っていく。
その様を見て、レクスは満足そうに頷くと、自分も一緒に食事を取りはじめた。
「ああ……美味しかった。もう無理……」
ランは結局ありあまるご馳走を食べきれなかった。パンパンに張ったお腹を抱えて、ランはテーブルに寄りかかった。
「まだチーズとデザートもあるぞ」
「いや……入らないって……後で持って帰ってもいい?」
こんな美味しいもの、独り占めはもったいない。きっと心配しているだろうし、ビィにも食べさせてやりたい。
そう思って言ったのだが、その途端レクスの顔色が変わった。
「……帰るつもりなのか? あんなところに?」
その言い方にランは少しカチンときた。
「あんなところでも俺の居場所はあそこなんだよ」
汚くて治安も最悪でその日暮らしでも、王都でランを受け入れてくれたのはあそこだけだった。皆、なにかしら過去があるから詮索もしないし、それなりに居心地は良かったのだ。
「……すまん」
ランの言葉にレクスは俯いてしまった。少しキツく言い過ぎてしまったかもしれない。
「いや……その、他に行き場所もないしさ」
ランはそう付け足した。すると、レクスは顔をあげてこう言った。
「それなら、ここに居ればいい」
「……王城に? さっきから、なんで俺が王城にいなきゃいけないんだよ」
「……そうだよな」
レクスはまたしょんぼりしてしまった。忙しいやつだな、とランは思いつつ、そうしていると子供の時の面影を感じる。
「レクス、どうしたんだ。なんで俺にここに居て欲しいんだ。訳があるんだろ?」
「……それは、心配だし」
そう答えたレクスをランはじっと見つめた。
「そんな答えじゃ、俺は納得しないぞ」
「……しょうがないな……」
ランの視線を受けて、レクスは立ち上がった。
「場所を移そう」
そう言って、レクスは居間に食後のお茶を用意させた。
「こ……これ……食べていいのか?」
目の前にあらわれたご馳走を見て、ランはごくりとつばを飲み込んだ。
「ああ」
パンにサラダにスープにステーキ、海老のグリル、鮭のムースに鶏ときのこのパスタ。食べきれないほどの豪勢な食事がテーブルに並んでいた。
盛り付けもどれも芸術品のように綺麗で、ランは王都に来る前だってこんなのは食べたことがなかった。
「う……美味しい」
「そうか、良かった」
行儀なんて無視してステーキにかぶりついたランは思わず唸った。柔らかく上質な牛肉の滋味が口内を駆け巡っていく。
その様を見て、レクスは満足そうに頷くと、自分も一緒に食事を取りはじめた。
「ああ……美味しかった。もう無理……」
ランは結局ありあまるご馳走を食べきれなかった。パンパンに張ったお腹を抱えて、ランはテーブルに寄りかかった。
「まだチーズとデザートもあるぞ」
「いや……入らないって……後で持って帰ってもいい?」
こんな美味しいもの、独り占めはもったいない。きっと心配しているだろうし、ビィにも食べさせてやりたい。
そう思って言ったのだが、その途端レクスの顔色が変わった。
「……帰るつもりなのか? あんなところに?」
その言い方にランは少しカチンときた。
「あんなところでも俺の居場所はあそこなんだよ」
汚くて治安も最悪でその日暮らしでも、王都でランを受け入れてくれたのはあそこだけだった。皆、なにかしら過去があるから詮索もしないし、それなりに居心地は良かったのだ。
「……すまん」
ランの言葉にレクスは俯いてしまった。少しキツく言い過ぎてしまったかもしれない。
「いや……その、他に行き場所もないしさ」
ランはそう付け足した。すると、レクスは顔をあげてこう言った。
「それなら、ここに居ればいい」
「……王城に? さっきから、なんで俺が王城にいなきゃいけないんだよ」
「……そうだよな」
レクスはまたしょんぼりしてしまった。忙しいやつだな、とランは思いつつ、そうしていると子供の時の面影を感じる。
「レクス、どうしたんだ。なんで俺にここに居て欲しいんだ。訳があるんだろ?」
「……それは、心配だし」
そう答えたレクスをランはじっと見つめた。
「そんな答えじゃ、俺は納得しないぞ」
「……しょうがないな……」
ランの視線を受けて、レクスは立ち上がった。
「場所を移そう」
そう言って、レクスは居間に食後のお茶を用意させた。
36
第8回BL小説大賞の投票がはじまりました。清き一票をお待ちしております。
お気に入りに追加
2,240
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる