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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・

第130話 妙ちくりんな『通り名』が役立ったよ…

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 予想外に年上の三人から決まっちゃったけど他のみんなも頑張っているよ。
 相手は耳長族の仇とも言える人間、しかも長らく里にはいなかった若い男なんで話が弾むかと心配してたんだけど。

 そんな心配は要らなかったよ。
 普通、最初に自己紹介するでしょう。
 『STD四十八』の連中、その自己紹介が良い話の切っ掛けになったんだ。

 こんな感じ…。

「初めまして、私、シンシンと申します。
 お名前を伺ってもよろしいですか?」

 見た目に十七、八に見えるシンシンさんが、同年代のヒデに声を掛けたの。

「あっ、その、ボク、ヒデと申します。
 シンシンさんのようなキレイな方に声を掛けて頂けるなんて緊張しちゃいます。
 よろしくお願いします。」

「あら、お上手、キレイだなんて言われたら照れちゃいますわ。
 ところで、ヒデさんは、あちらの方のような通り名は無いのですか?」

 シンシンさんは、『花菱責めのサブ』を見ながらヒデに尋ねたの。
 その問い掛けに、ヒデは恥じ入るような顔をして言ったんだ。

「いえ、自慢するほどのものではございませんので。
 ならず者稼業から足を洗ってカタギになる時に、あの名前は捨てたんです。」

「そうですの?
 ですが、技を磨くのに精進されたのでしょう?
 道を外れていた頃のことを反省するのは良い事だと思いますが。
 努力して磨いた技まで隠さなくてもよろしいのでは?
 是非とも、教えて頂きたいものですわ。」

 でも、『一芸を極める』と言うサブの言葉を聞いて興味をもっていたようで。
 シンシンさんはヒデの通り名も是非聞きたいって。

「はあ、そうおっしゃるのであれば。
 王都では、一応、『櫓立ちのヒデ』と呼ばれていました。
 他人様ひとさまから、そう呼ばれるまでには大分時間がかかりましたが…。
 やっとこさ、足を洗う直前には周りの方々からそう呼んでもらえるようになりました。」

「まあ、立派ですわ、やはり他人様に認めてもらえるくらい技を極めたのですね。
 それで、『櫓立ち』と言うのはどのような技なのでしょう。」

 当然、何に使う、どんな技なのかは関心がある訳で、シンシンさんは尋ねた訳。
 そうすると、ヒデはシンシンさんにこっそりと耳打ちしたの、周りに聞こえないように。
 やっぱり、他人には教えたくない秘伝の技みたいだね。

 ヒデの話をきいたシンシンさん、ヒデを称賛の眼差しで見て言ったんだ。

「ヒデさんって、スマートな体形をしているのに、そんな力技が得意だなんてお強いのですね。
 ちょっと意外な感じですけど、とても頼もしいですわ。
 あっ、でも私じゃ重すぎるかしら?」

 最後は、上目遣いで、ヒデの顔色を窺うようにシンシンさんは声を小さくして言ったの。

「いえ、剣舞でも、ダンスでも体幹を鍛えるのは大事な事ですから。
 足腰には自信があるんです、ボク。
 シンシンさんこそ、とてもスマートなので、ホントに軽いものですよ。
 ちょっと、失礼しますね。
 ほら、この通り。」

 ヒデは、事前に詫びるとシンシンさんの両方の腋の下に手を差し込み。
 シンシンさんを自分の腰上の高さまで持ち上げたんだ。
 そして、ヒデの腰に両足を絡めるように言って、そのまま上体を後ろに反らさせたんだ。
 シンシンさんの全体重をヒデの腰で支える形になったよ。

「わあ、凄い、本当に力強いんですね。頼もしいわ。」

 シンシンさん、大喜びだった。
 でも…。

「ねえ、タロウ、あれって、何に使う技だろう? 戦闘向きじゃないよね?」

 おいらには、技の用途がさっぱりわからなくて、横にいるタロウに聞いてみたんだ。
 タロウは、困った顔を見せた後に。

「ああ、フィギアスケートにあんな技があったような気がするな。
 そう言えば、小学校の時にやらされた組体操でもあんなのがあった気がする。
 まっ、踊りとか、ダンスの技なんじゃねえの。」

 おいらから、目を反らして言ったんだ。こいつ、絶対に何か隠してる。
 『フィギアスケート』とか『にっぽん』のモノでしょう、この辺じゃ聞いたこと無いよ。
 でもまあ、踊りとかの技だったら、なんとなくわかる気がする。
 あいつらってば、やっぱり最初から芸人を目指してたんじゃない。

 おいらが一人納得していると。

「ヒデさん、もし良かったら、私をヒデさんだけの櫓にして頂けませんか?」

「ボクの方こそ、生涯、シンシンさんだけの櫓台になることを誓います。」

 目の前の二人でプロポーズの言葉が交わされたんだ。

 と言う訳で、奴らの妙ちくりんな通り名が、上手く話の切っ掛けになったくれたの。
 『通り名』の話をきっかけに話が弾んでいるカップルが多かったよ。

「ひでぇ、プロポーズ。
 日本でそんなプロポーズしようもんなら引かれちまうぜ。
 まあ、目的が産めよ増やせよなんで、目的には適っているかも知れねえがよ。」

 二人のプロポーズの言葉を聞いたタロウがそんな感想をもらしてた。
 どこが酷いんだろう? 

     **********

 『妖精の泉』の広場のあちこちで、そんな会話が聞こえてきたよ。

「まあ、『虹の架け橋』なんて素敵な名前の技なのですね。
 きっと、とても洗練された技なのでしょうね。」

 技の名前を聞いて、感心する声や。

「まあ、是非私の牡丹も乱れさせた欲しいわ。」とか、

「『花あやめ』ってそんな技ですの? 恥ずかしいわ、…でもちょっと興味あるかも。」とか、

 なんか、連中の得意技をお姉さんにして欲しいなんて声も聞こえたよ。
 やっぱり、ダンスかなんかの技なんだね、ペアになって踊る時の技みたいだよ。
 
 そんな風に、連中が極めたという技の話題でお見合いの席は盛り上がっていたんだ。
 そんな様子をおいらの隣で見ていたタロウが言ってた。

「あいつら、マジで、みんなその通り名で呼ばれていたんかよ。
 俺はてっきり、日本の中二病みたいに自称かと思ってたんで…。
 よくそんな恥かしい名を名乗れるなと思ってたんだけど。
 マジもんの通り名だって、あいつらどんだけ王都で浮名を流してたんだよ。」
 
 呆れ顔のタロウのセリフを聞いて、父ちゃんが不安そうな表情でアルトに問い掛けてた。

「あの、アルト様。
 あの連中、本当に大丈夫なのですか?
 確かに、見た目に普通の容姿ですし、言葉遣いも丁寧で、更生してはいるようですが…。
 王都で派手に遊んでいたみたいではないですか。
 里のみんなには元気な子を産んでもらわないといけないんです。
 変な病気を持ち込まれたら困りますよ。」

 変な病気って、シフォン姉ちゃんが持っていて、タロウにうつしたアレかな?
 なんか、派手に遊んでいると掛かるってアルトが言ってたけど。

 すると、アルトがニンマリ笑って。

「私が、昔懇意にしていた耳長族にそんな不義理をする訳ないじゃいない。
 全員、ちゃーんと『妖精の泉』の水を飲ませて完治させたわ。
 今じゃ、水虫の一つも持っていない健康体よ。
 もちろん、タネの方もすこぶる元気なはずだから心配しないで良いわ。
 一年もしたら、きっと出産ラッシュよ。」

 『完治させた』のね、やっぱり持ってたんだ。
 おいらがそれをツッコんだら…。

「バカね、あの広い王都で『通り名』が通用するのよ。
 どんだけ、場数を踏んでると思っているの。
 持ってない訳ないでしょう。
 『芸』の肥やしよ、『芸』の肥やし。」

 そんな風に言ってアルトはカラカラと笑い飛ばしていたよ。
 それを聞いた父ちゃんは、苦い顔をしてたけど。
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