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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第738話 どうしてこいつだけ痩せないのかと思えば…

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 他の研修生がトレント狩りをする様子を見学したピーマン王子とその取り巻き達。
 翌日は実際にトレントを討伐してもらうことになったんだ。

 まずは指導補助として父ちゃんが連れて来た指導係のお姉さん五人にお手本を見せてもらい。
 それから注意点と狩りのコツを父ちゃんが解説したんだけど、みんな真剣に聞いていたよ。
 前日、一見屈強そうに見える男達がトレントに蹂躙されてるのを目の当たりにしてるからね。
 あのおじゃるですら、真面目に聞いておかないと拙いと思ったらしい。

「昨日見てもらったから分かっていると思うが。
 トレントは注意事項をきちんと守れば容易く狩ることが出来る。
 だが、注意事項を守らないと怪我をすることになるからな。
 努々、油断せずに、指導した通りに狩るんだぞ。」

 父ちゃんのその言葉が実習開始の合図となりトレント狩り実習が始まったの。
 とは言え、連中百人から居るからね。五人ずつに分けると二十班も出来ちゃう。
 研修施設内にあるトレント狩り実習林は、同時に二十組も実習できるほど広くは無いからね。
 それで五人連れてきた指導役のお姉さんが、それぞれ一班ずつについて実習することになったの。
 一度にトレントに挑むのは五班までってことだね。

 トレントを舐めて掛かったらどんな悲惨なことになるか、前日にみんな見ているからね。
 各班とも今までにないくらい、真剣に臨んていたよ。
 狩りの最中に危険な場面があれば、指導役のお姉さんが臨機応変に助力していたこともあって。
 楽勝というほどではないけど、何とか大きなケガも無くトレントを討伐していただ。

 そして、最後の五班に実習の番が回って来て…。

「良いか、皆の者、打ち合わせ通りに動くのだぞ。
 くれぐれも油断するのではないからな。」

 ピーマン王子はそんな指示を出すと、他の四人と共に慎重な足取りでトレントへ向かって行ったよ。
 草の一本も生えて無いトレントの間合いまで近付くと、何時攻撃枝に襲われても対処できるよう剣を構えてた。

 そして、最初のトレントの攻撃、二本の攻撃枝がすかさず先頭の者目掛けて襲って来た。
 左右の枝一本ずつを先頭の二人が危な気なくへし折ると、一瞬安堵の表情が見られたよ。

「すぐに次の攻撃が来るぞ。
 最初の攻撃を凌いだからと言って気を抜くな。」

 緩んだ雰囲気を察して、気を引き締めろと喝を入れるピーマン王子。

「ほら、ゴマスリー、右から来るぞ!」

 すぐさまおじゃるにトレントの三撃目が来ると注意喚起をしたの。

「麿は昨日までの麿では無いでおじゃる。
 ちゃんと用心してるでおじゃるよ。」

 昨日悲惨な目に遭った五人組のようにはなりたくないと思ったんだろうね。
 その言葉通り、おじゃるはとても真剣そうに見えたよ。

 だけど…。

「あっ…。」

 おいら、見ていて呆気に取られたよ。

「痛いでおじゃる!」

 おじゃるはトレントの枝を上手く躱せるかに見えたのだけど。
 現実は残酷で、トレントの鋭い攻撃枝がおじゃるの剣を持つ腕を捉えたんだ。

 すかさずバックアップに入ったピーマン王子は、おじゃるに突き刺さった枝をへし折ると。

「どうした、ゴマスリー。
 タイミング的には枝を弾くくらい十分できたであろう。」

 おじゃるに尋ねながら、おじゃるに向かってきた第四撃の枝も撃ち払っていた。

「面目ないでおじゃる。
 腹が邪魔して剣を振り切れなかったでおじゃる。
 無念でおじゃるよ…。」

 バッチリのタイミングで剣を振り切ろうしたところ、肥満体のお腹に剣を持つ腕が当たって軌道が逸れたらしい。
 しかも、体の重さに膝が耐えかねているようで、咄嗟に避けることも出来なかったみたいなの。
 こいつ、どんだけ太っているだよ…。

「取り敢えず、そなたはさがっておれ。
 ここは余が引き受ける。」

 ピーマン王子はおじゃるを下がらせると残った四人でトレントに挑んだよ。
 この時点でトレントの攻撃枝は四本へし折っていて、後は一人一本ずつ確実に対処できれば良かったの。

 で、ピーマン王子も含めて残り四人も太り気味ではあったけど、おじゃるほど過度の肥満体でも無く。
 それなりに動けて、お腹の出っ張りが剣を振る邪魔になることも無かったみたい。
 機敏にとまでは言わないけど、適切に動いて残りの枝を切り払っていたよ。

 攻撃枝を全て切り落としたピーマン王子達は、攻撃の術を失ったトレント本体に剣戟を加え…。

「よし、討ち取ったり!」

 やがて、ピーマン王子の得意気な声が響いたの。
 初めてトレントを狩ったのがよほど嬉しかったのか、初めてピーマン王子の満面の笑みを見たよ。

        **********

 そして、狩りのあと。

「おい、お前、大丈夫か?
 すぐに治してやるからな。」

 トレントの攻撃枝に腕を貫かれたおじゃるを父ちゃんが治療してた。
 『妖精の泉』の水を掛けると、あっと言う間に傷口が塞がり。
 断ち切られていた腱も修復できた様子で、おじゃるは腕を回して具合を確かめてた。

「腕は治ったでおじゃるが…。
 咄嗟によけようとして、膝関節をやってしまったでおじゃる。
 膝が痛くて立ち上がれないでおじゃる。」

 泣き言を言うおじゃるに、父ちゃんは泉の水を器に注いで飲ませていたよ。

「かたじけないでおじゃる。
 この水は凄いでおじゃるな。
 直ぐに膝の痛みも取れたでおじゃるよ。」

 喜ぶおじゃるを見て、父ちゃんはため息を吐くと。

「お前、ちょっと肥満が過ぎるのでは無いか?
 他の連中も肥満気味ではあるが…。
 腹が邪魔して剣が振れないとか。
 少し急激な動きをすると膝を痛めるとか。
 そんなんじゃ、日常生活でも何かと支障があるだろう。」

 うん、おいらもそう思うよ。

「今までは、何の支障も無かったでおじゃる。
 体を動かすのは、たまにする球蹴りくらいでおじゃったし。
 他は全て使用人にさせていたでおじゃる。」

 おじゃるの返答を聞いて、父ちゃんは脱力してたよ。
 そう言えば、ピーマン王子達を預かって早十日ほど。
 その間、おじゃる以外は一回り幅が縮小したようなんだけど。
 何で、こいつだけ、全然痩せてないんだろう?

「だから、言ったであろう。
 その体でこの研修をこなすのは無理があると。
 余を始め、他の者はそれに気付いたから摂食しとるのだ。
 そなたにも少しは食を減らすようにとあれほど言ったのに。」

 どうやら研修初日、ウォーキングだけで息を上がることにピーマン王子は危機感を持ったらしい。
 本格的にしごかれた時に、これでは絶対についていけないと。
 それから自身が食事を腹八分に抑えると共に、周りにもそれを勧めたらしいけど。

「こんなところに押し込められ。
 意に沿わぬことをさせられているでおじゃる。
 ここには食べる事しか楽しみが無いでおじゃる。
 それを我慢しろとは酷いでおじゃるよ。」

 どうやら、こいつ、食事で憂さ晴らしをしていたみたい。
 食べ放題なのをいいことに、毎食普段以上に食べていたらしい。
 食事と寝床は良いものをって配慮で、開設当初から上質な食事を提供しているんだけど。
 舌の肥えた貴族にも不満の無い食事内容だったみたいで、こいつ、ひたすら食べていたんだって。
 それだけじゃなくて、疲れた体には甘い物が良いと、おいらが聞いていたものだから。
 軽犯罪者に狩らせたトレントから採れた甘味料を使って、毎食甘い菓子も提供しているんだ。
 こいつ、その菓子やパンや果物とかをこっそり宿舎に持ち帰って、夜食にしていたらしい…。

 それじゃ、痩せる訳ないよね。

「お前、それ、いつか病気になるぞ…。
 それ以前にこの研修中に死ぬかも知れん。
 悪いことは言わないから、少し摂食した方が身のためだぞ。」

 父ちゃんは連中の話を聞いて呆れてたよ。
 せめてトレントの攻撃を避けることくらいできないと命を落としかねないって忠告してた。

 すると、 おいらの隣でやり取りを見ていたペピーノ姉ちゃんがぼそりと言ったんだ。

「別に良いのでは無くて。
 四ヶ月後に十分に矯正されてなければ、どうせそこまでの命ですもの。
 不摂生の挙げ句自滅するか、更生できずにわたくしの手に掛かるか。
 どちらも、自分が蒔いた種ですもの。好きにさせれば良いわよ。
 詩歌が好きなようだし、辞世のうたでもんでおきなさい。」

 それはたいして大きな声では無かったけど、それはおじゃるの耳にも届いたみたいで。

 顔を青くしたおじゃるの奴、必死に首を横に振ってたよ。死ぬのはごめんだって。
 それなら、少しはダイエットしないとね。
  
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