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「王族……って、お前そんなこと一言も……」

 ランがレクスと知り合った時、レクスはただ田舎に療養に来ただけの子供だった。もし王族ならとっくに噂になっていたと思うし、ランが気軽に遊びになんて行けなかったと思う。

「……俺がここに連れて来られたのは十五の時だ」
「二年前……・」
「ああ。元々、祖父は王家の血筋だったけど、王位継承権を持つアルファが亡くなって俺に白羽の矢が立ったんだ」
「そっか……色々大変だったんだな」

 ランはあっけに取られながら、レクスの話を聞いていた。

「ラン……会えてうれしい」
「え、あ……俺もだよ」
「そうか、良かった」

 レクスの成長っぷりは予想外だったものの、ランはまさか会えると思っていなかった彼に会えたことは素直に嬉しかった。まあ、出会い方はさんざんなものだったが。

「あの、ごめんな。財布すろうとして」
「……ああ」
「でも、あんな所をそんな身なりでウロウロしていたら俺じゃなくてもだれかがやってたよ。一体何をしていたんだ。王族ともあろう者が」
「……気晴らしに散歩をしていたんだ」
「気晴らし?」

 レクスの言葉にランは首を傾げる。王都の危険地帯を歩く事が気張らしだなんて相当変わってる。

「散歩なら公園とかに行けよ」
「はは……そうだな、今度からそうするよ。さて、腹は減ってないか? 食事にしよう」
「へ、減ってる……!」

 食事と聞いて、ランは胃がぐうと鳴るのを抑えられなかった。昨日のあがりは銅貨二枚。パンをひとつやっと買えるくらいしかなかった。

「では、まず風呂に入っておいで。その間にここに運ばせるから」
「あ、うん」

 そこでランは初めて自分の格好がどんなだかに気が付いた。垢じみたシャツ。風呂は三日前に入ったきり。ランは慌てて高級そうなソファから立ち上がった。

「あ、汚くて……ごめん」
「気にするな。さあ、浴室はあっちだ」
「うん……」

 ランは案内された浴室でこれでもか、というくらい石鹸を泡立てて体を磨いた。

「ふう……」

 そして見た事のないくらい大きなバスタブに体を沈める。

「レクス……か……」

 まさか王族に迎え入れられていたとは思わなかった。ソファのある部屋以外にも続きの部屋がある広い部屋、そしてこの浴室。

「はぁ……天と地……だな」

 ランはふっとため息をついて体を拭いた。痩せて小さい自分の体が嫌でも目に入る。

「……くそ」

 ランは用意されていた着替えに袖を通す。それもやっぱりランには随分大きかった。
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