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第六章 帰って来た辺境の町、唐突に姿を現したのは・・・
第116話 一晩中、何を騒いでいたのやら…
しおりを挟む「ふう、やっと帰ってこれたよ。やっぱり、住み慣れたこの町が一番落ち着くね。」
家の前庭でアルトの『積載庫』の中から出してもらった時、おいらは思わずそう口に出しちゃった。
なんて言っても、一月振り以上だからね。
この町に住み始めてから、こんなに家を留守にしたのは初めてだよ。
王都へスタンピードの落とし前をつけてもらいに行ったんだけど…。
そのまま、なし崩し的に甘味料の露店を開くことになっちゃって、気付いたら一月以上経っちゃった。
ちょっと、出掛けるつもりだったのが、ひょんなことから思わぬ長居になっちゃった。
でも、甘味料の値段を吊り上げていた『スイーツ団』は潰したし。
ギルドに従来通りの値に戻すことを約束させたんで、露店を出した目的は達成できたから良しとしないとね。
「へえ、ここがタロウ君の住んでいる町なんだ。
辺境って言うから、もっとすごい田舎かと思ったんだけど。
意外と大きな町じゃない。
今日から、この町でタロウ君と新婚生活を始めるのね。
よろしくね、旦那様。」
その大きな胸の谷間にタロウの腕を抱き込んだ姿勢でシフォン姉ちゃんがそんな言葉を口にして…。
タロウの頬っぺたにチューしてた、アツアツだね。
でも、いつの間にかタロウのお嫁さんってことになっているよ、シフォン姉ちゃん。
冒険者ギルド『アッチ会』から護ってあげる代わりに、アルトからタロウのお世話係を命じられたはずなんだけど。
「いやあぁ、こんななキレイな年上の嫁さんが貰えるなんて。
俺、こっちにきて本当に良かった。」
タロウったら、鼻の下を伸ばしてそんな言葉を零しているし…。
まあ、本人が良いのなら、それで良いけどね。
この町じゃ、別に結婚したからと言って役場に届け出る必要もないから。
*******
取り敢えず、おいらの家に中に入って土間のテーブルを囲んで。
「予定より大分長いこと露店を開いちゃったし。
その間、王都の甘味料を独占しちゃった形になったから。
凄い売り上げになったわ。
私は、人の商いのこととか、お金のこととか良く知らないけど。
少なくとも、露店で上げる売り上げじゃないわね。
結局、手許に残ったのは銀貨六万枚、三等分してマロンとタロウに二万枚ずつね。
本当は二等分して、三万枚ずつあげたかったんだけど。
あの四十八人に取り敢えずの生活をさせないといけないからね。」
アルトはそう言うと『積載庫』から銀貨を二万枚ずつ、おいらとタロウに分けたんだ。
妖精のアルトにお金なんか不要なんで、初めはおいらとタロウで分けちゃうつもりだったみたいだけど。
『STD四十八』を引き取ったんで、当面の生活費を渡す必要が出て来たみたい。
無一文だと、また、カタギに悪さするかも知れないからね。
ドンっとタロウの目の前に置かれた大きな布袋、銀貨二万枚も入っていたら重みで底が抜けそうだよ。
「タロウ君すごいわ!
その歳で銀貨二万枚も稼ぐなんて。
強い上に、甲斐性もあって、男として最高よ!
フツメンとか、あっちが小っちゃいとか、そんな欠点補って有り余るくらいだわ。」
それを目にして、シフォン姉ちゃん、隣に座るダロウに抱き付いて喜んでた。
一家族四人で生活していくのに、年間でだいたい銀貨四千枚くらいかかると聞いたことがある。
四人家族が五年生活できるお金を二十日くらいで稼いだんだから、驚くのも無理ないよね。
「いやあ、それほどでも。」
抱き付かれたタロウは顔を赤くして照れていたけど…。
タロウ、気付いていないのかな、微妙にディスられていることに。
まあ、それでも、シフォン姉ちゃん、タロウのことを改めて見直したみたいだよ。
まっ、それはともかくとして、王都で開いた露店の分け前ももらって、王都への旅は無事(?)終わったんだ。
*******
その翌朝、おいらは早起きして前庭で、とある作業をしたの。
本当はすぐにしたかったんだけど、王都滞在が予定外に長引いたんで延び延びになっていたこと。
そう、待望の『カタバミ』の魔物を前庭に放したの。
今朝まで、アルトの『積載庫』にしまってもらってたんだ。
「そうやって、土の上に放っておけば勝手にどんどん増えるわよ。
そいつは本当に雑草のように繁殖力が旺盛だからね。」
アルトの指示通り、丁寧に草を取り去った前庭に、受取った『カタバミ』の魔物を放ると。
『カタバミ』の魔物は、うねうねと動く根っこを器用に地面に潜りこませたよ。
んで、見ている間に、二つに増えた
このあたり、単なる植物じゃなくて、魔物なんだと良く分かるね。
本当に繁殖力が旺盛みたいだから、こまめに狩らないとすぐに前庭からはみ出しそうだよ。
「これなら、毎日、たくさん『スキルの実』を採れそうだね。
豆粒みたいな『実』だから、あっという間にレベル十まで上げられそうだよ。
楽しみだね。」
「そうね、私もさっそく森に植えてみるわ。
森のみんなが効率的にレベルアップできるようになったら助かるわ。」
『カタバミ』の魔物がドロップするスキルの実で獲得できるスキルは、『金貨収穫量アップ』。
この国に金貨なんてモノはないから、意味不明のスキルだったんだけど。
おいらの積載庫の中のモノのリストで、『生命の欠片』が『金貨』ってなってたの。
それで、スキルの効果が判明したんだよ。その効果がなんと…。
魔物なんかを倒した時に得られる『生命の欠片』の数が増えるんだよ。
この前、試しに食べてみたんだけど、レベル六まで上がって『金貨収穫量百二十%アップ』になってるんだ。
一体の魔物を狩ると、得られる『生命の欠片』が通常の二・二倍にもなるんだ。
『ゴミスキル』だと思われていたものが、有望さ、赤マル急上昇だよ。
おいらも楽しみだし、アルトが期待するのも頷けるね。
アルトと二人で、そんな『カタバミ』の魔物の植え付けをしていると。
「うっ、お陽さまが黄ばんで見える…。」
「タロウ君、素敵だったわよ。
朝まで頑張れるって、やっぱり若いって凄いわ。
おじさまでは、そうはいかないものね。
お姉さん、大満足よ!
ちょっと拙いけど、それはこれから、じっくりと教えてあ・げ・る・。
じゃあ、頑張って稼いでね。
でも、できるだけ早く帰って来てね、お姉さん待ってるから。
一緒にお風呂に行きましょう。」
隣の家の玄関から、シフォン姉ちゃんを腕に絡みつかせてタロウが出て来た。
これから、スライム捕りに行くみたいで…。
シフォン姉ちゃん、タロウのほっぺたにチューして送り出していたよ。
「あきれた…。
昨日の晩、隣がうるさいと思ったら、朝までだったの…。
面倒なタロウの世話を押し付けたつもりだったのに。
何かツボにはまっちゃったみたいで、拍子抜けだわ。
でもまあ、お互いに満足しているみたいだから、良しとしましょうか。」
アルトは、最初、仕掛けたイタズラが上手くいかなくてガッカリといった表情になったけど。
手を振って見送るシフォン姉ちゃんと、照れて恥かしそうに手を振り返すタロウを見て穏やかな笑みを見せてたよ。
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