勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

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1巻

1-2

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「このクソガキ、貴様の食い物でオレの大事な服が汚れてしまったではないか。どうするつもりだ? その細い腕を斬り落とすか?」
「口が聞けないなら、その舌も斬り落とすわよ?」

 ドラグレスとゼナから交互に責められるが、男の子は恐怖で一切何もできないでいる。
 どうやら少年の持っていたお菓子のクリームがドラグレスに付いてしまったらしいが、そんなことでここまで怒るのか?
 相変わらずどうしようもない短気だな。
 あの二人からはオレもずいぶんくだらないいじめを受けたが、その頃のオレは洗脳状態だったから、よく分からずにヘラヘラしていたっけ。本当に陰湿なヤツらだった。
 この騒ぎで周りに人が集まってきたが、ドラグレスたちが怖くてみんなどうすることもできないようだ。

「ま、腕は可哀想だから勘弁してやる。その代わり、菓子を持ってた右手の指を五本斬り落とす」

 そう言ってドラグレスは男の子の右腕を掴み、持ち上げた。
 そしてナイフを抜いて指を斬り落とそうとする。
 それを見た少年は、やっとの思いで「あわっ、あわっ」と声を絞り出した。

「やめろっ、ドラグレスっ!」

 オレは思わず叫んだ。
 他人に対してこんなに強い口調を使ったのは初めてかもしれない。
 洗脳されていたオレは、ずっと誰かの言いなりだった。
 だがこれからはオレの意志で生きていく。これはその第一歩だ。
 こんなのは許されることじゃない。だから行動しなくちゃ!

「貴様はリューク!? なんでこんなところに……そうか、貴様は屋敷を追い出されたのだったな。ゴミみたいなギフトを授かったんだって? 部下たちから聞いたぜ」
「ドラグレス、その手を放せ。そんな子供に乱暴しなくてもいいだろう」
「おいおい、貴様はもう侯爵の息子じゃないんだぜ? このオレ相手にそんな口をける立場じゃないというのが分からないのか? 敬語を使え!」
「……ドラグレスさん、子供を許してやってもらえないか」
「ドラグレス様、だ! あと態度が気に食わんな。顔を地面に着けて土下座しろ」

 オレは言う通り土下座する。
 戦っても絶対にかなわない。なら、子供を助けるために、オレのできることをするしかない。

「ドラグレス様、どうかその少年を許してあげてください」
「顔が地面に着いてないだろ!」
「がはっ……!」

 オレは顔面をドラグレスにられ、そのまま空中で一回転して地面に落ちる。
 歯が何本か折れたようで、口の中がじゃりじゃりした。
 ゲスニクのもとで酷い扱いをされていたオレだったが、暴力は受けたことがなかった。
 なんだかんだいっても侯爵の息子という立場だったし、優秀なギフトを授かる予定でもあったので、うっかり死なせてはまずかったのかもしれない。
 うつぶせの体勢から少し顔を上げようとしたところ、後頭部を思いっきり踏んづけられる。

「顔を地面につけるってのはこうするのよ!」

 ゼナだった。
 オレの顔を地面にこすりつけるように、足の裏でオレの頭を転がす。

「そのごをゆぐじであげでぐだはい……」

 口の中を負傷したオレは、上手く言葉が出せないまま、ひたすら許しをい続けた。
 今のオレにできるのはこれしかない。

「ククク、いいザマだぜ。オレは昔から貴様が気に食わなかったが、侯爵の息子ってことで手が出せなかった。だがもう我慢しなくてもいいみたいだな」
「おでがいじまず、そのごをゆるじで……」
「断る」

 オレの言葉をさえぎって、ドラグレスが土下座状態のオレの腹を蹴り上げる。
 それによって、オレは七、八メートル吹っ飛んだあと、地面を数回転がった。あばらの一部が折れた気がする。

「どうしてもガキを許してほしけりゃ、貴様が代わりに死ね。貴様の命と引き換えにこのガキを許してやる」
「ぞ、ぞんな……」
「どうする? オレはどっちでもいいぜ?」

 今のオレは金も力もない。
 学校に行かず、家庭教師に勉強を教えてもらっていたオレは、人付き合いの仕方もよく知らない。
 授かったギフトもハズレだ。
 こんなオレが、この先ちゃんと生きていけるのだろうか。
 どうせ近いうちに死んじまうなら、この子供を救うために命を使ったほうがいいのかもしれない。
 それがオレの生きてきた証だ。

「……わがっだ。オデをずきにじでいいがら、ぞのごはゆるじでやっでぐで……」
「ほう……貴様のきもがそんなに太いとは知らなかったぜ。単なるデクの坊だと思ってたが、意外といい根性してやがったんだな。まあいい、では貴様の命をもらうとしよう」

 ドラグレスはゆっくりと近付きながら腰の長剣を抜く。オレの首を斬り落とすつもりのようだ。
 目の前で立ち止まったあと、剣を振り上げたのを見て、オレは下を向いて目をつむる。
 オレの命もあと一秒か……
 そう観念したところで、不意に後方から声が飛んできた。

「そこまでにしたほうがいいんじゃないかしら」

 この声は……!?
 オレは顔を上げてゆっくりと振り返る。
 そこには、あの美少女剣士アニスが立っていた。

「貴様は……! 剣姫が口をはさむようなことではないぞ。どこかへ行ってろ!」

 ドラグレスも剣姫のことは知っているらしい。さすが有名冒険者だな。

「ここは侯爵領とはいえ、アルマカイン王国に属する以上、無益な殺人は許されないはず。忠告を無視するようなら、このことを王宮へ報告しますが?」
「…………」

 アニスの言葉にドラグレスが黙り込む。
 剣姫ほどの者がアルマカイン国の上層部に注進すれば、侯爵のゲスニクとはいえ、なんらかの処分が下る可能性がある。
 ドラグレスも、さすがにそれはまずいと思ったようだ。

「ふん、今回だけは勘弁かんべんしてやる。だが、今度オレに逆らったら容赦はしない」

 別に逆らったわけじゃないんだけどな。子供を放っておけなかっただけで……
 ドラグレスは剣を収め、ゼナとともに去っていった。
 ふと横を見ると、いつの間にかアニスがすぐ隣に来ていた。ドラグレスたちに気を取られてたから、近寄ってたことに全然気付かなかった。
 そうだ、助けてもらったお礼を言わないと!

「あ、あど……あじがとうございばじた。アジスざんのおがげでなずにすびばじた」

 ああくそっ、口の中がボロボロで上手くしゃべれねえっ!
 アニスにオレの言葉が届いているのかよく分からなかったが、彼女は無言のまま荷物袋から青緑色の液体が入ったビンを取り出した。

「……今これしか持ってないの」
「えっ……ひょっどじて回復薬がいぶくやくでずか? こでをオデに!?」

 アニスはオレの言葉には応えず、回復薬のポーションを手渡して去っていった。
 マイペースというか、なんとなく感情の読めない人だな。
 今のオレの姿を見て、アニスはどう思っただろうか? 戦わずに土下座なんかしたから、意気地いくじのない男と思われたかもしれない。
 ああ……カッコ悪いところ見られちまったなあ……
 まあ今のオレなんかに、カッコいいところなんて一つもないけど。
 アニスのおかげで騒動は収まったけど、結局オレは何もできなかった。
 なんにせよ子供が無事で良かった。



 3.スマホの覚醒かくせい


 すっかり日が暮れて、ゲスニクに支配されたこんな街にも夜のにぎわいがやってきた。
 オレはまだ少しれが残った顔を冷やしながら、広場のすみに腰を下ろしていた。
 アニスがくれたのは恐らく『ハイポーション』で、通常のポーションよりは回復力が上だが、オレの体は思ったよりも重傷をっていたらしく使っても完治はできなかった。
 顎はまだガタガタだし、あばらの辺りもズキズキと痛んでいる。それでもだいぶマシにはなっているんだが。
『ハイポーション』はそれなりに高価で、相場は一つにつき金貨一枚。
 金貨一枚には銀貨十枚の価値があり、その銀貨一枚は銅貨十枚の価値がある。
 一般的な労働者の賃金は一日銀貨一枚程度だから、金貨一枚だと十日分の給料に相当する。そんな高価なものをアニスはオレにくれたんだ。
『ハイポーション』がなかったら、病院に行かなくちゃダメだったろうな。一応、回復アイテムで治すより安上がりにはなるが、医者は金がないオレを果たして治療してくれたかどうか……
 それに、一瞬で治ることもない。あの怪我だったら、ここまで回復するのに一ヶ月はかかっただろう。
 アニスには本当に感謝しかないな。いつか必ずこの恩を返したい。
 それはそうと、宿代もないし、今夜はこの広場で野宿するしかないかも。
 命は助かったとはいえ、結局オレは何もできない状態だ。
 せめて、授かった『スマホ』というギフトが何かの役に立ってくれれば、光明を見出せるかもしれないが……
 そんなことを考えていると、ふうっと何か頭に浮かんでくるものがあった。
 この感覚は……そう、失っていた記憶が戻ってくる前兆だ。
 そういえば、ゲスニクに殴られたときに、この世界に転生したことを思い出したんだった。さっきドラグレスから蹴られたことで、また記憶が戻ってきている気がする。
 脳に強烈な衝撃を与えることがスイッチになっているのかもしれない。
 何かを思い出してきた……そうだ、『スマホ』は電話ができるんだった!
 ………………電話ってなんだ? せっかく思い出したのに、使い方が分からない。
 ……ちょっと待て、まだ何か思い出せそうだ!
 しゃ……しん? そう、この『スマホ』で『写真』ってのが撮れる!


「……だからなんだってんだあああああああああ~っ!」


 オレは思わず、大声で叫んでしまった。いたたた、口を怪我してるの忘れてた!
 今のことで、周りを歩いていた人がビックリしたようにオレを見る。
 変な注目を浴びてしまったので、オレは愛想笑あいそわらいでなんとかごまかす。
 思い出したのはいいが、『写真』ってものがよく分からない。仮にそれが撮れたところで、今の状況は変わらないだろう。
 ホントになんの役に立つんだ、この『スマホ』ってのは?
 ……と、そこで、もう少し詳しく記憶が戻ってきた。
 そうだ、写真っていうのは、目の前の光景などを記録できるヤツだ。前世のオレは、いろんなものを写真に撮って楽しんでいたっけ。
 とても懐かしい感覚が、じわりとよみがえってきた。
 目の前のものを記録できるなんて、素晴らしいじゃないか。魔法だってそんなことできないぞ。
 オレは自由を得たんだ。もっとそれを楽しまないと。
 早速さっそく、横に咲いている花を撮ってみた。『スマホ』の画面にその花が表示される。
 そうそう、こんな感じだった。『スマホ』の操作方法を少しずつ思い出してきたぞ。
 その『スマホ』の画面を見ていると、何かの文字があることに気付く。
 ……『詳細を見る』ってなんだ?
 オレはその文字の部分をさわってみる。タッチ……いや、タップするってヤツだ。
 どんどん使い方を思い出してきたぞ!


 文字をタップしてみると、写した花の詳細が『スマホ』の画面に表示された。
 これって……『鑑定かんてい』じゃん!
 対象物を分析するのは、『鑑定』というギフトの能力だ。
 この『スマホ』で写真に撮ると、その『鑑定』と同じことができた。
 ス、スゲーじゃねえか!
『鑑定』はCランクのギフトだが、これを授かればだいたい食うには困らない。どこに行っても非常に重宝ちょうほうされる能力だからだ。本人の能力によって分析の精度も変わるが、この『スマホ』の『鑑定』は、上位の分析精度な感じがする。
 これのおかげで、一気に未来が明るくなったぞ!
 試しにほかのものも撮って『鑑定』してみよう。
 オレはポケットからなけなしのお金――銅貨を取り出し、『スマホ』で撮って分析してみる。
 同じように、詳細が画面に表示された。
 そしてふと変な文字があることにも気付く。

「『コピー出力する』ってなんだ?」

 調べてみたら、さっき撮った花にも同じ文字があった。うっかり見逃していたらしい。
 しかし、コピー出力というのがどういうことなのか分からない。
 とりあえず何が起こるのか試してみるか。
 オレは『コピー出力する』という文字をタップしてみた。すると……
 なんと、写真に撮っていたお金――銅貨が、目の前に出現したのだ!
 えええっ! 待てよ、これっていくらでも出せるの?
 もう一度同じ操作をしてみると、さっきと同じように銅貨が出てきた。
 おいおいおいおい、これをやれば無限にお金が湧いてくるじゃん! もう一生お金に困ることはないぞ! そうか、確かコピーは複製って意味だったんだよな!
 オレのテンションはだだ上がり状態だ。
 そこでふと、人間を写真に撮ったらどうなるんだろうという疑問が湧いてきた。
 確かめるため、すぐそばを歩いていた剣士っぽい男性を写してみる。
 今まで同様、男の詳細が画面に表示された。『鑑定』で人間を分析するのは非常に難しいので、この『スマホ』の『鑑定』能力は相当高いと言える。
 いや、ステータスの数値まで分かるなんて聞いたことがないので、通常の『鑑定』よりもはるかに高性能だろう。
 そしてその詳細画面に、ある文字が表示されていた。

「『能力を取得』……ってどういうことだ?」

 男は『下級剣士』というEランクギフトを持っていたが、その横に『能力を取得』という項目があるのだ。
 よく分からないが、とにかく色々と試してみるしかないので、その文字をタップする。
 すると、急に全身が軽くなったような気がした。
 これ……もしかして、オレにも『下級剣士』のギフトが使えるんじゃないのか?
 試しに少し剣術の真似事をしてみると、素人とは思えない動きをすることができた。
 Eランクといってもバカにしたものではなく、ギフトがあるとないとでは剣技に雲泥うんでいの差が出てくると、家庭教師から習ったっけな。
 今度は魔導士っぽい人を『スマホ』で写してみて、またステータスを確認してみる。
 やはり同じ項目があり、今度は『下級魔導士』というEランクギフトの能力を取得できるようになっていた。文字をタップしてみると、なんとなく自分の魔力をコントロールできる感覚が湧き上がってきた。
 ステータス画面にはギフトの項目以外にもタップできる場所がある。その一つが『属性魔法』というスキルだ。
 スキルというのは神様から授かれるギフトと違って、自分の努力で習得ができるものだ。本人の才能によって習得できる種類や数にバラつきはあるが、基本的に効果の高いスキルをたくさん持っている人間ほど強いと思っておけばいい。
 とりあえず、『属性魔法』の横にある『能力を取得』をタップしてみる。
 すると、オレの頭の中にいくつかの魔法が浮かんできた。
 そのうちの一つ、一番低ランクの魔法――第十階級の『ファイア』を唱えてみることに。魔法はその威力によって十階級に分類され、高ランクの魔法ほど数字が低くなっている。
 オレは右腕を水平に上げ、魔力を練りながら呪文を詠唱すると、手の先に直径一メートルほどの魔法陣が出現した。
 そして発動の合図である魔法名を叫ぶ。

「『ファイア』っ!」

 ボオオオオオオオッ。
 直後、オレの右手から炎が噴出ふんしゅつした。
 誰もいない方向に向かって撃ったけど、モンスターを殺すような攻撃力を持ってるだけに、結構派手に炎が広がってしまった。

「バカやろーっ! こんなところで魔法を使うなんて何考えてんだ、あぶねえだろっ!」
「す、すみませんっ」

 顎の痛みを我慢しながらオレは謝る。
 やはり思った通り、写真に撮った人の能力を覚えることができるようだ。
 ということは、一人一つしか持てないはずのギフトでもオレならいくらでも取得可能で、さらにスキルも取り放題! 写真に撮ったものはなんでもコピーで出せるし、こりゃめちゃめちゃ凄いぞ。
 明日も分からないオレだったが、この『スマホ』があればもう大丈夫!
 オレは『スマホ』の能力に歓喜した。いや、まだまだ隠された可能性がありそうだ。
 ほかに何ができるのか、もっともっと写真を撮って調べてみよう……そう考えたところで、あることに気付く。
『スマホ』のエネルギー残量という部分が点滅しているのだ。
 これはなんだろうと思ったが、なんとなくオレの魔力――MPの残りと連動している気がした。
 恐らく『スマホ』を使うにはオレのMPが必要なのだろう。しかし、さっき『ファイア』を撃ったことで、魔力切れになってしまいそうなのだ。
 オレはまだレベル1なのでMPが少ない。無駄遣いしたらすぐに魔力切れになってしまう。
 幸い、一晩寝ればMPは回復する。
『スマホ』を使うのは明日にして、今夜はどこかに泊まって今後のことをよく考えよう。
 と思ったところで、宿代がないことに気付く。
 ……いや、さっき銅貨を増やしたので、現在銅貨が三枚あるんだった! これならギリギリ泊まれるところがあるはずだ。
 オレは宿屋を探すため、慌てて街を走り回るのだった。



 4.コピーで簡単ゲット


「ああ~よく寝た!」

 昨日は朝から目まぐるしく問題が発生し続け、一時はどうなることかと思ったが、『スマホ』の能力を知ったおかげで不安が吹き飛び、ぐっすり眠ることができた。泊まったのは安宿で硬いベッドだったけど、今までボロい倉庫で寝てたから、むしろ快適だったくらいだ。
 あばら辺りの痛みもだいぶ引いたし、顎や口もかなり良くなったので、もう言葉も普通に話せる。完治したわけじゃないけどな。
 昨晩は『スマホ』について色々考えてみた。
 まだ分からない部分は多いが、とんでもない可能性を秘めたギフトなのは間違いない。
 今日はその検証をするわけだが、それには順番がある。
 一晩寝たことでオレのMPは復活し、そして『スマホ』もエネルギー満タン状態になっていた。
 やはりオレの魔力と『スマホ』は連動していたようだ。よって、効率良く検証しなければ、レベル1のオレの魔力ではすぐ『スマホ』はエネルギー切れとなってしまう。
 ということで、『スマホ』がエネルギー切れにならないように、最初にやることがある。
 オレは冒険者ギルド二階の総合アイテムショップへ行くことにした。


 ☆


「お前、昨日の初心者ノービスだな? 金もないのに何しに来やがった?」

 店に入ると、店主から軽く嫌みを言われる。
 まあ冷やかしに来たと思われるよな。実際オレは金を持ってないし。
 一応、コピーをすれば金は増やせる。しかし、その前に手に入れておきたいものがあるんだ。

「すまない、あとで必ず何か買うから、今日は品物を色々見せてくれないか?」
「ああん!? ……仕方ねえな、お前が出世してお得意さんになってくれる可能性もあるからな。その代わり、この恩を忘れるんじゃねえぞ」
「ああ、ありがとう!」

 ぶっきらぼうながらも、店主は悪い人ではなさそうだった。
 冒険者には荒くれ者が多いから、気が強くなるのかもな。ギルド内で商売してるならあくどいこともしてないだろうし、信用できる店のはず。
 おっちゃん、あとで山ほど買うから、今日だけ許して!
 オレは心の中で謝りながら、店にあるアイテムや装備をこっそりと片っ端から写真に撮っていく。
 その中の一つ、『マジックポーション』が本命だ。
 これには減ったMPを一定量補充する効果がある。つまり、この『マジックポーション』さえあれば、今後MP切れに困ることはないわけだ。
 ほかにも冒険者活動に必要なものはここに全部揃っているので、これで持ち物関係の準備は万全。

「おっちゃん、ありがとな! あとで店のものを全部買ってやるから楽しみにしててくれよ」
「けっ、調子のいいこと言いやがって。まあ期待しないで待ってるよ」

 オレは店主に礼を言って一階に下りた。


 一階のフロアには冒険者たちが大勢いた。
 次はここだ。えーと、まずは誰からにしようかな……
 オレはそばにいる剣士風の男に近付き、さりげなく写真を撮る。
 そう、次にやることは、冒険者たちが持つギフトやスキルのゲットだ。それさえあれば、レベル1のオレでも充分戦っていけるはず。
 オレは怪しまれないよう注意しながら、フロアにいる冒険者たちを片っ端から写していく。

(おっと、『スマホ』のエネルギーが切れそうだ)

 残量表示が点滅したので、『マジックポーション』を使ってMPを回復する。
 すると、また『スマホ』のエネルギーは満タンとなる。
『マジックポーション』はかなり高価なものだけに、本来ならここぞというとき以外には使わないが、オレの場合は『スマホ』からいくらでも出力できる。実質無限の魔力だ。
 ちなみに、出力できるのは一回につき一つだけ。仮に一枚の写真にポーションを複数個撮ったとしても、一個ずつしか出力することができない。
 そのため、何かが大量に必要になってもコツコツ出していくしかないが、それくらいは仕方ないだろう。文句を言ったらバチが当たる。
 そうしてMPの補充を繰り返しつつ、この場にいる冒険者たちを全員写し終える。
 今日はアニスが来ていなかったので、残念ながら彼女を撮ることはできなかった。
 昨日みっともないところを見られたので、正直今日は顔を会わせたくなかったからちょうど良かったかも。
 オレは撮ったものを一度整理するため、冒険者ギルドを出て街の広場に向かった。


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