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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって
第621話 タロウの質問タイム
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さて、壁のモニターに映し出された映像の中では、シューティング・ビーンズの落とす『スキルの実』が出揃った訳だけど。
「あら、もうこんな時間…。
マロン、そろそろ帰らないと宰相の機嫌を損ねるわよ。」
資料映像の観賞はここまでだと、アルトがおいらに告げたの。
気付くと、アカシアさんの許を訪ねてから二日目の陽が暮れようとしていたんだ。
おいら、魔物のこととか、レベルのこととか、まだまだ知りたいことが沢山あったのに…。
「あら、せっかく来たのにもう帰っちゃうの?」
アカシアさんが寂しそうな表情で、アルトに尋ねたの。
「ゴメンね、この子、少し前に他の大陸への遠征から戻ったばかりなの。
四ヶ月ほど国を空けていたから、公務が溜まっているのよ。
宰相には三日ほどで帰ると伝えてきたから、そろそろそれは終わりにしないと…。」
寂しそうなアカシアさんにアルトが謝罪すると。
「それなら、私がしばらくここに残ってアカシア母さんの話し相手になるわ。
ここに来てから昔の映像を見るばかりで、落ち着いて話も出来なかったからね。
アルトお姉さまも、マロンちゃん達を送ったら戻って来れば良いじゃない。」
そんなアカシアさんを気遣ったのか、ムルティがそんな提案をしたんだ。
「ムルティ、そうしてもらえると助かるわ。
私もマロン達を王都へ送ったら戻ってくる。
母娘三人、積もる話でもしましょう。
ゆっくりと。」
どうやら、アルトもムルティの提案に乗ることにしたみたい。
この二人の気遣いはタイムリーだったようで。
「あら、悪いわね、気を遣って貰って…。
私もいよいよ老い先が短いのか、最近無性に人恋しくなってね。
誰か、話し相手が欲しいと思っていたの。
嬉しいわ。
娘が二人も訪ねてくれるなんて、もう何年も無かったから。」
アカシアさんはとても弱々しく、でも心底嬉しそうな笑みを浮かべていたよ。
**********
「本当はもっと見せたい映像があったのだけど…。
続きが見たければ、またアルトに連れ来てもらえば良いわ。
私も、『海の民』の赤ちゃんを見るまでは死ぬつもりは無いからね。
それと、今何か聞きたいことがあれば言ってちょうだい。
手短に答えられることなら教えてあげる。」
資料映像の再生終了を告げたアカシアさん。
アカシアさんはアルトに時間の余裕を確かめたうえで、質問の時間を取ってくれたの。
すると…。
「他の大陸から来た連中が、この大陸の言葉を理解できない理由は何となく分かったよ。
でもなあ…、それじゃ何で俺はこの大陸の人間と同じ能力を持っているんだ?
俺はこの大陸どころか、この星の人間ですらないんだが。」
おいらが『魔物の領域』について尋ねようとしてたら、タロウに先を越されたよ。
まあ、タロウにしてみれば自分に関わることだから、気になるのは当たり前かな。
すると、アカシアさんは弱々しくタロウの傍まで飛んで行き。
まじまじとタロウのことを観察し始めたの。
「なあ、飛ぶのがしんどいなら、俺の方がそっちに寄るぜ。
大人しくベッドに腰掛けていた方が良いんじゃないか?」
珍しくタロウが他人を労わるような言葉を口にしたの。
それほど、アカシアさんの体が弱っているように見えたんだね。
「そんなの気にしないで良いわよ、
たまには飛ばないと、飛び方を忘れちゃうわ。
それにベッドに寝たきりだと体が弱っちゃうし。」
タロウの気遣いが嬉しいのかアカシアさんは微笑みを浮かべてた。
そして…。
「私も他の星から来た人間を見るのは初めてよ。
あなた、一体どうやってこの大陸にやって来たの?」
「いや、どうやってと聞かれても…。
気付いたら、マロンの住んでた町の広場に立ってたんだが。」
それからタロウはあの日の状況を詳しくアカシアさんに伝えていたよ。
「気付いたら広場に立っていた…。
不思議なこともあるものね。
正直言って、私にも正確なことは分からないわ。
さっきも言った通り、異世界人なんて初めて見たからね。」
アカシアさんの返答にタロウはガッカリした表情を見せたんだ。
ただアカシアさんは、続けて自分の見解を示してくれたの。
タロウが異世界から来たってことが本当だとしてと、前提を入れたうえで。
最初に言ってたのが、異世界人のタロウとこの大陸の人が物質的に同じ組成なんて普通は有り得ないということ。
そんな奇跡的な偶然がある訳ないとアカシアさんは言ってたよ。
その上で、タロウが二つの世界を隔てる壁を越える時に、タロウの体に何かが起こったんじゃないかって。
タロウの体をこの世界に順化させるような作用が働いたのだと、アカシアさんは考えたみたい。
そうでなければ、タロウの存在自体が異物としてこの世界から排除されたんじゃないかと。
「だから、あなたは出現したこの大陸の人間に同化したのだと思う。
もし別の大陸に現れていたら、その言語能力は無かったんじゃないかな。」
アカシアさんはそんな言葉で、自分の仮説を締め括ったんだ。
「でもよ、俺、アルト姐さんから言われたんだ。
この大陸の娘と子を成すことは出来ないって。
体の組成がこの大陸の人間と同じなら子供が出来るんじゃないか?」
そう言えば、アルトと最初に会った時にそんなことを言われていたね。
魂のあり方が、この大地に住む人間と違っているとか。
「ああ、身体は同化しても、魂がこの世界に溶け込んでいないのね。
心配しなくても大丈夫よ。
あなたがこの世界に馴染めば、そのうち子供だって成せるようになるわ。」
アカシアさんは言ってたよ。
タロウはまだ心のどこかで、この世界を現実だと認めていないのではないかと。
漠然と夢の中の出来事だと思っていて、そのうちに覚めるんじゃないかと期待しているんじゃないかって。
心のどこかで自分を異邦人だと思っているうちは、魂がこの世界に溶け込まないって。
そのうち、この世界での暮らしが当たり前になって、元の世界に帰ることを諦めれば自然と魂も同化するだろうと。
「そっか、ここは夢の中でも、ゲームの世界でも無いんだな…。
そう言えば、爺さんも日本へ帰ることを諦めた頃に子供が出来たって言ってたっけ。
俺もそろそろ、日本のことはきっぱり諦めないといけないのか。
三人、いや五人も嫁さんが出来たんだからな。」
タロウはアカシアさんの言葉を聞いて一瞬寂しそうな顔をしたけど。
その言葉を言い終える頃には、何か決意を固めたような表情をしていたよ。
「あら、もうこんな時間…。
マロン、そろそろ帰らないと宰相の機嫌を損ねるわよ。」
資料映像の観賞はここまでだと、アルトがおいらに告げたの。
気付くと、アカシアさんの許を訪ねてから二日目の陽が暮れようとしていたんだ。
おいら、魔物のこととか、レベルのこととか、まだまだ知りたいことが沢山あったのに…。
「あら、せっかく来たのにもう帰っちゃうの?」
アカシアさんが寂しそうな表情で、アルトに尋ねたの。
「ゴメンね、この子、少し前に他の大陸への遠征から戻ったばかりなの。
四ヶ月ほど国を空けていたから、公務が溜まっているのよ。
宰相には三日ほどで帰ると伝えてきたから、そろそろそれは終わりにしないと…。」
寂しそうなアカシアさんにアルトが謝罪すると。
「それなら、私がしばらくここに残ってアカシア母さんの話し相手になるわ。
ここに来てから昔の映像を見るばかりで、落ち着いて話も出来なかったからね。
アルトお姉さまも、マロンちゃん達を送ったら戻って来れば良いじゃない。」
そんなアカシアさんを気遣ったのか、ムルティがそんな提案をしたんだ。
「ムルティ、そうしてもらえると助かるわ。
私もマロン達を王都へ送ったら戻ってくる。
母娘三人、積もる話でもしましょう。
ゆっくりと。」
どうやら、アルトもムルティの提案に乗ることにしたみたい。
この二人の気遣いはタイムリーだったようで。
「あら、悪いわね、気を遣って貰って…。
私もいよいよ老い先が短いのか、最近無性に人恋しくなってね。
誰か、話し相手が欲しいと思っていたの。
嬉しいわ。
娘が二人も訪ねてくれるなんて、もう何年も無かったから。」
アカシアさんはとても弱々しく、でも心底嬉しそうな笑みを浮かべていたよ。
**********
「本当はもっと見せたい映像があったのだけど…。
続きが見たければ、またアルトに連れ来てもらえば良いわ。
私も、『海の民』の赤ちゃんを見るまでは死ぬつもりは無いからね。
それと、今何か聞きたいことがあれば言ってちょうだい。
手短に答えられることなら教えてあげる。」
資料映像の再生終了を告げたアカシアさん。
アカシアさんはアルトに時間の余裕を確かめたうえで、質問の時間を取ってくれたの。
すると…。
「他の大陸から来た連中が、この大陸の言葉を理解できない理由は何となく分かったよ。
でもなあ…、それじゃ何で俺はこの大陸の人間と同じ能力を持っているんだ?
俺はこの大陸どころか、この星の人間ですらないんだが。」
おいらが『魔物の領域』について尋ねようとしてたら、タロウに先を越されたよ。
まあ、タロウにしてみれば自分に関わることだから、気になるのは当たり前かな。
すると、アカシアさんは弱々しくタロウの傍まで飛んで行き。
まじまじとタロウのことを観察し始めたの。
「なあ、飛ぶのがしんどいなら、俺の方がそっちに寄るぜ。
大人しくベッドに腰掛けていた方が良いんじゃないか?」
珍しくタロウが他人を労わるような言葉を口にしたの。
それほど、アカシアさんの体が弱っているように見えたんだね。
「そんなの気にしないで良いわよ、
たまには飛ばないと、飛び方を忘れちゃうわ。
それにベッドに寝たきりだと体が弱っちゃうし。」
タロウの気遣いが嬉しいのかアカシアさんは微笑みを浮かべてた。
そして…。
「私も他の星から来た人間を見るのは初めてよ。
あなた、一体どうやってこの大陸にやって来たの?」
「いや、どうやってと聞かれても…。
気付いたら、マロンの住んでた町の広場に立ってたんだが。」
それからタロウはあの日の状況を詳しくアカシアさんに伝えていたよ。
「気付いたら広場に立っていた…。
不思議なこともあるものね。
正直言って、私にも正確なことは分からないわ。
さっきも言った通り、異世界人なんて初めて見たからね。」
アカシアさんの返答にタロウはガッカリした表情を見せたんだ。
ただアカシアさんは、続けて自分の見解を示してくれたの。
タロウが異世界から来たってことが本当だとしてと、前提を入れたうえで。
最初に言ってたのが、異世界人のタロウとこの大陸の人が物質的に同じ組成なんて普通は有り得ないということ。
そんな奇跡的な偶然がある訳ないとアカシアさんは言ってたよ。
その上で、タロウが二つの世界を隔てる壁を越える時に、タロウの体に何かが起こったんじゃないかって。
タロウの体をこの世界に順化させるような作用が働いたのだと、アカシアさんは考えたみたい。
そうでなければ、タロウの存在自体が異物としてこの世界から排除されたんじゃないかと。
「だから、あなたは出現したこの大陸の人間に同化したのだと思う。
もし別の大陸に現れていたら、その言語能力は無かったんじゃないかな。」
アカシアさんはそんな言葉で、自分の仮説を締め括ったんだ。
「でもよ、俺、アルト姐さんから言われたんだ。
この大陸の娘と子を成すことは出来ないって。
体の組成がこの大陸の人間と同じなら子供が出来るんじゃないか?」
そう言えば、アルトと最初に会った時にそんなことを言われていたね。
魂のあり方が、この大地に住む人間と違っているとか。
「ああ、身体は同化しても、魂がこの世界に溶け込んでいないのね。
心配しなくても大丈夫よ。
あなたがこの世界に馴染めば、そのうち子供だって成せるようになるわ。」
アカシアさんは言ってたよ。
タロウはまだ心のどこかで、この世界を現実だと認めていないのではないかと。
漠然と夢の中の出来事だと思っていて、そのうちに覚めるんじゃないかと期待しているんじゃないかって。
心のどこかで自分を異邦人だと思っているうちは、魂がこの世界に溶け込まないって。
そのうち、この世界での暮らしが当たり前になって、元の世界に帰ることを諦めれば自然と魂も同化するだろうと。
「そっか、ここは夢の中でも、ゲームの世界でも無いんだな…。
そう言えば、爺さんも日本へ帰ることを諦めた頃に子供が出来たって言ってたっけ。
俺もそろそろ、日本のことはきっぱり諦めないといけないのか。
三人、いや五人も嫁さんが出来たんだからな。」
タロウはアカシアさんの言葉を聞いて一瞬寂しそうな顔をしたけど。
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