勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

文字の大きさ
1 / 95
1巻

1-1

しおりを挟む




 第一章 どん底からの逆転



 1.授かったのはバツランク?


「バッカもーん!」

 怒鳴り声とともに、父上の強烈な右フックがオレの左ほほにガツンと決まり、オレはそのまま三メートルほど吹っ飛ばされる。
 父上は現在五十歳。髪はだいぶ薄くなり、お腹もでっぷりと肉がついているが、腰の入ったなかなかいいパンチだった。

「ち、父上っ、何故殴るのですかっ!? 史上初の『エックスランク』ギフトを授かったのですよ!?」

 オレは殴られた理由が分からず、父上につい抗議してしまう。
 オレが口答えするなんて初めてかもしれない。

「Xランクなどというものがあるかっ! それはどうせ、どうしようもなくダメという意味の『バツランク』だ!」
「えええっ、そんなっ!?」

 確かにバツランクとも読めるけど、ほかのランクがアルファベット読みなら、Xもエックスと読むのが普通では!? いや『バツ』でも『エックス』でも史上初ということには違いないけど。
 本日十八歳となったオレは、神様から『ギフト』を授かる神聖な儀式を受けに教会へ行ってきた。体に『聖紋せいもん』が浮かび上がったからだ。
 ギフトとは一人一つだけ持つことができる特別な能力だ。そのため、いつでも授かれるわけじゃなく、それを受け取る準備が体にも必要らしい。
 この聖紋が準備の整ったサインなのである。
 ただ、早ければ十三歳で出現する聖紋が、何故かオレはこの歳になるまで出なかった。
 同年代の中でもオレがぶっちぎりで遅く、父上も心配……というかもはやあきれ果てて、最近では完全に見放されている状態だった。
 そして今朝、待ちがれていた聖紋がようやく浮かび上がったので、オレは喜びいさんで儀式を受けに行ってきたのだ。
 ギフトは才能みたいなものだから、良いギフトを授かれば、それだけ順調に成長していくことができる。
 とはいえ、たとえ低ランクのギフトを授かっても、努力次第では上位ギフトに負けないほど能力が伸びることもある。
 ただ、それでも限界があって、良いギフトを授かった人が同じように努力したら、結局のところ低ランクでは勝てないだろう。
 ギフトのランクは通常、下は『F』から上は『S』までだが、ごくまれに『SSランク』という飛び抜けた才能が出ることもあるらしい。
 まあそんなものを授かれるのは世界でも数年に一人いるかどうかだが、誰もが素晴らしいギフトを夢見て儀式にのぞんでいる。
 オレも期待に胸をふくらませながら儀式を受けてみると、授かったのは誰も聞いたことがない謎のギフトだった。
 その名も『スマホ』。
 ギフトの一部には特殊な能力を持ったもの――ユニークギフトと呼ばれるものがあり、この『スマホ』はまぎれもなくそのユニークギフトだ。
 ユニークギフトは優秀なものが多く、さらに『スマホ』は史上初のXランク。これで父上の期待にこたえられると歓喜したのだが……

「リューク、もう一度その『スマホ』というヤツを見せてみろ」
「は、はい父上……」

 ギフトを発動すると、オレの手のひらにが浮かび上がる。

「……で、それはどんな能力が使えるのだ?」
「さあ? サッパリ分かりません」
「この役立たずめがあっ!」

 今度はオレのあごに、強烈なアッパーカットが決まった。
 今まで殴られたことがなかったので、こんなに痛いものなのかとビックリする。
 オレは三メートルほど打ち上げられ、天井に髪をかすめたあと落下した。

「黒髪の子はとてつもないギフトを授かるという言い伝えがあるから、わざわざお前を孤児院こじいんから引き取ってきたのだ。それがただの無能だったとは! 最低でもAランクの『剣鬼けんき』、できればSランクの『剣聖けんせい』、あわよくばSSランクの『剣神けんしん』まで期待しておったのに……!」

 そう、オレは幼い頃親に捨てられていて、孤児院に入れられた。
 そこを侯爵こうしゃくである父上ゲスニク・ハイゼンバーグに引き取られ、今まで大切に育ててもらってきた。
 それなのに、オレは父上の期待を裏切ってしまったのだ。父上にどうおびしていいか分からない。

「お前は史上初のダメギフトを授かったのだ! お前などもうワシの息子ではない。今この場で絶縁してやる。荷物をまとめてとっとと家を出ていけ」
「そ、そんな、父上……」
「はよう目の前から去れ! でないと、殺すぞ!」

 オレは父上に勘当かんどうされて、絶望に打ちひしがれる。
 こんなことになっては、もうオレは生きていけない……
 …………ん? そういえば『アッパーカット』ってなんだ? さっき殴られたときも『右フック』って単語が勝手に頭に浮かんできたが、そんな言葉聞いたことないぞ?
 何故かオレに、不思議ふしぎな感覚がき上がってきた。
 なんというか、急激に頭の回転が速くなるような……
 ちょっと待て、強烈きょうれつなパンチを喰らったことでなんか色々と思い出してきた。
 深くしずめられていた記憶がゆっくり浮上し、眠っていた自我が一気に目覚めていく感覚。


 …………そうだ、オレは異世界にんだった!


 さっき頭に浮かんだアッパーカットやフックという言葉は、転生前の世界……そう、『地球』にあったものだ。
 突如としてとんでもない事実を思い出し、オレの全身に衝撃が走る。
 地球で死んだあと神様と会って、そこでなんとなく謝られたような記憶もあるんだけど、そこはイマイチよく思い出せない。
 とにかく、オレは元地球人で、この異世界で第二の人生を歩んでるところだったんだ!
 子供の頃のことも思い出してきたぞ。
 オレは孤児院で結構幸せに暮らしていたのに、父上……いやこのゲスニクという男に十年前無理やり引き取られたんだ!
 そして何かの魔法で記憶を奪われ、オレは都合のいいように洗脳された。
 自分の意思を消されてしまったオレは、侯爵の息子という立場でありながら、炊事すいじ・洗濯・掃除などの日々の雑用を朝から晩までやらされていた。
 食事も残飯ざんぱんみたいなものしか与えられなかったっけ。
 寝る場所も倉庫のような汚いところだ。その上、睡眠時間はロクになかった。
 それでも洗脳されていたオレは、毎日文句も言わずに働いていた。それが当然と思い込まされていたからだ。
 そうだ、オレはここで奴隷どれい以下の扱いを受けていたんだ! 過労死しなかったのが不思議なくらいのな。
 記憶が戻ったら、一気に日頃の疲れが出てきたぞ!

「何度も言わせるな。お前はもうワシの息子でもなんでもない。早く消えろ」

 コイツめえええええええっ、よくも今までオレをだましてたな!?
 言われなくてもすぐに出ていってやるぜ!

「父上、今までお世話になりました!」

 一応ここまで育ててもらったお礼を言って、オレは父……いやゲスニクの部屋を出る。
 誕生日に勘当されるなんて普通なら不幸だろうけど、ずっとしいたげられてきたオレにとっては最高のプレゼントだ。
 まさしく今日は記念すべき自由への門出かどでなんだ!
 オレは自分の部屋に行き、荷物をまとめる。といっても、私物なんてロクに持ってないから、すぐにその作業は終わったが。
 屋敷から出ていこうとすると、廊下で警備兵たちと会った。

「おやおやダメっちゃん。聞きましたよ、クズギフトを授かっちゃったんですってねえ」
「おいおい、もうコイツは坊っちゃんじゃねえぜ。ゲスニク様に縁を切られたんだからな」
「お前なんて、すぐに野垂のたにしちまうだろうぜ、ギャハハハ」

 オレが勘当されたことはすでに屋敷中の人間が知っているようで、誰と会ってもバカにした態度を取られた。
 ああ、これも全部思い出したよ。この屋敷の連中は、全員オレのことを人間扱いしてくれなかったな。嫌なことはなんでもオレにやらせていたっけ。
 ゲスニクは力のある侯爵だから、私兵を二千人以上抱えているが、そいつらは全員だ。この屋敷の警備も当然そいつらにやらせている。
 これは、あちこちの地方を荒らしていた巨大山賊団のボスを金で手なずけたのが理由なのだが、山賊たちとしても侯爵の私兵という立場を隠れみのにしていれば討伐される心配はない。
 ゲスニクのおかげで美味うまい汁は吸えるし、ゲスニクとしてもモラルのない手下は逆に使いやすい。
 お互いの利害が一致したというわけだ。
 この山賊たちによる力ずくの統治で、領民は奴隷のような扱いを受けている。かといって、領地ここから逃げるのも難しい。
 モンスターなどの外敵から守るため、この街は高い防壁で囲まれているのだが、その出入り口である通行門を監視されているからだ。
 オレは侯爵家から解放されたが、この領地にいる以上、あまり暮らしは変わらないかもな。
 それでも自由に生きられるのは、オレにとって何にも代えられない宝だ。
 もしも有能なギフトを授かっていたら、ずっと洗脳されたまま一生ゲスニクの奴隷だったかもしれない。
 場合によっては、自分の意思とは無関係に、オレも領民たちを迫害していた可能性すらあった。
 それを避けることができたんだ。この『スマホ』っていうギフトを授けてくれた神様に感謝しなくちゃな。
 それにしても、『スマホこれ』っていったいなんなんだ? なんとなく知っている気はするんだが、イマイチ思い出せない。
 改めてもう一度発動してみるが、この手のひらサイズの板がなんの役に立つんだろう?
 ……まあいい。消されていた記憶と同じで、きっとおいおい思い出すだろう。
 仮になんの役にも立たなくても、自分の力で生きていくだけだ。
 屋敷でコキ使われてたことを思えば、どんな未来でもマシなのだから。



 2.美少女剣士との出会い


 街に出て仕事を探してみたが、オレを雇ってくれるところはなかった。
 一応オレは侯爵家の息子だったので、みんなオレの顔くらいは知ってる。
 家を追い出されたことまではまだ知られてないが、あのゲスニクの息子なんて、雇えば何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
 トラブルを抱えたくないのは当然だ。誰も恨むことなんてできない。
 仕方なく、オレは冒険者ギルドに行ってみた。
 こんな独裁政治の侯爵領でも冒険者は集まってくるため、管轄かんかつのギルドは存在している。
 そもそもこの領地で行われていることについては、冒険者たちは詳しく知らないだろう。
 ゲスニクは圧政を悟られないように、上手く領民たちを支配している。仮に知られたとしても、街の冒険者が侯爵のやることに口を出すのは難しいが。
 よって、冒険者たちは普通にギルドで依頼を受注し、達成して報酬を受け取る活動をしていた。
 オレに冒険者が務まるかは分からないが、ほかに仕事がない以上、頑張ってみるしかない。
 オレは身長百七十五センチ、どちらかと言えばやせ形で、あまり冒険者に向いている体格ではないだろう。
 そもそも冒険者とは、それに適したギフトを授かった人がなるものだ。そういう能力を持ってない人が目指すような職業じゃない。
 せめて剣術などの稽古けいこをしていれば良かったが、ひたすら雑用しかしてこなかったので剣を握ったこともない。当然魔法も一切使えない。
 ま、習うより慣れよだ。
 でかくて重い扉を開けて中に入ると、ここの領民とは全然別の種類の人間たちがそこにいた。
 みんなギラギラとして、精力があふれている感じだ。
 こえー……やっぱモンスターとかと戦うような奴らは、腕っぷしも強そうだな。
 少しビビりながら受付に行くと、二十代なかばの女性がカウンター越しに迎えてくれた。

「見かけないお顔ですが、この街の方ですか?」
「はい。冒険者になりたいんですけど、どうすればいいですか?」
「ここの領民の方が登録にいらっしゃるなんて珍しいですね。今手続きをしますので、少々お待ちください」

 ギルドの職員は他所よそから派遣はけんされているので、ここの領民じゃない。だからオレの顔も知らなかったようだ。
 恐らく、ここにいる冒険者たちも、オレのことは知らないだろう。
 ただし、ギルド長……確かフォーレントって名前だったか。あいつだけは別だ。
 オレは洗脳されていたが、ゲスニクの屋敷で二人が会っていたところを覚えている。
 どんな利権が絡んでいるか分からないが、恐らくゲスニクと付き合うことで美味い汁を吸っているに違いない。
 オレのことに気付かれないよう注意しなくちゃな。
 受付嬢の指示通りに手続きをして、冒険者となったあかしのカードを受け取る。冒険者の活動はこれに自動的に記録され、そして身分証にも使える便利なものだ。
 これまでゲスニクの奴隷だったオレは、自分の存在が認められたようで嬉しくなった。
 冒険者カードは本人の個人情報とリンクしていて、オレのステータスも確認することができる。
 現在のオレのステータスはこんな感じだ。


【 名前 】 リューク
【レベル】 1
【 HP 】 25/25
【 MP 】 12/12
【 筋力 】 4
【素早さ】 3
【器用さ】 3
【耐久力】 5
【 知力 】 3
【 魔力 】 3
【異常耐性】 1
【魔法耐性】 2
【 幸運 】 1


 他人のステータスがどの程度なのか知らないけど、多分この数値はいい部類じゃないだろうな。
 まあ頑張ってレベルを上げるしかない。
 本人の資質によって、初期ステータスの数値や能力の伸びは変わってくるけど、スタートはみんなレベル1からだ。ここからモンスターを倒して経験値を獲得することでレベルが上がっていく。
 そして冒険者のランクも、仕事をこなし、自身のレベルを上げていくことで昇級していく。
 最初はみんなFランクからで、一般的な最上位はSランクとなる。
 ただ、Sランクを超えたSSランク冒険者もごく少数いるらしく、このあたりはギフトのランクと同じような感じだ。
 冒険者になったばかりのオレは当然Fランクで、初心者ノービスを示す白いプレートが渡された。
 これを胸に付けることで、見た目ですぐランクが分かるようになっている。
 注意事項などの説明も聞き、無事登録が終わったので、オレは受付をあとにした。
 すると、ちょうど入れ替わりに、受付に向かっていく女性冒険者とすれ違う。
 うおっ、なんて綺麗きれいな人なんだ! こんな美人が冒険者なんてやってるのか!?
 美人というより、美少女という言葉のほうが適切かもしれない。何故なら、まだ十七、八歳くらいに見えるからだ。
 彼女の身長は百六十三センチくらいで、淡い赤色の髪を腰まで伸ばしている。
 淡い赤というか桃色ピンクというか……そういや転生する前は、こういう色を『朱鷺色ときいろ』とか言ったっけ?
 そしてその少女は、剣士としての装備一式を身にまとっている。見た目通りに受けとれば、彼女は剣士だろう。
 こんな少女が剣士……それもSランクだ。
 何故分かるかというと、胸に付けているランクプレートの色が、Sランクの証であるゴールドだからだ。
 そういえば、最年少でSランクになったという剣術の天才少女が、領内ここに来ているって噂を聞いたことがあった。
 オレは屋敷の雑用で手一杯だったから詳しく知らないけど、確か『剣姫けんき』という二つ名で呼ばれている………………


「アニス・メイナード!」


 いけねっ、思い出したとたん、うっかり声に出しちまった!
 オレの声を聞いて、彼女がこっちを振り返る。

「わたしを知っているの?」

 やっぱり剣姫本人だ。まずいな、オレ完全に不審者じゃん!
 とにかく、いきなり名前を呼んじまったことを謝らないと。

「あ、あの……はい、有名ですから。初対面なのにいきなり呼んでしまってスミマセン。つい……」
「別にいい。気にしてないわ」

 そう言うと、彼女――アニス・メイナードは無表情のまま、オレなど最初からいなかったかのように受付に行ってしまった。
 可愛い顔をしているけど、ちょっとぶっきらぼうというか、凄くマイペースな感じだな。
 しかし、本当に綺麗な子だ。
 確かオレと同い歳の十八歳だったはずで、それでもうこれほどの名声を得ているんだから大したもんだ。
 いつか仲良くなりたいところだけど、オレじゃ無理だよなあ……
 アニスの美しさにボーッとほうけていると、いきなりガツンと後ろから首をつかまれた。
 な、なんだ!?

「おい小僧こぞう、気安くアニスに話しかけてるんじゃねえよ」

 オレは首根っこを掴まれたまま持ち上げられ、無理やり後ろを振り向かされる。
 そこにいたのは、凶悪な顔をした身長二メートルくらいの大男だった。その後ろには、同じくガラの悪そうな男たちが三人立っている。
 大男はオレの首を掴んだまま言葉を続ける。

「アニスは、おめえのようなゴミが近付いていい女じゃねえんだ」
「あ、あの、あなたたちは誰なんですか?」
「このバーダン様を知らねえのか? オレたちゃアニスと一緒に仕事してんだよ」

 ええっ、剣姫アニスはこんなヤツらとチームを組んでるの!?
 いや、誰と組もうと自由だろうけど、なんとなくガッカリしちゃう気が……

「いいか、二度とアニスに近付くなよ。一緒にいるところ見つけたらぶっ殺すからな! 分かったか!?」
「は、はい、分かりまひた……」

 ぐ、ぐるじい、首が折れる……

「分かったらとっとと消えろ!」

 オレはそのまま投げられ、背中から床に落ちた。
 衝撃でしばらく呼吸ができず、思わずき込んでしまう。

「ふん、ゴミが!」
「ギャハハハ」

 バーダンとその仲間たちは笑いながら去っていった。
 そういえば、最近この近くに新しい迷宮ダンジョンが見つかったとのことで、それを攻略しに、近隣から冒険者たちが集まってるって噂を聞いたっけ。アニスたちもそれが目的で来ているのかもしれないな。
 新米冒険者は洗礼として色々と嫌がらせを受けるらしいし、何かに巻き込まれないよう気を付けることにしよう。
 とりあえず、冒険者として依頼を探す前に、まずは装備を整えないと。
 手持ちの金はほとんどないから、いらない荷物を売って元手を作ろう。
 オレは冒険者ギルド二階にある、装備や道具関係全般を取り扱っている総合アイテムショップに向かった。


 ☆


「おいおい、こんなガラクタ持ってこられても鉄貨てっか三枚がやっとだぞ」
「ええっ!?」

 坊主ぼうず頭の四十代くらいの店主が、迷惑そうな顔をしながら買い取り価格をオレに告げる。
 オレはありったけの荷物を査定してもらったのだが、結果はすずめの涙だった。
 鉄貨一枚の価値はパンが一つ買える程度。それが三枚あったところで、何一つ買える装備などなかった。

初心者ノービスじゃまだ冒険者この世界の常識が分からねえかもしれねえが、ここはガラクタの処分場じゃねえんだ。ちゃんと使えるものを持ってこい!」

 うーん、おっしゃる通りで……
 とはいえ、あのゲスニクから与えられたのはロクでもないものばかりだ。
 これ以外に売る品などない。まさか着ている服を売るわけにもいかないし。
 ……いや、いざとなれば服を売って……

「あー言っておくが、お前のその服も価値ねえからな。そんなボロ服、誰が着るってんだ」

 オレの心を読んだかのように、服の買い取りも拒否される。
 ですよねー……はあ、こりゃいったいどうすりゃいいんだ。
 オレは買い取り代の鉄貨三枚を受け取り、店をあとにした。


 ☆


 夕方。
 小腹が空いたので、さっきの鉄貨でパンを買い、それをかじりながら街を歩く。
 現在の所持金は、銅貨一枚と鉄貨二枚。
 銅貨一枚で鉄貨十枚分の価値だが、この程度じゃ安宿にも泊まれない。こんなことでオレは生きていけるのか?
 途方に暮れながらトボトボと歩いていると、どこからか怒鳴り声が聞こえてきた。
 聞き覚えのある声だ。恐らく何かのトラブルが起こっている。
 オレは声の聞こえてくるほうへ急ぐ。
 少し先の通りに出てみると、そこには大人の男と女が一人ずつと、七~八歳くらいの少年がいた。少年は大人たちに激しく怒られているようで、恐怖の表情を浮かべたまま声も出せずに立ち尽くしている。
 大人の二人はオレがよく知っているヤツだ。
 男のほうは、あのゲスニクの私兵をまとめている軍団長ドラグレス。身長は百八十五センチほどで、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした凄腕の剣士だ。
 つまりゲスニクの右腕的存在で、元は大勢の山賊たちをまとめていたボス――山賊王だった。
 その強さはSランク冒険者以上と言われていて、ゲスニクがあれほど無茶な独裁者でいられるのもコイツの力が大きい。
 その横にいる妖艶ようえんな女性はゼナ。二十代半ばでありながら魔導士としてSランクレベルの力を持っていて、ゲスニク軍団の副長を務めている。
 そしてドラグレスの女でもある。
 その二人が、子供相手に大声で凄んでいたのだ。


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」 アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。 ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。 だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。 しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。 今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。 学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。 その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが…… 「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」 これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。