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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第699話 街で暗躍する悪党達を退治しに行ったの

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 そして、『新開地レジャーランド』の開業から数日後。

「おや、マロン陛下がこんな夜に街を出歩くなんて珍しいね。
 良い子は夜更かしをしないんじゃなかったかい?」

 馴染みの串焼き屋台の前を通り掛かると店主のオヤジさんが声を掛けてくれたよ。

「オヤジさん、こんな遅くまで店を開ているんだ。
 朝早くからこんな夜遅くまでお疲れさま。
 今日は特別だよ。
 父ちゃんの仕事を観に行くんだ。
 カッコイイところを見せてくれるって。」

「ほう、陛下の父ちゃんと言ってたらアレだろう。
 ゴロツキ冒険者共を更生させてるって聞いたぜ。
 それじゃ、今夜は不良冒険者のねぐらへでもカチコミするんですかい?」

「まあ、そんなところ。
 明日の朝には、何が起こったか公表するから。
 告知板を見てちょうだい。」

「おう、じゃあ、楽しみにしてるぜ。」

 屋台のオヤジさんに別れを告げて繁華街に入って行くと。
 それはもう始まっていたよ。

 人通りの多い目抜き通り、その一画で十人ほどの若いニイチャンが縄で縛れて転がってた。
 みんな、どことなくチランを彷彿とさせるチャラい雰囲気のニイチャン達だったよ。
 そこは食事処や飲み屋が軒を連ねる飲食街なのだけど。
 ニイチャンが転がされている前の建物には店名を記した看板の一つもなく、何のお店なのかも分からないの。
 それどころか、窓には鉄の板が嵌められ建物の中の様子を窺うことさえ出来なかった。
 繫華街の一等地にこんな建物があるなんて知らなかったよ。
 

「あれ、父ちゃん、もう終わっちゃった?」

 転がされたニイチャンの前に立つ父ちゃんに尋ねると。

「ああ、ここは前座だからな。
 チラン君が事前に内部の情報を漏らしてくれてたし。
 突入の手引きもしてくれたので、あっと言う間に片付いたよ。」

 そう答えた父ちゃんの横には何時にも増してチャラい服装をしたチランが立っていた。

「チランも協力ご苦労様。
 潜入捜査で悪党の尻尾を掴んでくれたそうだね。」
 
「あっ、陛下、おはようございま~す。
 任せてチョ~、こういうのはうちの一族のお家芸じゃん。
 潜入に際しても連中の方から声を掛けてくれたし~。
 楽勝で、怪しまれずに潜り込めちったよ~。」

 いや、おはようって、今もう夜だよ…。
 実は昨日で『風俗営業法』の猶予期間が終了し、今日からは指定地域外での色街稼業は禁止になったんだ。
 そのため、夕暮れと共に騎士団と冒険者管理局が合同で違法店の一斉摘発に入ることにしたの。
 何で、冒険者管理局が関係しているかって?
 もちろん、違法なお店を経営しているのが冒険者ギルドだからに決まってるじゃない。

       **********

 そして、父ちゃんとチランが連れ立ってやって来たのは繁華街から離れた港に近い一画だった。
 そこは倉庫が建ち並ぶ地区で飲み屋も住宅も無く、夜道を歩く人は皆無だったよ。
 その一画に街区の雰囲気に似つかわしくない立派な建物が建っていたの。

 さっき摘発したお店同様、その建物には看板一つ無く、建物の持ち主や用途が全く分からなかった。

 すると暗がりから。

「あっ、局長、お疲れさまです。
 違法営業店の摘発は上手くいきましたか?」

 父ちゃんに気付いた管理局のお姉さんが声を掛けて来たの。

「ああ、ちゃんとここへ踏み込むための証拠も掴んできたぜ。
 この建物への人の出入りは指示通り封鎖できているか?」

「はい、建物の周囲には管理局職員と騎士を隈なく配置していて。
 夕方以降、建物に近付く者、建物から出て来た者は全員拘束してあります。
 もちろん、中からは気取られないよう、捕縛は死角に入った位置で行いました。」

 お姉さんの説明では建物を取り囲むように周囲に百人以上の監視役を配置しているとのことだった。
 他にも事前情報でこの建物から少し離れた倉庫に抜け道があることを掴んでいるそうで。
 その倉庫に造られた抜け道の出入口も封鎖したらしい。

 父ちゃんが監視役のお姉さんからそんな報告を受けていると。
 トシゾー団長の指揮で百人ほどの騎士が駆けつけてくれたよ。

 父ちゃんは、トシゾー団長と一言二言手順の確認をすると。

「さてと、こんな夜遅く娘が見物しに来てくれたんだ。
 少しは良いところ見せないとな。」

 そんなことを呟きながら大きな戦斧を手にしたの、魔物の領域でベヒーモスを一撃で屠った戦斧。
 そして、おもむろに…。

「冒険者管理局の者だ!
 冒険者ギルド『カゲベー会』、風俗営業法違反の容疑で家宅捜査させてもらうぞ。」

 そんな言葉と共に、目の前の建物の扉を戦斧で粉砕したよ。

「カチコミかっ! テメエ、いい度胸してるじゃねえか!」

 お決まりのセリフを吐きながら、入って直ぐのロビーにいた三下が掛かって来たけど。
 百戦錬磨の父ちゃんに敵うはずもなく、一瞬で床に這いつくばってた。

「おや、おや、どうされました?
 扉をこじ開けて強制捜査とは穏やかではございませんね。
 風俗営業法違反と聞こえましたが。
 そのようなことは全く身に覚えがございませんが。」

 胡散臭い微笑みを湛えながら、スキンヘッドのオッチャンが現れたよ。

「俺は冒険者管理局の局長でモリィシーってもんだ。
 一応、グラッセ伯爵家の当主ってことになってる。
 あんたは?」

「私はこの冒険者ギルドの支配人でプリジーゴンと申します。
 して、風俗営業法とは?
 当ギルドではそのようないかがわしい商いはしておりませんが?」

 支配人を名乗るプリジーゴンは、しゃあしゃあとシラをきったの。
 父ちゃんは、さっきのガサ入れで押収した証拠を示そうとしたんだけど。

「支配人、シラをきってもダメですよ~。
 俺っち、つい先日、三ヵ月連続指名売上げトップで表彰されたじゃん。
 支配人から直々に金一封を手渡されたんですが、忘れちゃいました?
 まだ三日前のことですよ~
 『メンズクラブ・ワグネール』のチランですよ。」

 不毛な水掛け論になる前に手っ取り早く話を進めようとしたのか、チランがプリジーゴンの前に立ったの。

「貴様! チラン! 裏切ったのか!」

「いやだな~、裏切ったも何も、俺っち最初からこっち側ですよ~。」

「貴様、間者だったのか!」

「間者だなんて、心外だな~。
 あんたの方から道端で俺っちに声を掛けて来たんじゃないですか~。
 その才能を活かして稼がないかって~。」

 チランの話によると、王都の繁華街で趣味のナンパをしていたらプリジーゴンに声を掛けられたらしい。
 このプリジーゴンって男、『カゲベー会』最大の資金源の色街稼業を一手に担っているらしい。
 その中でも一番重要なのが、『メンズクラブ・ワグネール』なるイケメン酒場なんだって。

 この『カゲベー会』という冒険者ギルドは旧『タクトー会』と並ぶ大手ギルドらしいけど。
 タクトー会のように正面切って悪さをする訳でなく、影でこそこそと悪事を働くらしいんだ。
 さっき父ちゃんがガサ入れしたのが『メンズクラブ・ワグネール』の本店だそうだけど。
 看板は出ていないし、客引きも無い、ついでに何処かに広告を打っている訳でもない。
 それにもかかわらず膨大な稼ぎがあるらしいの。

 その絡繰りはこんな感じなんだって。
 田舎から到着する駅馬車の停車場付近でワグネールのイケメンホストが待ち構えていて。
 上京したばかりの器量の良い娘さんに声を掛けるんだって。
 「ねえ、カノジョ、お茶しない? 王都の案内もしてあげるよ」みたいな。

 たらしのイケメンにとって、初心な田舎娘を虜にするのは容易いらしく。
 数回会った後、自分が働いている酒場に遊びに来ないかと誘うんだって。
 行ったら最後、骨の髄までしゃぶられるらしいよ。

 最初は指名本数を稼ぐために毎日来て欲しいと言われ、そのうちバカ高いお酒を注文させるらしい。
 そんなたちの悪いイケメンは、寝技を使うこともしばしばで。
 ベッドの中で、「俺のことが好きならお店ナンバーワンになるのに協力して欲しい。」とか囁くんだって。
 それでも従わない娘さんは、ラリッパ草みたいなアブナイ薬で薬漬けにして言うことを聞かせるみたい。
 もちろん、アブナイ薬の代金も娘さんのツケに上乗せだよ。
 それから先はお決まりのパターン。
 お金が無くてもツケで注文させて、ツケが貯まると高利貸しを紹介するの。

 そもそも田舎から出て来たばかりで、職にも就いてないんだからツケなど払える見込みは端から無い訳で。
 『メンズクラブ・ワグネール』にハマった娘さん達は、高利貸しに脅されて身を売ることになるんだって。

 それで身を売る娘さんだけど、カゲベー会は店舗を持たずに顧客の指定した所へ派遣するんだって。
 身を守ってくれるお店の用心棒が居ない、お客さんが指定する場所へ行く訳だから。
 相当、無茶なことをするお客さんもいるらしい。
 でも、カゲベー会はお客さんに苦情を言うことは無いらしい。その分高い代金を取っているから。
 それに、お客さんは貴族をはじめとして相当なお金持ちばかりの様子で。
 お客さんが変態的な嗜好を露わにすることは、カゲベー会にとって好ましいことらしい。
 何かあった時にお客さんを強請るネタになるから。
 そして、使い古された娘さんは外国航路の船に売り払うんだって。
 航海の間だけ船乗りさん達の慰み者として役立てばいいってことで、需要は大きいらしい。
  
 と言うことで、田舎から出て来たばかりの顔見知りのいない娘さんを毒牙に掛け。
 入り口の『メンズクラブ・ワグネール』から出口の外国船まで、終始秘密裏にことがなされていて。
 カゲベー会の悪事は露見することなく、秘密のベールに包まれていたらしいの。

 そんなある日、プリジーゴンは、街中でいとも容易く娘さんをナンパしているチランに出くわしたらしい。
 その手慣れた様子を見て、プリジーゴンは速攻でチランを引き抜きに走ったらしいよ。
 趣味と実益が兼ねられるかもと、チランは誘いに乗ってみたものの。
 余りにヤバい仕事なので、ウレシノに報告したんだ。 それが約四ヶ月前のこと。
 以降、『風俗営業法』の施行を機に摘発することにして、チランには内偵を指示してあったんだ。

「ううっ、獅子身中の虫を誘い込んでしまうなんて一生の不覚。」

 話を聞いたプリジーゴンはその場でへたり込んじゃった。
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