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捜査開始

33. 九日目(謹慎初日)、自宅への来訪者Ⅲ ②

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「どういう意味ですか?」
「この事件は黒い闇が何層にも渦巻いてる。得体の知れない何者かが好奇心旺盛
な子羊を捕まえるべく、今か今かと涎を垂らしながら待ち構えているんだ」
「いくら何でも飛躍しすぎじゃないんですか?」
「確かに少々大袈裟かもしれないが危険な事には違いない。俺はお前を失いたく
ない。これは正直な気持ちだ」
 アイスコーヒーの余りを冷蔵庫に戻す後藤。
「それでも俺は挑戦しますよ」
「頑固な所は父親譲りか」
「父を知ってるんですか?」
「現場で厳しく指導して戴いた先輩だ。お前が三歳の時、歌舞伎町の抗争に巻き
込まれて殉職した。遺体は損傷が酷くて着ていた制服の持ち物から本人だろうと
判断された」
「そうだったんですか……」
 アイスコーヒーをテーブルに置くと綾部が席に戻り、後藤がベランダの窓を開
けて外の空気を部屋の中へと入れて遠くを見詰める。

「ところで先輩は今何をしてるんですか?」
 衝撃の過去の後での説得は心に負担が大きいと判断して後藤の話に付き合う事
にする。
「そうか。お前には話してなかったな。教官を辞めてから一年間、無職で遊んで
いたら知人からホルモン焼きの店をオープンするのが夢で出資して欲しいって頼
まれてな。店の事は全て任せているからオーナーになったって言っても名前を貸
してるだけかもしれないな」
「先輩の名前の看板ならタチの悪い連中は来ないですね」
「町で流行ってる。通り名の効果か?」
 綾部は誰が付けたか分からない通り名を快く思はないので怪訝な表情を見せる。
「勿論です。西新宿の怪物って言えば極道者でも無茶はしませんよ」
「俺でも敵わない男が一人だけ居るぜ」
 後藤は目を丸くして驚いたが最近耳にした男を思い出すと声に出していた。
「それって歌舞伎町を腕力で支配していたと言われている銀髪の悪魔ですか!?」
「やけに詳しいな」
「都市伝説だと思ってましたけど……」
「奴の強さは別格だよ」
「先輩ですら倒せないなら本物ですね。私からも質問して良いですか?」
「もちろんだ」
「どうして警察を辞めたんですか?」
「警察組織に居ては俺のやりたい事が実現できないと感じたからだ」
「上層部が原因ですか?」
「そうだ。頭の固い連中の相手をするのは俺には向いてないって気付いたのさ」
「完璧な人間はいないって事ですか?」
「そうだ」
「先輩のやりたい事って……」
 少し間を置いて話を続ける綾部。
「族同士の喧嘩の見届け人だ」
「噂は本当なんですね」
「笑いたい奴には笑わせとけば良い」
「息子さんが原因ですか?」
「そうだ。警察官としては一人前だったと自負しているが父親としてはアイツを
守る事ができなかった。ガキの喧嘩だと思って軽視した結果が一人息子を手放す
結果となってしまった」
「どうして息子さんが亡くなったんですか!?」
 本当に聞いて良いのか迷いながらも口に出していた後藤だった。
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