聖女召喚でなぜか呼び出された、もう30のお兄さん(自称)ですが、異世界で聖人することにしました。

藜-LAI-

文字の大きさ
42 / 46

19.鈍る決意①

しおりを挟む
 魔物を見事に撃ち果たしてから二節。
 戦場となったナゼリアの街ではようやく復興作業が始まり、リュミナスを含めたエントリノ騎士団が主体となって慌ただしく動き回っている。
「よう、破壊神」
「それ言います?」
「冗談だろ。あんな化け物相手に、よくやったよ」
「こんなに被害出しちゃいましたけどね」
 目の前に広がる瓦礫の山を、なんとも言えない気持ちで見つめながら、依斗は気を落として縮こまる。
 依斗が最後に放った一撃は魔物だけでなく、周りの建物をも破壊して、住民がすべて避難していたとはいえ、惨状を作り出してしまった。
「聖剣は瘴気を祓うだけじゃなかったのかと」
「仕方ないんじゃないか。結界のせいで瘴気が溢れかえってた訳だからな」
 リュミナスは水で喉を潤しながらそう答えると、揶揄うような笑顔を浮かべて気にするなと依斗の肩を叩いてから作業に戻っていく。
 本当であれば依斗もこの復興作業を手伝いたかったが、体調が本調子ではないので、ジレーザの許可を得て様子を見にきただけだ。
「ヨリト様、こちらにいらしたんですね、ふう。お探ししましたよ、ふう」
 慌てた様子のネルディムが、ふくよかな体をたゆんたゆん揺らして走ってやってくると、ポケットから取り出したハンカチで額に滲んだ汗を拭っている。
「ようネルディム。悪いな、リュミナスさんを見掛けたから、つい挨拶しとかなきゃと思って」
「どうかお気になさらず。ですがお一人での行動は謹んでいただきませんと」
「悪かったって」
 依斗はネルディムの肩を抱いて顎の下に手を回すと、たぷたぷと顎の肉を揺らして、走り回らせてごめんなと汗で濡れた髪をワシワシと撫でる。
 魔物を倒した後、依斗がジレーザを組み敷いて享楽に耽っている間に、エントリノ騎士団が各所に残された結界のための核となるクリスタルをすべて回収した。
 回収されたクリスタルと魔物の肉片などは、現在サーチェス内の研究施設で調査と分析が行われており、今後の瘴気被害への有効な対策が見込めるとして期待が高まっているらしい。
「そういえばジレーザは、どうしてる」
「ヨリト様を元の世界に戻すための、準備に取り掛かっておいでです」
「ああね」
「本当に、宜しいのですか」
 適当な相槌を打った依斗を見上げると、ネルディムは悲しそうな顔をして、本当に良いんですかと確かめるようにもう一度問い掛ける。
「まあ、俺はアレのために呼ばれただけだからね」
 依斗は崩れた瓦礫の山を見つめると、ネルディムの顎をたぷたぷと揺らして、これが出来なくなるのは寂しいけどとおどけてみせる。
 依斗が瘴気の魔物を倒したことで、サーチェスにおける聖人の務めは終わりを告げた。
 そして世界を救った依斗に対して皇帝が賛辞と共に褒美を送ると申し出た際、元の世界に帰ることは出来ないかと、依斗は何気なく口にしてしまった。
 別にどうしても元の世界に帰りたい理由なんてない。
 けれど聖人の力が必要なくなった時、依斗は自分の存在意義を見失いそうで、不意に沸き起こった漠然とした不安から、ついそんな言葉を漏らしてしまった。
 そしてその時のジレーザの顔が頭から離れない。
「私は、寂しいです」
「ネルディム?」
「ヨリト様がいなくなってしまうなんて、それではまるで、消耗品のような扱いではないですか」
「いやいや、俺にも奪われた生活があっただろうって、皇帝陛下の配慮だろ」
「ですが世界を救った救世主様に対して、あまりにも酷い仕打ちです」
 ふくよかな体をプルプルと震わせながら、ネルディムは目元を潤ませて悔しそうに呟く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

処理中です...