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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第585話 海賊の末裔は一掃されたみたい…

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 おいらの膝の上に座って、虐めないでと訴えるセイロンちゃん。
 
「大丈夫だよ。おいら、怖くないよ。
 虐めないから、仲良くしてね。」 

 その愛らしさに思わず頭を撫で撫でしちゃったよ。
 頭を撫でられて、セイロンちゃんは気持ち良さそうに目を細めていたよ。

 そんなセイロンちゃんを微笑まし気に眺めながら宰相は言ったの。

「おやおや、マロン陛下は随分と懐かれたようですな。
 そうしていると、まるで姉妹のようです。」

 セイロンちゃんには実の姉妹が沢山いるけど、殆ど会ったことが無いらしい。
 姉妹と言っても皆母親が違うし、母親同士の交流も無いため姉妹と会う機会が無いらしの。
 王女の母親である側妃達の多くは、属国から強制的に連れて来られた姫達で。
 実質的には人質なので、後宮の自室に軟禁されているような状態らしいからね。
 きっと、セイロンちゃんも後宮から出たことすら無かったんだと思う。

 セイロンちゃんは心細かったんだと思うよ。
 いきなり厳つい男達に囲まれて、女王になれと言われたのだろうから。
 だから、歳の近い同性のおいらの膝の上に逃げ込んだのだと思う。

「セイロン、女王様になれって言われたんだけど…。
 上手くできるかな?
 お姉ちゃんも女王様なんでしょう?
 大変じゃない?」

 何て言ってるしね。

「おいらも、女王になってまだ一年くらいだから。
 上手くやれている自信は無いけど。
 おいらの周りには、助けてくれる人がいっぱいいるから。
 皆の手を借りて、何とかやっているんだ。
 セイロンちゃんも宰相や周りの人に助けてもらえば良いよ。
 大丈夫だよ、みんな怖くないから。」

 おいらがセイロンちゃんの問い掛けに答えると。

「そうでございますよ、セイロン殿下。
 私達はセイロン殿下のお味方です。
 何も怖くはありませぬぞ。
 困ったこと、分からぬことがあれば何なりと言ってくだされ。
 お力になります故。」

 これぞとばかりに、味方アピールをする宰相。
 やっぱり、セイロンちゃんに警戒されていたんだね。

「本当? 怖くない?」

 またもや、保護欲を掻き立てる上目遣いで宰相に問い掛けるセイロンちゃん。

「もちろんですとも。
 セイロン殿下の治世が安泰となるよう。
 この爺、誠心誠意お仕えさせて頂きますとも。」

 まだ、六歳のセイロンちゃんにそんな難しい言葉を使っても分からないと思うよ。

「????」

 現にセイロンちゃん、ポカンとしているし…。

「宰相さんは、セイロンちゃんを虐めないって。
 だから怖がらなくて大丈夫だよ。
 色々、助けてくれると言ってるよ。」

「そうなんだ!
 宰相さん、有り難う。
 よろしくお願いします。」

 セイロンちゃんはやっと理解した様子で、ニッコリ笑って頭を下げてたよ。

          **********

「いやぁ、助かりました。
 セイロン殿下は、昨日から一つも笑顔を見せてくれなかったのです。
 理由が分からなかったのですが、我々に怯えていたのですな。
 そう言えば、殿下の周囲には女性の側仕えしかおりませんでしたからな。
 私達のような厳つい男は怖かったのでしょう。」

 ブルーマロウ侯爵がワハハと笑いながらそんな事を言ってたよ。
 まあ、穏健派と言いつつも、見た目に厳ついオッチャンだものね。
 たった六歳のセイロンちゃんが怯えるのも無理も無いと思うよ。

 セイロンちゃんのご機嫌が良くなったところで宰相が聞かせてくれたのだけど。
 今日早速、現在交戦中の国々に向けて講和の使者を送るそうだよ。
 てか、もう王宮を出ているはずだって。
 さっき退出した御典医が使者の待機している部屋に行き、国王崩御を告げ次第出発する段取りになっていたらしい。

 具体的な講和条件は提示していないものの、奪った領地の返還と相応の賠償金支払いを考えているみたい。
 賠償金の原資は、プーアル伯爵を始めとする取り潰した貴族の資産を充てるらしいよ。
 それとノノウの一族の連中の首を差し出すみたい。
 ノノウ一族みたいな物騒な連中が生き残っていると、諸外国が安心できないだろうからって。

 後、後宮を廃止するそうだよ。
 今頃、ブルーマロウ侯爵とツェリンマ侯爵の手勢が後宮を制圧している頃だって。
 やはり、ダージリン王の崩御と同時に動かしたんだって。
 どうやら、廊下ではかなり多くの人がダージリン王の崩御を待ち構えていたらしい。

 御后様には、王都から離れた何処か静かなところで隠居してもらうつもりらしいよ。
 御后様の実家は昨晩既に制圧して一族根絶やしにしたそうだし、息子二人も亡くなっているから。
 御后様も素直に従うだろうと、宰相は言ってたよ。
 身寄りが無くなったし、逆らえば自分も命が無いことがわかるだろうからって。

 そして、他の側妃たちだけど、帰国を望む人は子供を連れて帰ってもらうって。
 帰国する側妃に対しては属国となっている故郷の独立も認めるそうだよ。

 また、帰国を望まない妃には、王族から除籍して爵位を与えるんだって。

 どちらを選ぶにも相応の支度金は用意するそうだよ。
 その原資も、取り潰した貴族の資産を充てるらしい。
 この二日で取り潰した貴族の家は五百以上になったそうで。
 全て王家譜代の家で、海賊稼業で蓄えた資産が膨大な額に上るらしい。
 諸外国対する賠償金と側妃への支度金を支払ってもまだお釣りが来るくらいにね。 

 また、取り潰した貴族の邸宅の幾つかは、この国に残る妃の邸宅として与える予定みたい。

「まあ、側妃の皆さんは、ダージリン王が無理やり召し上げた被害者ですから。
 相応の賠償はしないとなりませんしね。
 幸い、我が国の病巣とも言うべき海賊上がりの貴族を一掃できましたので。
 奴らが略奪で溜め込んだ財産を没収することで、原資が確保できて幸いでした。」

 宰相はそう言うと、この国は海賊に占領される前に戻って出直しだと言ってたよ。

     **********

「そう、それじゃ、これだけは返しておくね。
 セイロンちゃんの即位に必要だろうから。」

 おいらは立ち去る前に、『積載庫』から幾つかの品物を取り出したんだ。
 王冠、王笏、ローブ、宝剣、指輪、その他、『積載庫』の説明を見てレガリアと記されていた品物だよ。
 アルトが王家の宝物庫を根こそぎ奪って来たから、混じっていたんだ。

 ダージリン王が王を続けるなら返すつもりは無かったけど。
 セイロンちゃんが王位に就くなら、王権の証は持っていた方が良いものね。
 そうじゃないと、王族派の貴族の残党が、セイロンちゃんの即位を認めないと言い出すかも知れないし。

「なんと、これはかたじけない。
 先ほどの誓約書に従えば、返還を要求することは叶わないはずなのに。」

「おいらの方から返すと言う分には問題ないでしょう。
 それと、これ、セイロンちゃんの即位のお祝い。
 これでドレスを作って上げて、二着分あるから。
 即位の際に着るドレスの分と成人した時に着るドレスの分。」

「うわっ、お姉ちゃん、これキレイ!
 くれるの? 有り難う!」

 六歳児でも女の子だね、おしゃれな服装には興味があるみたい。
 目の前に置かれた薄緑色に輝く生地に目が釘付けになったよ。

「これは、何と美しい…。
 これはシルクですか?
 このように緑がかったシルクなど目にしたことが御座いませんが。」

「これ、おいらの住む大陸でも人の手には入らない生地なんだ。
 妖精族だけの布地だったのだけど。
 ある協力の代償として、特別に分けてもらえたの。
 その時協力した二十人足らずの人しか持っていない布地なんだよ。」

 おいらが貰った分は、プティー姉とミンメイ、それにネーブル姉ちゃんに分けたんで大分減ったけど。
 それでも、まだ十着分以上残っているから、二着分即位祝いに贈ることにしたんだ。
 側室腹だと周囲から侮られないように、箔付けも必要だと思ってね。
  
 誓約書を受け取りに来て、何かとんでもない場面に遭遇しちゃったけど。
 まあ、海賊の血を引く狂犬みたいな連中は居なくなったようだし。
 この大陸も少しは平和になるかも知れないね。
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