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第十六章 里帰り、あの人達は…

第509話 ライム姉ちゃんの求人活動

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 その日、おいらは王宮の一画に設けられたある施設を訪れたの。

「ねえ、お姉ちゃん達、この施設を出たらどうするつもり?
 王都で仕事を探すのかな?
 それとも、故郷に帰る?」

 ここは、エロスキー子爵の別邸とその一派の貴族邸に監禁されていた人が保護されている施設なの。
 このに収容されているのは、およそ三百五十人。
 貴族に監禁されていた若い娘さんが二百五十人ほどと、子爵の別邸でヤバい薬草を栽培させられていた奴隷百人ほど。
 監禁されていた娘さんは十代後半から二十歳くらいまでで歳が揃っているけど。
 奴隷として使役されていた人は、おいらより小さな子供から五十前くらいまで老若男女、幅広かったよ。
 
「そうね、王都で仕事を探すと言っても…。
 ここに保護されてから、お世話してくださる方に尋ねたら。
 きちんとした職場にお勤めするには紹介状が無いと難しいと言われたの。
 王都へ行けば仕事なんて幾らでもあるものだと、正直甘く見ていたわ。
 甘い話に引っ掛かると痛い目に遭うって、身をもって知ったし。
 王都はもうこりごりだわ。
 かと言って、田舎へ帰ったとして、周りの人に何と言ったら良いのか…。
 ホント、どうしましょうね…。」

 おいらの目の前にいたお姉さんが、そんな風に答えて途方に暮れてたよ。
 この部屋に集まってもらったお姉さん達は百人ほど。
 幸いにして薬の影響も、精神的な衰弱も軽度で間もなく施設から出る人達なの。
 宰相から聞いた話では、数年は遊んで暮らせるだけの慰謝料を支払うことになっているそうだから。
 施設から出ても直ちに路頭に迷う訳じゃないけど、まだ二十歳前後だから仕事を探さないとね。

 このお姉さんもそうだけど、ここにいるお姉さん達の多くは王都に憧れて故郷を出て来たらしいよ。
 トアール国は、おいらのウエニアール国よりもおしなべて豊かで、田舎でもそれなりに仕事はあるんだ。
 でも、若いお兄さんやお姉さんは田舎の暮らしや農作業が嫌で都会に出て来る人が多いそうなの。
 おいらの身近にもいるものね、シフォン姉ちゃん。
 シフォン姉ちゃんは臆面も無く言ってたもん。
 田舎暮らしが嫌で、王都で楽しく暮らしたいなんて心づもりで出て来たって。

 目の前の百人ほどのお姉さんも、そういう人が多いようで…。

「私なんか、親に止められたのにそれを振り切って出て来たのよ。
 今更、どの面下げて実家に帰れって言うの。
 貴族の慰み者にされていたなんて知られた日には。
 親には勘当されるだろうし、嫁の貰い手も望み薄だわ…。」
  
 こんな風に家出同然で田舎を飛び出して来た人までいる始末だよ…。

        **********

「それでは、皆さん、仕事のアテは無い方ばかりと考えて良いのでしょうか?
 実は、私に仕えて下さる方を募集していまして。
 かなりの辺境になるのですが、行っても良いと言う方はいますか?」

 一通り集まったお姉さん達の事情を聞き終えると、ライム姉ちゃんが尋ねたの。

「あんた、貴族さんかい。
 私達みたいに紹介状も無い町娘を雇おうと?
 いったい、どのような仕事でしょうか。
 男の慰み者になる仕事は、金輪際真っ平なんですが。」

 貴族の手下の甘い言葉に騙されて酷い目に遭ったためか、疑心暗鬼になっているみたいだね。
 貴族の人に警戒感を持っているみたい。

「そんな女衒みたいな事はしませんよ。
 私、ハテノ辺境伯ライムと申します。
 私の領地は現在復興途上で人手が足りないのです。
 皆さんに提示できる仕事は二つ。
 領地を護る騎士と私の館の働き手です。
 当然、騎士の方が給金が良いですよ。」

 ライム姉ちゃんは、それからハテノ領の事情をかいつまんで説明したんだ。
 特に、辺境伯として正式に辺境警備の任を受けたので、騎士団を増員したいのだって。

 また、ダイヤモンド鉱山の稼働本格化によってライム姉ちゃんの仕事が増えているんだけど。
 その一方で赤ちゃんが生まれたから、今までみたいに屋敷の事までかまっていられないそうなの。
 この機会に屋敷で働くメイドさんを、思い切って雇い入れることにしたんだって。

「へえ、女性に対する暴行や拉致監禁を厳しく取り締まる領地ですか。
 それは住み易そうなところですね。
 でも、その仕事、私達に出来るのでしょうか?
 気性の荒い男達や横柄なスケベ貴族、それに野盗なんかを取り締まるのでしょう。」

 他領と違い女性の立場の向上に努めていると聞いて、何人かのお姉さんが興味を示したよ。
 でも、体力で劣る女の人に騎士なんてできるかと疑問に思ったみたい。

「その点は安心してください。
 私の領地の騎士は全員女性ですし。
 騎士になりたいと希望される方には、懇切丁寧な指導を致します。
 また、とっておきの秘策もありますので。
 すぐに、皆さんも野盗如きはものともしなくなりますよ。」

 まあ、例によって『生命の欠片』を与えて促成栽培するからね。
 狂暴な魔物が闊歩しているハテノ領でしか出来ないことだよ。

 そして、ライム姉ちゃんが騎士の給金が銀貨五百枚、館の使用人の給金が銀貨百五十枚だと告げると…。

「銀貨五百枚だって、それじゃ、親父の給金より良いじゃないか。
 私、やる! 領主様、私を騎士にしてください!」

 即答して食いついて来たお姉さんが居たよ。
 騎士の仕事って、本来は凄く危険が伴うはずなんけど…。
 銀貨五百枚と言う破格の条件の前では、そんなの考える余地が無かったみたい。
 まあ、毎日、きちんと訓練していれば危ないことも無いとは思うけどね。

 結局、その部屋に集まったおよそ百人ほどのお姉さん達を、全員ライム姉ちゃんが雇い入れることになったよ。
 おいらの懐も無茶苦茶暖かくなったよ。
 レベル十相当の『生命の欠片』、百人分お買い上げだったからね。ライム姉ちゃん、太っ腹!

        **********

 次に向かったのは、今まで奴隷としてエロスキー子爵の別邸に捕らわれていた人達のもと。
 別室に、すぐに社会復帰できそうな人と身重の女性に集まってもらったの。
 身重の女性については、奴隷の中に自分の子供がいない人限定でね。

 エロスキー子爵の別邸で、奴隷の繁殖用に使われていた女性がいて。
 そこで生まれた子供は、生まれながらにして奴隷として育てられたんだ。
 だから、世の中の常識を全く知らないの。でもそれじゃ、世の中に出て困るでしょう。
 だから、エロスキー子爵の別邸で生まれた奴隷に関しては、施設でちゃんと世の中の常識を教え込むことになっているの。
 その中にはまだ小さな子供もいるので、その母親は施設に残ってもらうことになっているの。
 子供は母親と一緒の方が良いからね。

「私は、ハテノ領の領主ライムと申します。
 間もなく、この施設を出て行く皆さんに、仕事を紹介に来ました。
 また、王宮の許可を得て、妊婦さんを私が預かることになりました。
 妊婦さんに関しては、出産後、希望があれば私の屋敷で雇い入れることも可能です。」

 すると、エロスキー子爵の別邸へ摘発に入った夜、声を掛けて来た初老の男が尋ねてきたの。

「あのう、仕事って、どんなことですか?
 私、もう、五十になりますんで…。
 あんまり、きつい仕事は無理ではないかと…。」

「お爺さんは、奴隷になる前はどのようなお仕事をなされていました?」

 きつい体力仕事は難しいと言うお爺さんに、ライム姉ちゃんが前職を尋ねると。

「私は、王都の商人のところで雇われていました。
 暖簾分けで独り立ちすることになったのですが…。
 開業する時に、騙されて高利貸に金を掴まされまして…。」

「では、帳簿付けとかは出来ますか?」

「もちろんです。
 奴隷に身を落したとはいえ。
 昔取った杵柄、今でも帳簿の付け方は忘れてはいません。」

「では、領内の事務仕事を手伝ってもらいましょうか。
 他にも、事務仕事ができる方が居れば歓迎します。」

「それは、助かります。
 この二十年、奴隷に落とされて、嫁を貰い逸れて身寄りも無く。
 当面の生活費として慰謝料はもらえると伺いましたが。
 仕事のアテが無くて、その後の生活が不安だったのです。」

 お爺さんはホッとした表情を見せて、ライム姉ちゃんの下で働きたいと希望してたよ。
 でも逆に、事務仕事なんてやったことも無いって兄ちゃん達もいたんだ。
 拉致されたお姉さん同様に、田舎から出て来たところを騙されて奴隷に落とされた若い兄ちゃん達。

「若くて体力に自信のある方は、領地の鉱山で働いてもらえれば助かります。
 体力勝負の仕事になりますが、その分、給金は良いですよ。」

 ライム姉ちゃんは、ダイヤモンド鉱山の給金や鉱山住宅の事、それに温泉施設の事なんかを説明してたよ。
 国の強制労働で送られる銀山何かと違って、就業時間は短いし、安全な作業環境になっているってアピールしてた。

「大した職歴が無くても、銀貨三百五十枚も給金がもらえるのか。
 家が無償貸与ってのも、魅力的だな。
 どうせ、実家に帰ってもキツイ畑仕事をする事になるんだ。
 それなら、高い給金を貰える鉱山で働いた方が良いか。」

 そんな感じで、男の人もみんな雇い入れることになったよ。
 最後、身重の女性なんだけど…。

「私達を保護してくださるとのことですが。
 私達は何をすればよろしいのでしょうか?」

 三人いる妊婦さんの一人が尋ねてきたの。

「別に、特にして欲しいことはありませんよ。
 しいて言えば、安心して出産してください。
 そのための環境を整えますので。
 私、つい先日、出産したばかりの子供が居るのです。
 皆さんのお子さんには、私の娘の遊び相手になってもらおうかと。
 その後の仕事に就いてはお子さんが乳離れしてから相談しましょう。」

 ライム姉ちゃんは、穏やかな笑顔を見せながらそう伝えたの。
 この三人については当人に渡す慰謝料の他に、王宮からライム姉ちゃんに当面の養育費が支給されることになっているの。
 王都で出産するよりも、静かな環境の方が良いだろうとライム姉ちゃんが申し出たんだ。
 もちろん、三人の子供をユズちゃんの遊び相手に出来ればと言うのも本音みたいだよ。

 ライム姉ちゃんの家は、没落している間に家臣も居なくなっちゃったからね。
 三人の子供にきちんと教育を施して、子飼いの家臣にしたいそうだよ。

「それは助かります。
 初めての出産で、とても不安だったのです。
 お腹の子供は、誰の子かも分かりませんし。
 一人で育てるのも、お腹の子の将来についても不安ばかりで…。」

 三人共、ライム姉ちゃんの申し出に凄く感謝していたよ。
 
 こうして、ライム姉ちゃんは新たに百三十人ほどの人を雇い入れて帰ることになったんだ。

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