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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第630話 従兄はチャラい兄ちゃんだった…

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 さて、ウレシノ達を交えて『教団』を取り締まる法について相談している時のこと。

「そう言えば、マロン陛下。
 連中をいったん野放しにして。
 違法行為を働いたところでしょっ引くと仰せですが。
 その監視の役、ノノウ一族にもさせて頂けませんか。
 一族の男衆を少しは働かせようかと思いまして。
 現状、何もせずにヒモ状態なものですから。」

 ノノウ一族って、もっぱら働くのは工作メイドをしている女性の方で。
 男性たちはメイド見習い達の房中術実習のお相手と、一族の種馬的な働きしかしてなかったそうなの。
 そう言った意味では元からヒモみたいなものだったらしいけど。
 ノノウ一族をおいらが召し抱えて以降、メイド見習いの修行事項から房中術が無くなったから。
 今は、本当に何もやることが無くてヒモそのものになっているそうなんだ。

 遊ばせておくのもなんなので、メイド養成所の手伝いや事務仕事を与えているらしいけど。
 男衆も少しは稼がないと肩身が狭いと思っているみたいだよ。
 そんな自分の父親や従兄を思い浮かべて、ウレシノは考えたみたい。
 マヌケな『教団』の信者くらいなら、男衆でも気付かれずに監視できるんじゃないかって。

「うん、良いんじゃない。 人手は多い方が良いし。
 ちゃんと報酬は支払うからね。
 実績を上げれば、王宮内に何か役職を与えて召し抱えても良いよ。」

「それは、助かります。
 あにぃったら、房中術の指導が無くなったら。
 何もせずに、屋敷で食っちゃ寝するばかりで。
 本当に鬱陶しかったんです。」

 どうやら、あにぃと言うのは従兄の事のようだけど、ウレシノの屋敷に住まいしているらしい。
 ウレシノとスルガの二人には大きな屋敷を与えてあり、一族は二つの屋敷に分かれて暮らしているみたいだからね。

      **********

 そんな訳で翌朝。
 おいらは、宰相がまとめてくれた法案に御名御璽を入れて決裁すると。
 その足で、王宮の中庭に向かったの。

 そこには全部で二百人ほどの町人姿の男女が集まっていたよ。
 おいら直属の近衛騎士の面々に、トシゾー団長が率いる第一騎士団の騎士達。
 それに加えて、ウレシノから提案のあったノノウ一族の人達だね。
 ノノウ一族からは男衆の他、メイド養成所の教官をしているウレシノの母親世代やメイド見習いも動員したんだ。
 特に、母親世代はベテランの間者で監視や尾行はお手のものらしいから、今回の主戦力として期待してるの。

「ほら、あにぃ、マロン陛下にご挨拶して。
 今回、仕事を回してくださったのだから。」

 ウレシノが二十代半ばの青年を引っ張って来たの。
 線の細い優男タイプで、少しウレシノに似たイケメンだったよ。

「どうも、ウレシノの従兄のチランです。
 いやあ、今回は仕事を貰えて助かりました。
 年下のウレシノに無駄飯食いと呼ばれて肩身が狭かったんですよ。
 頑張れば、正規のお役目を頂けるそうなんで。
 俺、無職脱却を目指して頑張っちゃいますよ。」

 チラン兄ちゃんは『教団』摘発の仕事に意欲を見せていたよ。
 チャラい兄ちゃんって雰囲気で、笑顔が少し胡散臭かったけど…。

 他にもノノウ一族の男衆は十人ほどいて、それなりに真面目に働く意欲を見せていた。
 まあ、メイド養成所の所長を務めるウレシノの母ちゃんが、男達にハッパを掛けてたからね。
 「真面目に働かないと鉄拳制裁の上、飯抜きだからね。」って。

 中庭に集まった人達には、何グループかに分けて適宜交代を取りながら二十四時間体制で連中を監視するように指示したの。
 出来たばかりの勅令を記した紙を配布して、連中が違反したら即刻現行犯で捕縛するようにと。

 ムース姉さん、トシゾー団長、ウレシノの母ちゃんに、それぞれの配下のグループ分けを頼むと。
 最初に監視に就くグループの人達だけを率いて、おいらは港に向かったんだ。

 港に着くと、入国管理関係の施設はまだ閉ざされたままだった。
 冒険者ギルドに委託した武器預り所の事務所に入ると。
 既にタロウが、ギルドのお姉さん達と一緒においらを待ってたの。
 何故か、マリアさんも一緒だった。仲良さ気にタロウと腕を組んでいたよ。

「マロン、おはようさん。
 指示通り、あれから一人も港の門を通してないぜ。
 ほれ、入国を待ち切れない連中が門の前に集まっているよ。」

 この国に入国するための門は港にたった一つで、それは直接ギルドの武器預り所に繋がっているの。
 更に武器預り所は入国管理事務所と繋がっていて。
 入国を希望する人は、武器預り所、入国管理事務所の順で必ず通過する仕組みになっているの。

 前日の午後から入国手続きを中止してたものだから、門の前には入国を希望する人でいっぱいだった。 
 
「昨日言った通りギルドにも、連中の監視を手伝ってもらうけど。
 準備は出来ているかな。」

「ああ、ギルドの姉さん達と出入りの冒険者に監視をお願いしてあるよ。
 全員、町人、町娘の服装で港の前の広場に待機させているぜ。
 俺もしばらくは、連中の監視に就くつもりだしな。」

 タロウは事前の打ち合わせ通りに動いてくれたみたい。
 ギルドのお姉さん方に、連中についての注意事項と取り締まりのために制定した勅令の周知を済まし。
 おいらは、入国管理手続きの再開を指示したんだ。

      **********

 入出国用の門が開門されると、沢山の人が武器預り所になだれ込んできたけど。
 朝一番で入国しようと待ち構えていたのは皆商人さんみたいで。
 黒尽くめの服装をしていたり、鉄砲を所持している者は見当たらなかったの。

「まあ、連中、ペテン師の集団ですから。
 朝も早から勤勉に働こうなんて、殊勝な心構えは無いんでしょうね。
 今頃、まだ惰眠を貪っているんじゃないですか。」

 ウレシノがおいらの後からそんな説明をしてくれたよ。
 他人を騙して金をせしめている輩が規則正しい生活なんてしている訳無いって。

 教団員の怪しい姿が見当たらないので、おいらは連中の船を見に行くことにしたよ。

 入出国用の門を出て港の埠頭区域に入り、大型船の停泊用の埠頭まで歩を進めると。
 そこには、おいらの船も真っ青な大型の帆船が停泊していたよ。
 おいらがヌル王国から接収してきた船と同様に白亜に塗られた船だったんけど…。
 悪趣味なことに船の要所要所、目立つところに金色の装飾が施されているの。
 特に、船の舳先には大理石で造られたと思しき女性の船首像が付けられているんだけど。
 その像も所々に金で装飾がなされていて成金趣味丸出し、お世辞にも品が良いとは言えない船だったよ。
 
「げっ、この船、『ルナの壺船』ですね…。
 また、厄介な人物がやって来たものです。」

 悪趣味な船を見て、ウレシノが顔を顰めていたよ。

「ウレシノはこの船知っているの?」

「ああ、ヌル王国の王都に居た者なら知らないものはいませんよ。
 ヌル王国で『教団』の取り締まりが強化され始めた頃に。
 『幸福な家庭の光』教団の教主が建造を始めた船です。
 教主が何処かにトンズラするために建造していると噂されていたのですが。  
 まさか、教主自ら、この大陸まで逃げて来てたなんて…。」

 何でも、王家の御座船を上回る豪華な船が王都の造船所で建造されていると噂になってたらしいよ。
 それが、壺売教団として悪名高い『幸福な家庭の光』教団の船だと知れると…。
 『壺』を売ったお金で建造された船と言う意味で『壺船』と、誰が名付けるともなく呼ばれるようになったそうなの。
 因みに、この教団の本部は『壺御殿』と呼ばれているそうだよ。

「頭の『ルナ』ってのは何よ?」

「ああ、頭のイカレタ教主が自らをルナの女神の化身と称しているからですよ。
 本名不詳で、信者たちに『マイルーナ』と呼ばせて悦に入ってるんです。
 あの成金趣味丸出しの船首像もルナの女神を象ったものらしいですよ。」

「教主ってあんなに美人なの?」

 ウレシノが指差したルナの女神像は、金ピカで悪趣味とはいえとても端正な顔立ちをしてたの。

「いえ、いえ、そこが教主の厚顔無恥なところですよ。 
 実際には醜女って言葉を具現化したらこうなるって容貌ですよ。
 きっと、金に飽かせて願望通りに作らせたんでしょう。
 壺を売った金が幾らでもあるでしょうから。」

 ウレシノは教主のことを悪しざまに罵っていたよ。
 あの不細工なおばさんを崇拝して、金貨一枚もする壺を幾つも買っちゃう信者の気が知れないって。

 まあ、ペテン師の親玉らしいから、よっぽど口が上手いんだろうね。
 そのうち船を降りてくるだろうから、その醜い顔を拝ませてもらおうっと。
  
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