32 / 136
捜査開始
32. 九日目(謹慎初日)、自宅への来訪者Ⅲ ①
しおりを挟む
「ピピピッピピピッ……」
「カチャ」
目覚まし機能を止めるとベッドから起き上がる。そこから、両手を左右一杯に
伸ばして身体を解した後、冷蔵庫からミネラルウォーター入りのペットボトルを
取り出して喉を潤していく。次に時刻を確認する。午後九時を過ぎている事が分
かると思わず笑みが浮かぶ。
「こんなにも熟睡したのは久々だ」
昼間から八時間以上の熟睡は警察学校に入校してからは全くなかった。常に緊
張感が支配している性なのか中々深い眠りに入れずにいた。小腹が空いたので、
キッチンの棚上の扉を開けてカップラーメンを一個掴むと湯を沸かして割り箸を
用意する。湯を注いで三分待つ間、テレビのニュースを観て時間を潰す。目立つ
事件が無い事が分かると一気にラーメンを胃袋に押し込んで空腹を満たしていく。
「ピンポーン」
「こんな時間に誰だろう?」
玄関へ行き、突然の来訪者の顔を確認する。襟を立てているので顔全体が良く
見えないがスキンヘッドである事は分かった。
「早く、中に入れてくれ」
「顔をしっかりと見せて貰えますか」
「それは済まなんだな。これでええか?」
来訪者は襟を元に戻すと左頬に傷がある大男だと分かった。知っている顔だと
分かると大男を中へと招き入れた。
「おう、久しぶりだな。元気しとったか?」
「一応、元気です。教官は元気そうですね」
後藤は、挨拶を手短にしてクローゼットから座布団を出して教官に手渡すと飲
み物を準備するからと席を外した。教官と呼ばれた男は飲み物が来るまでの間、
無言で部屋の隅々を観察している。冷蔵庫から紙パックに入ったアイスコーヒー
(来客用)と牛乳を取り出して3対1の割合でグラスに注ぐとガムシロップ三個
分を持って大男の好みの味に対応できるようテーブルへと運ぶ。目の前に出され
た物を見詰めながら教官と呼ばれた男は沈黙を破り、話を始めた。
「俺の好みを正確に覚えていてくれたとは嬉しいよ」
「不器用な私を可愛がってくれた教官ですから。当然ですよ」
「俺は、もう教官じゃないから違う呼び方にしてくれるか?」
「分かりました。ピース先輩」
「お前達、好きだよな。その名前」
「何言ってるんですか。名字の綾部で呼べる人の方が圧倒的に少ないですよ」
特製アイスコーヒーを飲みながら本題に入る綾部。
「一時間前に黒沢から電話が入ってな……」
「大人しく家に居るか観て来て欲しいって言われたんですね?」
歯切れが悪い綾部の心情を察して話しやすい空気を作り出す後藤。綾部と黒沢
が同期である事は承知の事実だった。
「まぁ。そんな所だ」
「じゃあ、黒沢警部に伝えといて下さい。私は心配要らないって」
「分かった。ちゃんと伝えとくよ」
綾部のアイスコーヒーが残り僅かとなったのを確認すると再び継ぎ足しに行く
後藤。後を追うようにして席を立ち上がる綾部。
「後藤。個人的な質問で悪いんだが、どうしても、この事件から手を引けないの
か?」
「また~。先輩まで恐い顔して。そういうのは困るなー」
「俺は真面目に聞いているんだぞ!」
綾部がカウンターテーブルの端に左の拳を強めに叩きつけたので思わず持って
いたグラスを零しそうになる後藤。
「私は仕事を途中で放り出したくないんです」
綾部は後藤の考えが変わる事を頭に思い描きながら背中を向けるとベランダ側
のカーテンの側に移動して語り始める。
「教え子の中で二人だけに特別な感情を持っている。一人は最初の教え子で完璧
に習得した木島。そして最後の教え子で物覚えの悪かった後藤。お前だ」
「心配して貰えるのは有難く思っています」
「お前は何も分かっちゃいない。木島程の男が謎の自殺を遂げた意味を!」
「カチャ」
目覚まし機能を止めるとベッドから起き上がる。そこから、両手を左右一杯に
伸ばして身体を解した後、冷蔵庫からミネラルウォーター入りのペットボトルを
取り出して喉を潤していく。次に時刻を確認する。午後九時を過ぎている事が分
かると思わず笑みが浮かぶ。
「こんなにも熟睡したのは久々だ」
昼間から八時間以上の熟睡は警察学校に入校してからは全くなかった。常に緊
張感が支配している性なのか中々深い眠りに入れずにいた。小腹が空いたので、
キッチンの棚上の扉を開けてカップラーメンを一個掴むと湯を沸かして割り箸を
用意する。湯を注いで三分待つ間、テレビのニュースを観て時間を潰す。目立つ
事件が無い事が分かると一気にラーメンを胃袋に押し込んで空腹を満たしていく。
「ピンポーン」
「こんな時間に誰だろう?」
玄関へ行き、突然の来訪者の顔を確認する。襟を立てているので顔全体が良く
見えないがスキンヘッドである事は分かった。
「早く、中に入れてくれ」
「顔をしっかりと見せて貰えますか」
「それは済まなんだな。これでええか?」
来訪者は襟を元に戻すと左頬に傷がある大男だと分かった。知っている顔だと
分かると大男を中へと招き入れた。
「おう、久しぶりだな。元気しとったか?」
「一応、元気です。教官は元気そうですね」
後藤は、挨拶を手短にしてクローゼットから座布団を出して教官に手渡すと飲
み物を準備するからと席を外した。教官と呼ばれた男は飲み物が来るまでの間、
無言で部屋の隅々を観察している。冷蔵庫から紙パックに入ったアイスコーヒー
(来客用)と牛乳を取り出して3対1の割合でグラスに注ぐとガムシロップ三個
分を持って大男の好みの味に対応できるようテーブルへと運ぶ。目の前に出され
た物を見詰めながら教官と呼ばれた男は沈黙を破り、話を始めた。
「俺の好みを正確に覚えていてくれたとは嬉しいよ」
「不器用な私を可愛がってくれた教官ですから。当然ですよ」
「俺は、もう教官じゃないから違う呼び方にしてくれるか?」
「分かりました。ピース先輩」
「お前達、好きだよな。その名前」
「何言ってるんですか。名字の綾部で呼べる人の方が圧倒的に少ないですよ」
特製アイスコーヒーを飲みながら本題に入る綾部。
「一時間前に黒沢から電話が入ってな……」
「大人しく家に居るか観て来て欲しいって言われたんですね?」
歯切れが悪い綾部の心情を察して話しやすい空気を作り出す後藤。綾部と黒沢
が同期である事は承知の事実だった。
「まぁ。そんな所だ」
「じゃあ、黒沢警部に伝えといて下さい。私は心配要らないって」
「分かった。ちゃんと伝えとくよ」
綾部のアイスコーヒーが残り僅かとなったのを確認すると再び継ぎ足しに行く
後藤。後を追うようにして席を立ち上がる綾部。
「後藤。個人的な質問で悪いんだが、どうしても、この事件から手を引けないの
か?」
「また~。先輩まで恐い顔して。そういうのは困るなー」
「俺は真面目に聞いているんだぞ!」
綾部がカウンターテーブルの端に左の拳を強めに叩きつけたので思わず持って
いたグラスを零しそうになる後藤。
「私は仕事を途中で放り出したくないんです」
綾部は後藤の考えが変わる事を頭に思い描きながら背中を向けるとベランダ側
のカーテンの側に移動して語り始める。
「教え子の中で二人だけに特別な感情を持っている。一人は最初の教え子で完璧
に習得した木島。そして最後の教え子で物覚えの悪かった後藤。お前だ」
「心配して貰えるのは有難く思っています」
「お前は何も分かっちゃいない。木島程の男が謎の自殺を遂げた意味を!」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる