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捜査最終日

117. 十一日目(謹慎三日)、明かされた殺人計画 

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 正直、時より敬語になる話し方が気色悪かったが真実を知る為にも
不快感を顔に出さずに話の続きを待っていた。
「さて、これから話す事は警察も知らない事実なんだけれども私は、
犯人を非常に良く知っているので情報を掴む事が出来ている事を念頭
に置いて欲しい」
 東は自分専用の回転椅子に座ると後藤の正面に身体の向きを変えて
話し始めた。
「分かった」
 後藤は敢えて砕けた調子で答えたが東の表情が変わる事は無かった。
「では話そう。今の時点で犯人の名前は伏せるが隆はもちろんの事、
愛里にとっても警戒心を抱かない人物が殺人計画を立てて実行してい
たんだよ」
「殺人計画!?」
 先程、話していた偶然みたいな発言とは真逆の答えにツッコミを入
れそうだったが声に出すのは堪えた後藤。
「そうだよ。犯人は二人にとって親しい人間であり、製薬会社に勤め
ていた経緯があってね」
(事件と製薬会社に何か関係があるんだろうか?)

 後藤からの返事が無かったが構わず続きを話し始める東。
「即効性の睡眠薬も独自に開発していてね。マウスで劇的な効果が得
られた後、ある日、隆は人気が居ない早朝に愛里の自宅に呼び出され
て眠い目を擦りながら運転して玄関の少し離れた所で停車して彼女を
待っていたんだよ」
「それで?」
「そこへ犯人が接触を図り、眠気覚ましの一杯として独自開発した睡
眠薬入りの特製ウーロン茶を手渡して隆が飲んでしまったという訳だ」
「でもそれだけだと眠っているだけで女性を車で引きずる行動には、
繋がりませんよっ」
「そこが最も重要なポイントなんだ。大切な君の為にだけ教えるんだ
が隆の車に特別な仕掛けを施していたんだよ。しかも、その作業を実
行する為に一度、トランクルームを開けさせて席を離れるように話を
してね!」
「手順が細かいですねっ。で、そのトリックを知っているんですか?」
 肝心なトリックにお預けは無いだろうとは思ったが好奇心の塊の様
な視線を投げかける後藤。

「あぁ、もちろん知っているよ。ブレーキペダルとアクセルに境界線
を施す板とブレーキペダルその物を動かせなくしてしまうカバーを取
り付けたんだ。両方とも強化プラスチックだったんだけどね」
「実にシンプルなトリックだったんですね!?」
「そうだよ。複雑なものは形跡が残りやすいし不審に思われるからね」
「取り付けた後はどうしたんですか?」
「犯人は、愛里を呼び出す事に成功し、外を出て来た彼女が隆を確認
すると手を振ったんだ」
「それで隆兄さんはアクセルを踏んだんですね?」
「そうだよ。そうこうしている内に睡眠薬が徐々に効いてきて眠気が
高まる中で足元の状況が分からず、彼女の前でブレーキペダルをいつ
もより強めに踏んだんだ。ブレーキが使用できない空間だから彼は、
自分がアクセルを踏んだ事に気付いていなかったと思う。これが君が
知りたかった真実だ!」
 まるで、そこで一部始終を観て来たかのような発言に東の正体が気
になって仕方が無かったが今の自分の気持ちを正直に口に出し始める。
「成程、確かに理に叶ってます。ですが、その計画を立てて実行した
人物はクズですね!」
「クズか。面白い発言だね」
 この時の東の冷ややかな視線に得体の知れない気持ち悪さを覚えて
体感温度が下がった感覚に陥っていた。

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