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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・

第117話 住む場所は必要だからね

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 『カタバミ』の魔物の植え付けが終ったところで、隣の家から出て来たタロウとシフォン姉ちゃん。

 タロウが、スライム捕りに行くのを見送ったシフォン姉ちゃん。

「久しぶりに思いっ切り堪能しちゃった。
 さて、タロウ君が戻ってくるまで、ひと眠りしてまた今晩に備えようかしら。」

 そんな言葉を呟きながら、大きなあくびを付いていたよ。

「何が、今晩に備えて一眠りよ。
 あんた、今晩もタロウを眠らせないつもり? 
 いい加減にしないと、そのうち腎虚で倒れるわよ。
 それに、一晩中あんな大声を出して、ご近所にまる聞こえよ。」

 そこへ、アルトがツッコミを入れたんだ。
 まあ、たしかに、タロウを仕事に行かせて自分だけこれから眠るって…。

「あら、アルト様、マロンちゃん、おはよう。
 私の声、マロンちゃんの家まで聞こえちゃった?
 いやだ、アノ声聞かれちゃったんだ、恥かしい…。
 うるさくしちゃってごめんさないね。
 もしかして、眠れなかった?」

 『アノ声』ってどの声?
 何が恥ずかしいのか分からないけど、おいらはぐっすり眠ってたから全然気付かなかったよ。

「あんたねえ、私はタロウの身の回りの世話を命じたはずよ。
 昼寝なんてしていないで、炊事、洗濯、掃除くらいしたらどうなの。」

「アタシ、アルト様に言われた通り、真面目にタロウ君のお世話してるよ。
 あの年頃の男の子って、一番して欲しいお世話がアレだよね。
 アタシが、あんなことや、そんなことをしてあげたら、すごく喜んでたもん。
 あっ、でも、洗濯、やっておかないと。
 シーツが色々と酷い事になってて、あれじゃ寝られないや。
 アルト様、言ってくれて有り難う。
 一眠りする前に、シーツ洗っちゃうね。」

 シフォン姉ちゃん、シーツを洗濯するって家の中に入って行っちゃった。
 そんなシフォン姉ちゃんを見て、アルトは呆れてたよ。

「そりゃ一晩中じゃ、さぞかし酷いことになっているでしょうよ」って

     *******

「ねえ、マロン、これから朝ごはんを食べに行くんでしょう。
 そしたら、そのあとちょっと役場まで付き合ってもらえるかしら。」

 そんな訳で、おいらは広場の露店で朝ごはんを済ませた後役場によることになったの。
 で、やって来た町の広場、露店のパン屋でパンを買おうと思ったら。

「ねえ、ねえ、マロン。
 隣に頭が少しアレな男の子が住んでたろう。
 しばらく見ないと思ったら。
 昨日の晩から今朝まで、一晩中女の人の凄い声がしたのよ。
 あの子、女の子にモテそうには見えないし。
 この町の娘達からは気味悪がられているだろう。
 今、近所のみんなで噂してたんだけど。
 若さを持て余して、遂にどこかから娘をさらって来たんじゃないかって。
 監禁して無理やり手籠めにしてるんじゃないかってね。
 頭がアレな子は何をしでかすか分からないから怖いよねってさ。」

 いつもの噂好きのオバチャンがタロウの噂をしてた…。
 タロウったらすっかり犯罪者扱いされてるよ。
 ここにいる誰一人としてタロウに彼女が出来たとは露ほども思ってないの。
 不憫な…。

「オバチャン、おいら寝てたから、どんな声かは聞いてないけど。
 その声、シフォン姉ちゃんの声だよ。
 タロウ、王都でお嫁さん貰ったんだ。
 シフォン姉ちゃんって言って、とっても美人のお嫁さん。
 王都で、悪党に狙われているところをタロウが助けたの。
 今、とっても、アツアツだよ。」

 とりあえず、おいらは誤解を解くことにしたよ。
 このオバチャン達を放っておくと、今日一日でタロウの有罪が確定しちゃいそうだから。
 あらぬ噂が流れて、タロウが町のみんなから爪弾きにされたら可哀想だしね。

「おやそうなのかい。
 少し頭がアレなあの子の嫁に来るなんって、奇特な娘もいたもんだね。
 まあ、蓼食う虫も好き好きって言うからね。
 ねえ、みんな、聞いたかい。あの子に嫁さんが来たそうだよ。」

「ええ、聞いていましたわ。
 あんな貧相な体つきなのに…。
 一晩中だなんて、あっちは強いのね。
 人は見かけによらないわね。」

「羨ましい…。
 うち旦那に見習わせたいよ。
 うちの宿六ったら、最近とんとご無沙汰だからね。」

 相変わらずタロウに対する評価は酷いけど、誤解は解けたみたい。
 中には、タロウを見直したような言葉も聞こえたしね。
 
     *******

 タロウに対する誤解を解いたおいらは、露店で朝ごはんを済まして役場へ行ったの。
 役場と言っても、代官屋敷みたいな立派な建物がある訳でなく…。

 おいらは、すぐ近所にある自宅と瓜二つの形をした建物の前にやった来たんだ。

「いらっしゃいませ。
 本日は、ご購入でしょうか、売却でしょうか。
 私のノルマ達成のため、できれば売却はご勘弁願えればと思うのですが。」

 役場の中に入ると、お姉さんが何かの商店のような挨拶で出迎えてくれたんだ。
 扉を潜った先には、おいらの家と同じ土間があって、そこに机が一つ置いてあるだけ。
 そこに座っているのは、お店の売り子のような、一人の若いお姉さん。
 
 ここは、この町に沢山あるかつての鉱山住宅の売り買いだけを行っている役場なの。
 目の前のお姉さんも、まんま売り子さんで、鉱山住宅の売買のためだけに雇われてるんだって。
 …完全歩合制で。

「購入よ、購入。
 家が十二軒欲しいの、できればまとまった区画で欲しいわ。」

 アルトがお姉さんに鉱山住宅の購入を伝えると。

「あら、妖精さんが家を購入しに来るなんて珍しい。」

「何よ、妖精が家を買いに来たらダメだと言うの?」

「いえいえ、私は妖精さんだからといって断ったりはしませんよ。
 お買い上げいただけるお客様は、みんな神様ですから。
 ですが、お客様のサイズですと、一軒で何百人も住めますよ。
 十二軒もお買い上げと言うのは、この町に妖精の里でも作るのですか?」

「私達妖精は、森に住まう種族よ。
 こんなにごみごみした街中に住める訳ないでしょう。
 私の身内の人間をこの町に住ませるのよ。」

「あら、残念。
 可愛い妖精さんの集落が出来たら、この辺境の町の名所になるかと思ったのに。
 でも、十二軒分も人が増えるのは良いことです。
 それに、十二軒もお買い上げいただけるなんて。
 歩合給の私にとっては本当に神様のようです。
 私がここに勤めて数年になりますが、こんな大商い初めてですよ。
 ご成約頂ければ、来月は晩のおかずを一品増やせそうです。」

 なんて調子の良いことを言いながら、お姉さんはいそいそと書類の準備を始めたよ。
 そう、今日は『STD四十八』の住む場所を買いに来たんだ。
 この辺境の町には、宿屋も貸家もない代わりに沢山の空き家があって格安で売ってるの。
 その昔、鉱山で町が栄えていた時があって、その頃の鉱山住宅が沢山空き家になってるんだって。
 
       *******

 来月の給金が増えると言って喜ぶお姉さんを通して購入したのはというと…。
 鉱山住宅が立ち並ぶ中でも繁華街から離れた一番端の方にある一画。
 鉱山住宅は沢山空きがあって、どれでも一軒銀貨千枚均一だから、町の繁華街に近い方が人気があるの。

 今、おいらとアルトは、役場のお姉さんに案内されてそこへ来ているんだけど。

「売却しておいて言うのも何なのですが…。
 本当にこんな外れでよろしいのですか?
 今でしたら、もう少し繁華街に近い方へ変更いたしますよ。」

 周囲を見ながら、お姉さんは恐縮そうに言ったんだ。
 だって、周りは見事に空き家なんだもん、周囲には人っ子一人見当たらないよ。

「良いのよ、ここに住む連中、元々カタギな生活はしてこなかった奴らだから。
 心を入れ替えさせて働かせるんだけど、今は見た目がアレなんでね。
 町の人がたくさんいるところに居を構えたら周囲の人に迷惑を掛けちゃうわ。」

 アルトは、お姉さんに向かってそう告げると、その場に『STD四十八』の連中を放りだしたの。

「おおお、久し振りのお天道様だ!
 姉さん、やっと外へ出してくれるんすか?」

「やっと、あの外が何にも見えない場所から解放された!
 あそこ、だだっ広いのに周りに何も見えなくて無性に不安になったぜ。」

「おお、俺も、一生あそこから出してもらえねんじゃねえかと心配になった。」

 そんなことを口にしながら、突然現れた四十八人ものガラの悪い男達。
 それを目にした、役場のお姉ちゃん、目を丸くしてたよ。

「お客さま、この方達はいったい何処から現れたんでしょうか?」

「この男達は、私が『妖精の不思議空間』に入れて王都から連れて来たの。
 『STD四十八』って言って、王都の札付きだったんだけど。
 面白い連中なんで、芸人にしようと思って連れて来たのよ。
 悪さはさせないから、安心して良いわよ。
 もし、おイタをするようなら、私が責任もって処分するから。」

 例によって、『妖精の不思議空間』で誤魔化したアルト。
 お姉さんはビックリしていたけど、それで一応納得したみたい。
 巷に伝わっている妖精にまつわる話って、不思議な話が多いから。
 
「姉さん、もうカタギに迷惑はかけませんから。
 そんな、怖ろしいこと、言わないでくだせえよ。」

 『処分する』というアルトの言葉を聞いて、連中、ビビっていたよ。
 

* 明日、19日から21日まで3日間、所用で投稿をお休みします。
 22日から投稿を再開しますので、よろしくお願いします
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