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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第700話 そんな姑息な人間が存在するなんて…

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 風俗営業法の猶予期間が過ぎた翌日。
 おいらは騎士団と冒険者管理局に指示して違法営業店の一斉摘発を行ったの。
 その最大の目的は陰でコソコソと悪事を働く冒険者ギルド『カゲベー会』を潰すこと。
 偶然、ノノウ一族のチランがカゲベー会の経営するイケメン酒場にスカウトされてたので。
 そのまま潜入捜査をしてもらった甲斐があって、スムーズに摘発と証拠の確保が出来たんだ。

 首尾よく違法営業店の摘発を終えると、父ちゃんは意気揚々とカゲベー会の本部に乗り込んだよ。
 一階を制圧し支配人プリジーゴンを捕らえると、次においら達はカゲベー会の総帥を捕縛に向かうことにしたの。
 何とかと煙は上に昇りたがると言うから、当然最上階の部屋に居ると思ったんだけど。

「ああ、そっちに居るのはチープン三号だな~。」

「はあ?」

 何三号って…。おいらが首を傾げていると。

「貴様、何故それを!」

 プリジーゴンが狼狽した様子で声を上げたんだ。

「いや、俺っちだって伊達に四ヶ月も働いてた訳じゃないぜ~。
 その間、三ヵ月連続で指名トップと売上げトップの二冠を達成して~。
 毎月、ここに呼ばれて何かしらのご褒美を貰ってたじゃん。
 少しづつ情報を集めていたに決まってるって。
 主に事務の女の子とか、給仕の女の子とかからね~。
 ベッドの中でお口が緩むのは田舎娘だけじゃないよ~。」

 どうやら、趣味と実益を兼ねると言うのは本当のことらしい。
 チランはこの本部に勤めるお姉さんを口説いて情報を聞き出していたみたいだね。

「それで、チープン三号ってなに?
 そもそもチープンってなによ?」

「メンゴ、メンゴ、説明してなかったね~。
 チープンってのはカゲベー会の総帥の名前だよ~。
 こいつが猜疑心の塊みたいな小心者でよ~。
 何時でも、手下の裏切りを恐れて身を隠してるんだ~。
 この建物の二階と三階に総帥室があるけど、そこに居るのは影武者。
 チープン二号と三号。他にも外出用とかで五号までいるぜ~。」

「何か、お近づきになりたくないタイプの総帥だね…。
 それで、ホンモノ。チープン一号は何処にいるか掴んでいるの?」

 おいらが問い掛けると。

「ふっふっふ、愚かな。
 カゲベー会ナンバー二の儂でも知らんのだ。
 二度や三度、ここに出入りしただけのペーペーが総帥の居場所を知る訳が無かろうが。」

 プリジーゴンが自慢にもならないことを誇らし気に言ったんだ。
 それって総帥に信用されてないってことだよね。ナンバー二が聞いて呆れるよ。

「ああ、そのおっさん、野心が強いからチープンから警戒されているんだ~。
 自分が椅子から蹴落とされるかも知れないって~。
 実際、そのおっさんの方が目端が利きそうだし~。」

 目の前のプリジーゴンってオッチャン、総帥チープンの昔からの右腕らしいけど。
 自分より人望があって、目端が利くプリジーゴンをチープンは警戒しているらしい。
 実際、チープンの後釜は自分だと思っていたフシもあるそうだから。
 チープンとプリジーゴンのやり取りは、常に二号か三号を介したものになっているみたい。

 チランはそんな解説をすると、一階の隅にある扉を開いたの。

「物置? いや、掃除用具入れかな?」

 そこは何の変哲もない小部屋で、掃除道具が置かれているだけだった。

「ここがいったい何だと言うの?」

 おいらの問い掛けには答えずに、チランは小部屋に入ると…。

「管理局長、わりぃけど~。
 その戦斧でちょいとここを叩いてちょ~。」

 全然悪びれない口調で、父ちゃんに小部屋の壁の一画を粉砕するように要請したんだ。

「おう、ここを叩けば良いのか?」

 父ちゃんが依頼に応えて戦斧を壁に打ち付けると、バリっという破砕音を上げて壁が粉砕され…。

「えっ、隠し階段?」

 そんなプリジーゴンの驚きに満ちた呟きが聞こえたよ。どうやら、マジに知らなかったみたい。

「そだよ~。
 郊外にある宮殿みたいな別荘に住んでいるとか~。
 総帥の居場所については色々な憶測があるけどさ~。
 実はこの建物の地下に住んでいるんだよね~。」

 チランはおいら達を先導して階段を降り始めたよ。
 ただその隠し通路も、階段を降りてしばらく進むと壁に突き当たり行き止まりになってんだ。

 するとチランは。

「管理局長、今度はここを叩いてちょ~。」

 父ちゃんにどん詰まりの壁を叩くように告げたんだ。
 言われた通りに父ちゃんが壁を叩くと、壊れた壁の先に通路が続いていたよ。

「これ、絡繰り細工の隔壁で~。
 チープンの部屋から操作しないと開かないらしいぜ~。
 何処を探してもノブや取っ手の一つも無いし~。
 普通なら行き止まりだと思うだろうね~。」

「そこまでするとは、随分と用心深いんだね。
 冒険者ギルドの親玉って、俺様タイプでオラオラの武闘派が多くて。
 最上階でふんぞり返っているもんだと思ってたよ。」

 おいらが壊れた隔壁を見ながらそんな感想を漏らすと。

「チープンって野郎も若い頃は武闘派で鳴らしたらしいぜ~。
 奴に睨まれたら、直ぐに高跳びしないと命が無いって恐れられてたらしいし~。
 唯、他の武闘派連中とは一味違うみたいだぜ~。
 暗闇に潜んで鈍器で殴り殺すのが奴のスタイルだってよ~。」

「随分と卑怯な戦い方だね…。
 武闘派のイメージと大分違うんだけど。」

「奴にとって卑怯って言葉は誉め言葉らしいぜ~。
 元々、カゲベー会ってのは半グレ集団だったらしくて~。
 『陰に潜んで(K)、ゲバ棒を振るう(G)、無頼の会(B)』の略称らしいし~。
 自分の身を安全な場所に置いて敵対者を屠るのは正義なんだってよ~。」

 チープンはそうやって対抗組織との抗争を勝ち抜いて、カゲベー会を半ぐれ集団から王都有数の冒険者ギルドに育て上げたそうだよ。
 ゲバ棒ってのは角材に持ち手として布を巻きつけた素朴な鈍器らしい。
 チープンの得物はゲバ棒と鉄パイプだそうで、こんな逸話が残っているって。
 ある時手下から何故そんなものを武器にしているのかを尋ねられ。
 「剣や槍では一撃で相手を屠ってしまい、つまらないじゃないか」と答えたそうなの。
 敵対者に苦痛と死の恐怖を長時間与えることが出来るから、ゲバ棒や鉄パイプがお気に入りなんだって。

 闇討ちがチープンの十八番なんだけど、相手が手強い場合は手打ちと称して食事に誘うこともあったみたい。
 しばしばメインディッシュに供したのは、滅多に手に入らない貴重なワイバーンのステーキらしいよ。
 美味だけど遅効性の猛毒で、食後三日くらいで死に至るから足が付き難いんだ。
 しかも見た目や食感は極上の牛肉みたいで、言われなければワイバーンの肉だと気付かないの。

 チープンは蛇のように執念深い性格で、一度でも敵対した者は絶対に赦さないらしいよ。
 チープンの口にする手打ちは絶対に信用してはいけないと、王都の敵対ギルドでは半ば常識だったみたい。

 そんな事情を聴いている間も地下通路を進み、幾つかの隔壁を壊すと突然目の前の景色が変わったよ。

         **********

「なに、これ、まるで宮殿のようだよ。」

 隔壁を壊すと真昼のような光に包まれた明るい空間が広がっていたんだ。
 しかも、壁や円柱には華美な装飾がなされていて王宮の広間みたいな空間だった。

 余りに予想外の空間に出くわして呆気に取られていると、隣の部屋から一人のお姉さんが現れたよ。
 その人はおいら達に気付くと驚いた表情を見せ、声を上げようとしたけど。

 何時ものチャラい雰囲気からは想像もできない俊敏さで、チランが動いたの。
 足音も立てずに素早くお姉さんに近付くと…。

「ゴメンね~。今騒がれると困っちゃうんだ~。」

 チランはそう言ってお姉さんの口を塞いだよ。ぶちゅーって。

「陛下、あれは見ちゃダメな奴です。」

 チランと見知らぬお姉さんの濃厚な口づけを見ていたら、いきなりタルトに目を塞がれたの。
 塞がれた手が退かされるとチランはおいらの隣に戻っていて、さっきのお姉さんがチランにしな垂れ掛ってた。

「ねえ、ねえ、お姉さん、なんでそんな格好しているの?
 もしかして、お姉さん、チープンのレコかい?」

 チランは小指を立てて、お姉さんに尋ねてたよ。
 チランがなぜそんな質問をしたかと言うと、そのお姉さんは真っ裸だったから。

「いえ、幸い、私はあの外道の目に留まらないで済んでいます。
 ここには老若男女三十人ほどの使用人がおりますが。
 全員、全裸で仕事をするように命じられているんです。
 総帥は仕える者を誰一人として信用してないので。
 着衣に武器を隠し持たれるのを警戒しているようです。」

 因みにこのお姉さんは、給仕係として王都でカゲベー会の連中に拉致られたらしい。
 お姉さんの家族状況や家族一人一人の名前、それに父親の勤め先とかを言い当てられ。
 逆らえば一家皆殺しにすると脅されて、この地下宮殿で監禁されて働かされているそうなんだ。
 もちろん、給金なんか貰っていないそうだよ。

 現に、ここの料理長は数年前にチープンによって一家を皆殺しにされているらしい。、
 料理長は王都で一番と評判の料理店の主だったそうで、その評判ががチープンの耳に届いたみたい。
 チープンの誘いを断ったら一家を皆殺しにされ、店主と末娘だけがここに拉致されたそうだよ。
 末娘を人質に取られた料理長は、渋々ここで料理を作らさせられているんだって。
 ここで働かされている人達は皆それを知っていて、家族に危害が及ぶのを恐れて従順に働いているみたい。 

 こんな悪事を働いているのに、チープンの存在は一般人には殆ど知られていないんだって。
 あくまでも目立たないように陰でコソコソすることに徹している成果だと、チランは言ってたよ。 
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