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19.鈍る決意①
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魔物を見事に撃ち果たしてから二節。
戦場となったナゼリアの街ではようやく復興作業が始まり、リュミナスを含めたエントリノ騎士団が主体となって慌ただしく動き回っている。
「よう、破壊神」
「それ言います?」
「冗談だろ。あんな化け物相手に、よくやったよ」
「こんなに被害出しちゃいましたけどね」
目の前に広がる瓦礫の山を、なんとも言えない気持ちで見つめながら、依斗は気を落として縮こまる。
依斗が最後に放った一撃は魔物だけでなく、周りの建物をも破壊して、住民がすべて避難していたとはいえ、惨状を作り出してしまった。
「聖剣は瘴気を祓うだけじゃなかったのかと」
「仕方ないんじゃないか。結界のせいで瘴気が溢れかえってた訳だからな」
リュミナスは水で喉を潤しながらそう答えると、揶揄うような笑顔を浮かべて気にするなと依斗の肩を叩いてから作業に戻っていく。
本当であれば依斗もこの復興作業を手伝いたかったが、体調が本調子ではないので、ジレーザの許可を得て様子を見にきただけだ。
「ヨリト様、こちらにいらしたんですね、ふう。お探ししましたよ、ふう」
慌てた様子のネルディムが、ふくよかな体をたゆんたゆん揺らして走ってやってくると、ポケットから取り出したハンカチで額に滲んだ汗を拭っている。
「ようネルディム。悪いな、リュミナスさんを見掛けたから、つい挨拶しとかなきゃと思って」
「どうかお気になさらず。ですがお一人での行動は謹んでいただきませんと」
「悪かったって」
依斗はネルディムの肩を抱いて顎の下に手を回すと、たぷたぷと顎の肉を揺らして、走り回らせてごめんなと汗で濡れた髪をワシワシと撫でる。
魔物を倒した後、依斗がジレーザを組み敷いて享楽に耽っている間に、エントリノ騎士団が各所に残された結界のための核となるクリスタルをすべて回収した。
回収されたクリスタルと魔物の肉片などは、現在サーチェス内の研究施設で調査と分析が行われており、今後の瘴気被害への有効な対策が見込めるとして期待が高まっているらしい。
「そういえばジレーザは、どうしてる」
「ヨリト様を元の世界に戻すための、準備に取り掛かっておいでです」
「ああね」
「本当に、宜しいのですか」
適当な相槌を打った依斗を見上げると、ネルディムは悲しそうな顔をして、本当に良いんですかと確かめるようにもう一度問い掛ける。
「まあ、俺はアレのために呼ばれただけだからね」
依斗は崩れた瓦礫の山を見つめると、ネルディムの顎をたぷたぷと揺らして、これが出来なくなるのは寂しいけどとおどけてみせる。
依斗が瘴気の魔物を倒したことで、サーチェスにおける聖人の務めは終わりを告げた。
そして世界を救った依斗に対して皇帝が賛辞と共に褒美を送ると申し出た際、元の世界に帰ることは出来ないかと、依斗は何気なく口にしてしまった。
別にどうしても元の世界に帰りたい理由なんてない。
けれど聖人の力が必要なくなった時、依斗は自分の存在意義を見失いそうで、不意に沸き起こった漠然とした不安から、ついそんな言葉を漏らしてしまった。
そしてその時のジレーザの顔が頭から離れない。
「私は、寂しいです」
「ネルディム?」
「ヨリト様がいなくなってしまうなんて、それではまるで、消耗品のような扱いではないですか」
「いやいや、俺にも奪われた生活があっただろうって、皇帝陛下の配慮だろ」
「ですが世界を救った救世主様に対して、あまりにも酷い仕打ちです」
ふくよかな体をプルプルと震わせながら、ネルディムは目元を潤ませて悔しそうに呟く。
戦場となったナゼリアの街ではようやく復興作業が始まり、リュミナスを含めたエントリノ騎士団が主体となって慌ただしく動き回っている。
「よう、破壊神」
「それ言います?」
「冗談だろ。あんな化け物相手に、よくやったよ」
「こんなに被害出しちゃいましたけどね」
目の前に広がる瓦礫の山を、なんとも言えない気持ちで見つめながら、依斗は気を落として縮こまる。
依斗が最後に放った一撃は魔物だけでなく、周りの建物をも破壊して、住民がすべて避難していたとはいえ、惨状を作り出してしまった。
「聖剣は瘴気を祓うだけじゃなかったのかと」
「仕方ないんじゃないか。結界のせいで瘴気が溢れかえってた訳だからな」
リュミナスは水で喉を潤しながらそう答えると、揶揄うような笑顔を浮かべて気にするなと依斗の肩を叩いてから作業に戻っていく。
本当であれば依斗もこの復興作業を手伝いたかったが、体調が本調子ではないので、ジレーザの許可を得て様子を見にきただけだ。
「ヨリト様、こちらにいらしたんですね、ふう。お探ししましたよ、ふう」
慌てた様子のネルディムが、ふくよかな体をたゆんたゆん揺らして走ってやってくると、ポケットから取り出したハンカチで額に滲んだ汗を拭っている。
「ようネルディム。悪いな、リュミナスさんを見掛けたから、つい挨拶しとかなきゃと思って」
「どうかお気になさらず。ですがお一人での行動は謹んでいただきませんと」
「悪かったって」
依斗はネルディムの肩を抱いて顎の下に手を回すと、たぷたぷと顎の肉を揺らして、走り回らせてごめんなと汗で濡れた髪をワシワシと撫でる。
魔物を倒した後、依斗がジレーザを組み敷いて享楽に耽っている間に、エントリノ騎士団が各所に残された結界のための核となるクリスタルをすべて回収した。
回収されたクリスタルと魔物の肉片などは、現在サーチェス内の研究施設で調査と分析が行われており、今後の瘴気被害への有効な対策が見込めるとして期待が高まっているらしい。
「そういえばジレーザは、どうしてる」
「ヨリト様を元の世界に戻すための、準備に取り掛かっておいでです」
「ああね」
「本当に、宜しいのですか」
適当な相槌を打った依斗を見上げると、ネルディムは悲しそうな顔をして、本当に良いんですかと確かめるようにもう一度問い掛ける。
「まあ、俺はアレのために呼ばれただけだからね」
依斗は崩れた瓦礫の山を見つめると、ネルディムの顎をたぷたぷと揺らして、これが出来なくなるのは寂しいけどとおどけてみせる。
依斗が瘴気の魔物を倒したことで、サーチェスにおける聖人の務めは終わりを告げた。
そして世界を救った依斗に対して皇帝が賛辞と共に褒美を送ると申し出た際、元の世界に帰ることは出来ないかと、依斗は何気なく口にしてしまった。
別にどうしても元の世界に帰りたい理由なんてない。
けれど聖人の力が必要なくなった時、依斗は自分の存在意義を見失いそうで、不意に沸き起こった漠然とした不安から、ついそんな言葉を漏らしてしまった。
そしてその時のジレーザの顔が頭から離れない。
「私は、寂しいです」
「ネルディム?」
「ヨリト様がいなくなってしまうなんて、それではまるで、消耗品のような扱いではないですか」
「いやいや、俺にも奪われた生活があっただろうって、皇帝陛下の配慮だろ」
「ですが世界を救った救世主様に対して、あまりにも酷い仕打ちです」
ふくよかな体をプルプルと震わせながら、ネルディムは目元を潤ませて悔しそうに呟く。
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