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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第574話 百聞は一見に如かずと言われてるし…

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 ティーポット島を含むハーブ諸島の独立を何とかダージリン王に認めさせることが出来たよ。
 なので要求順序が前後したけど、おいら達の大陸に関する不干渉を誓約させることにしたんだ。

「それで、おいらの国がある大陸に対する不干渉も受け入れてくれるね。
 軍船、商船を問わず如何なる武装船の寄港も認めないし。
 もちろん、武力侵攻なんて以ての外だよ。」

 実際問題、ムルティの結界が補修されているので『霧の海』を越えるのはほぼ不可能なのだけど。
 稀に結界の綻びがあるみたいだし、念には念を入れてきっちり誓約させておいた方が良いからね。

「まあ、私は最初から新大陸進出は反対していたのですが…。
 この国には海賊気質の抜けない血の気が多い者が多ございましてな。
 ですが、新大陸まで遠征する戦力は最早我が国には残されておりませんし。
 必要不可欠な補給拠点であるティーポット島にも寄港できないのであれば。
 如何な血の気の多い者と言えども、新大陸進出は諦める事でしょう。
 陛下もマロン陛下の要求を呑むことに異論は御座いませんな。」

 宰相は『海賊気質の抜けない血の気が多い者』と言ったところで、ダージリン王をギロリと睨んでいたよ。

「何じゃ、その目は。
 もう良い、新大陸への進出なんぞ今後一切やらんわ。
 儂だって最初は新大陸への侵攻は慎重に行うつもりだったのだ。
 それをウーロンの奴が、美姫は要らないかと唆すから。
 儂好みの年端のいかない美姫を献上するなどと言っておったのに。 
 それがどうだ、美姫どころか、こんな厄災を招き入れおって。」

 そう言えば、ジャスミン姉ちゃん、最初に言ってたね。
 利得が不確かな新大陸へ貴重な武装船を充てることに、ダージリン王は慎重だったと。
 そこに功名心に駆られたウーロン王子が、新大陸への遠征を強く主張したんだっけ。
 王子に存在感を示す機会を与えようとの親心から、ダージリン王は遠征を許可したと聞いてたけど。
 何のことは無い、ウーロン王子から美姫を献上すると言われてホイホイと乗ってしまったんだね。

 この国に新大陸の情報をもたらした船は、サニアール国へ漂着したらしいし。
 サニアール国については、それなりに正確な情報を掴んで帰って来たみたいだから。
 きっと船の乗組員達は、シナモン王女とカルダモン王女の存在も知ってたのだろうね。

 ウーロン王子も商人達から情報を探る中で、サニアール国の美姫の噂を知り。
 女好きのダージリン王なら必ず喰い付いて来ると、ウーロン王子は踏んだのだと思う。
 実際、喰い付いたみたいだし…。

        **********

「そうだ、ついでに王様が商人に出した依頼も取り消しておいて。
 トレントの苗木を大陸から持ち出すことは許さないよ。
 鉄の増産に使いたいようだけど、もう鉄を大量生産する設備も無いし。
 トレントの苗木を手に入れる必要も無いでしょう。」

 いや別に、『トレントの木炭』がおいらの収入源だから苗木の持ち出しを禁じている訳じゃないよ。
 あんな危険な魔物を討伐出来る人の居ない場所に植えさせる訳にはいかないからね。
 あんなヤバイものを迂闊に植えたら大惨事になるよ。

 元々、ダージリン王は大砲や鉄砲を造るための鉄の増産にトレントの木炭を使おうと考えていたらしいの。
 なので、この国の軍事力強化を阻止すると言う意味でもトレントの苗木は渡したくなかったんだ。
 もっとも今となっては、トレントの木炭だけあっても溶鉱炉と技術者が無いからね。
 トレントの木炭を渡しても実害は無いだろうと考えてはいるの。

 とは言え、もう『霧の海』を越えることはほぼ不可能だし。
 トレントの苗木を手に入れて一旗揚げようって人が、『霧の海』付近で遭難事故を起こしたら気の毒だからね。
 苗木を手に入れろと言う依頼自体を取り消しておいてもらわないと。

「何故じゃ?
 武装船でない商船が新大陸を訪れて、その苗木を手に入れるのは別に構わんじゃろう。
 それとも何か、トレントと呼ばれる木の苗はご禁制の品なのか?」

 まあ、もうその商船もおいら達の大陸に着くことも無いとは思うけど…。

「トレントの苗木は、おいら達の大陸でも普通の人は見たことも無いと思うよ。
 おいらの知る限り、トレントの苗木を採集できるのはアルトしかいないし。
 おいらも少しは強くなったつもりだけど、多分、トレントの苗木を採るのは無理。
 意地悪じゃなくて、無駄な血を流して欲しくないから言ってるんだ。」

「何じゃ、それは?
 高々、木の苗を手に入れるくらいで、何を大そうなことを言っておるのじゃ。
 それとも何か? トレントなる木は相当危険な山奥にでも自生しておるのか?」

 まあ、人里離れたところにしか生えてないのは確かだけど。
 それはトレントが生えていること自体が危険で、人の方が近付かないからだから。

「うーん…。多分、言っても理解してもらえないよね。
 ねえ、アルト、トレントの苗木持ってない?
 どんな危険なものか、教えてあげようと思うんだけど。」

「あら、良いわね。 もちろん、あるわよ。
 この国の野蛮な軍属達に狩らせてみれば良いわ。
 自分達がどれほどか弱い存在かと言うことが分かるでしょうし。」

 おいらの考えを伝えると、アルトはカラカラと笑って賛成してくれたよ。

        **********

 おいらはトレントがどういうものかを教えるために、宰相に交渉の小休止を伝え。
 トレントを植える場所と狩るための人の用意をお願いしたんだ。

 そして、用意されたのは銃騎士の射撃訓練場。
 おいら達の前には、鉄砲の代わりにまさかりを担いだ銃騎士が五人並んでいたよ。

「いったい何なのだ。
 会談の途中で何処か広い場所と軍人を何人か用意しろとは。
 苗木が何とかと言っておったが、分けてくれるのではないのか?」

 その様子を目にしてダージリン王がそんな呟きを漏らしてた。

「それじゃ、この辺に植えるわね。」

 射撃訓練場の中央付近まで進むと、アルトはそう告げてトレントの成木を『積載庫』から出したんだ。
 地面に置かれたトレントは、ウネウネと動く根っこを地中に沈めて行ったよ。

「何だ、あれは。あれが苗木だと言うのか?
 どう見ても立派な大樹だぞ。
 あれが苗木なら、何処まで大きくなると言うのだ。」

 ダージリン王は射撃訓練場に植えられたトレントを見て目を丸くしていたよ。

「ああ、あれ? 勿論、苗木じゃなくて成木だよ。
 アルトの持つ『不思議空間』に仕舞ってあったの。
 でも、驚くのはそこじゃないよ。
 銃騎士さんにあのトレントを伐採させてみてよ。」

 本当は今この場で苗木を成木まで育てたんだ、レベル三『積載庫』の時間操作機能を使って。
 でも、アルトが『積載庫』の中の時間の流れを操作できることまでは明かす必要は無いからね。
 
「何か良く分からんが。
 おい、お前らあの大木を伐採してみろ。」

 ダージリン王が目の前の五人にトレントの伐採を指示したよ。
 指示を受けた五人は即座にトレントに向かって行ったんだ。

「あっ、トレントを伐り倒す時はくれぐれも用心してね。
 少しでも気を抜くと大怪我をするよ。」

 おいら、一応、大きな声で注意したんだけど…。

「こんな木の一本で注意しろも無いだろうが。
 おい、サッサと伐採してしまうぞ。
 何で、貴族の俺達が木樵きこりの真似事なんてしないとならんのだ。」

 五人はおいらの忠告なんて気にも留めてない様子だった。
 如何にもやる気無さそうな態度でトレントに向かって行ったよ。

 そして、不用意にトレントに近付いて…。

「うぎゃ!」

「ぎえっ!」

「痛ててぇ!」

 前を歩いていた三人が、早速トレントの攻撃枝の餌食になったよ。
 八本の枝が三人に分散したおかげで、三人共一瞬で行動不能に陥ることは無かったんだ。
 腕や足に突き刺さった枝を抜こうと、三人共必死にもがいてた。

「おい、拙いぞ、ここでもたついてちゃ、俺達もやられちまう。」

「そうだな、俺達二人で幹を伐り倒して仲間を救い出そうぜ。」

 無事な二人は、形勢不利と見て本体を先に倒すことを選んだみたい。
 トレントの本体に向かって、脱兎の如く駆け出したよ。

 そして、おいらの隣では…。

「どわっ!」

 ダージリン王が驚きの余り腰を抜かしていたよ。
 一言悲鳴を上げた後は声を出すことが出来ず、トレントを指差したままわなわなと震えてた。
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