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第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…
第739話 劇的ビフォーアフターとばかりはいかないようで…
しおりを挟むピーマン王子とその取り巻きに冒険者研修を受講させてから一月が経ち…。
「誰?」
「そう言うボケはやらんで良い。
毎日、監視に来ていた癖に白々しい。」
おいらの問い掛けに不満気な声で答えたのは、サラサラの金髪を風にそよがせた紅顔の美少年。
いや、今十八歳と言ってたから、美少年って歳は少しだけ過ぎているか。
でも実際、『何処の誰だ?』と尋ねたくなるくらいの変わり様だったの。
「いや、ペピーノ姉ちゃんの弟だし素地が良くても不思議じゃないけど。
一月前とはまるで別人みたいだよ。
これなら誰からもキモいって言われないで済むね。」
そう、紅顔の美丈夫は誰あろう、ピーマン王子。
この一月ですっかり引き締まった体つきになったんだ。
ブルドッグのような弛んだ頬の贅肉が無くなると、ペピーノ姉ちゃんに良く似た均整の取れた顔つきになったの。
ペピーノ姉ちゃんと違い、その切れ長の目はしっかり開いていて、クールな感じの美形になった。
「まあ、この一月、規則正しい生活をしたからな。
おかげですっかり贅肉も落ちた。
正直、自分の体がこんなに軽いとは知らなかったぞ。」
おいらの言葉を聞いて、ピーマン王子は満更でも無いって顔をしてたよ。
幼少の頃から怠惰な生活をしてたピーマン王子は、ずっと肥満体だったようで自分の身の軽さに驚いてたの。
その日、ピーマン王子達は晴れて一月の冒険者研修を修了したんだ。
一月の研修期間中、誰一人として脱落者を出さずに研修を終えることが出来たよ。
メンバーの中でも、おじゃることゴマスリーは常に脱落寸前だったけど。
その都度、監視してたペピーノ姉ちゃんに脅迫されて、闇に葬られたくない一心で何とか食らい付いてた。
早寝早起き、栄養バランスの取れた食事、そして十分な運動、更には完全禁酒。
流石に一月の間これを続ければ痩せない訳が無く、全員一月前の弛んだ贅肉は見る影もなく消えてたよ。
但し、痩せたからと言ってみんながみんな、ピーマン王子のような美丈夫になる訳じゃ無くて…。
「何でおじゃるか、その目は…。
麿はこの一月で一生分動いた気がするでおじゃる。
見るでおじゃる。
麿のふくよかな体が、こんなに貧相になったでおじゃるよ。」
太っているのが豊かさの象徴だと言ってたおじゃるはとても不満そうだった。
このおじゃるだけど、連中の中でも飛び抜けた肥満体だったもんから…。
一月で急に痩せたらあちこちに皮膚がだぶついちゃって、余計残念な姿になっているの。
父ちゃんの話では、心配する必要は無いらしいよ。
食事面で摂生に努めて、ちゃんと運動していれば皮膚のだぶつきは収まるんだって。
但し、また不摂生な生活に戻ったら、リバウンドで酷いことになるかもって。
「みんな、一月の研修、お疲れさまでした。
この国の住民ではないみんなには不要なものかもしれないけど。
研修を修了した記念に、冒険者登録証を渡すから取りに来て。」
おいらはそう告げて、全員に冒険者登録証を手渡したの。
この国の中では身分証明書的な物として、昨今登録証が重宝されるようになったんだけど。
他国ではなんの効力も無いものだし、ちゃちい軽銀製のプレートだからね。
アクセサリーにもならないから、貴族連中には貰っても嬉しくない物かと思っていたんだ。
でも、受け取った時の連中の顔は皆一様に嬉しそうだったよ。
どうやら冒険者登録証を手にした時に、やり遂げたって達成感を感じていたみたいなんだ。
**********
そんな訳で…。
「皆には明日から街道整備の現場へ移動してもらうよ。
そこで土木工事の基礎を学んでもらうの。
領地開拓に役立つと思うから、頑張ってね。
さしあたって、今日一日は休みにするよ。
明日に備えて英気を養ってもらおうと思ってね。
ここを貸し切りにしたから、存分に楽しんでちょうだい。」
おいらが連中を連れて来たのは公衆浴場。
タロウに頼み込んで一日貸し切りにしてもらったんだ。
もちろん数日前から施設の各所に貼り紙をしてもらい、貸し切りになる旨を告知してもらったよ。
この日は、料理も、お酒も全て無料で食べ放題、飲み放題にして、更に公演会場でコンサートも開いてもらったよ。
えっ、予算は何処から捻出したって?
もちろん、連中が研修で討伐したトレントの収穫物を売却した代金だよ。
罪人と同じ扱いなので、個々人への売却代金の分配はしなかったんだけど。
おいらがネコババするのも気が引けるからね、公衆浴場を借り切ってその代金に充てることにしたんだ。
そして、おいらも…。
「この施設良いわね。
こんな広いお風呂にゆったり入れるなんて…。」
女湯の湯船に浸かって、ペピーノ姉ちゃんが気持ち良さそうに呟いたよ。
まあ、女湯に浸かっているのは、おいらとペンネ姉ちゃん、それに数人にお付きの人達だけだものね。
一度に五十人は浸かれるお風呂だから、そりゃ広く感じるよ。
「良いでしょう。 この王都の自慢の施設だよ。
お風呂に入って、広間で休むだけなら誰でも無料で使えるんだ。」
まあ、広間の売店も格安で商品を並べてもらっているしね。
今では王都の憩いの場として、毎日賑わっているよ。
おいらの言葉を聞いたペピーノ姉ちゃんは、両掌にすくった湯船のお湯を見ながら。
「へえ、ここ、マロンちゃんが造らせたのでしょう。
建物が真新しいし。
よくこんな施設を造ろうと思ったわね。
建設も大変だけど、維持が大変でしょう。
この街、近くに水源も大河も無いから。
真水がとても貴重だと聞いているわ。
お湯を沸かす薪も大量に必要だし。」
大量の真水と燃料、そのコストを考えたらとても真似できないと言ってたよ。
「おいらが育ったトアール国の辺境の街に温泉を使った公衆浴場があったの。
そこに入り慣れていたもんだから、体を拭くだけじゃ物足りなくてね。
王宮にお風呂を造ったんだ。
そしたら、偶々お風呂に入った知り合いが勧めてくれたの。
市民にも娯楽が必要だってね。」
「勧められたって…。
おいそれと出来るのものでは無いでしょう。
この水、どこから持って来たのかしら?」
「あっ、それ元は海水だよ。
海水から真水を作って、地下貯水池に貯めているの。
王都の裏に広がる丘が、硬い岩盤で出来ていて。
水を貯めるのに、丁度良かったんだ。」
「これだけの水を真水から作った?」
おいらの答えを聞いて、ペピーノ姉ちゃんが目を丸くしてたよ。
ペピーノ姉ちゃんが目を見開いたの、初めて見た。
海水から真水を作り出していることに相当びっくりしたみたいだった。
あれ、おいら、何か拙いことを言っちゃったかな…。
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