上 下
117 / 819
第五章 王都でもこいつらは・・・

第117話 最後の責任はこいつに押し付けます

しおりを挟む
 モカさんは、『アッチ会』のしょうもない悪さの話をした後。

「『スイーツ団』の摘発で、冒険者ギルド三つが結託して甘味料の価格を不当に吊り上げていた証拠が掴めました。
 なので、これから、『ソッチ会』、『コッチ会』のガサ入れにも入ろうと考えています。
 捕縛したアッチ会の連中の証言では、残り二つのギルドも娘を監禁しているようですので。
 甘味料の不当な価格操作を口実にして、この機会に他の悪事も摘発してしまおうかと思ってます。」

 そんな事を言ったんだ。
 この機会に、『ソッチ会』、『コッチ会』も潰してしまおうかって。

「相談と言うのはそのことなんだけど。
 残り二つの冒険者ギルド、今回は見逃してあげないかしら。
 別に潰しちゃったって私には関係ないけど、あなた達が困ると思うわ。
 二つのギルドとも、甘味料の価格操作からは手を引くって約束させたし。
 監禁している娘も当面遊んで暮らせるお金を与えて解放させた。
 もう娘の監禁もしないと約束させたわ。
 今回は、そんなところで手打ちにして良いじゃないかしら。」

 そ言って、アルトは二つのギルドに書かせた証文をモカさんに見せたんだ。
 すると、

「冒険者ギルドなんぞ、潰してしまえば良いであろうが。
 冒険者ギルドなんてものは、無法者の集まりであろう。
 あ奴ら、狡猾で今まで尻尾を掴ませんかったが、潰す口実が出来たのだ。
 サッサと潰してしまえば良かろうが。」

 椅子の陰に隠れていた王様がそんな口を挟んだの。
 その言葉を聞いて、アルトの、モカさんの、そしておいらの白い目が王様に注がれたんだ。

「あきれた…。
 ねえ、モカ、本当にこんなのを王様にしておいて良いの?
 こいつ、そのうち、国を滅ぼすわよ。
 ねえ、マロン、なんでギルドがあるのかをこのおバカに教えてあげて。」

 アルトに指示されて、おいらは王様にギルドの生い立ちを話すことにしたの。

「冒険者ギルドは、元々は国が作らせたものだよ。
 荒くれ者が多い冒険者が、世間の人達に迷惑かけないように。
 統率して監督する役割をするようにって。
 元々は、冒険者が悪さをしないように見張るためのモノだったの。」

 父ちゃんが良く言ってたんだ。
 元々、協調性に乏しくて世間に上手く馴染めない人が多い冒険者。
 そんな冒険者が悪さをして、世間の爪弾きにならないよう監督するのがギルドの役割だって。
 それが、率先して町の人に迷惑かけたり、本来助けるべき冒険者を食い物にするなんて嘆かわしいって。
 父ちゃんも冒険者だったけど、世間様には絶対に迷惑を掛けないって言って弱い魔物をせっせと狩ったよ。
 父ちゃんみたいな真面目な冒険者もいるのに、…。
 その顔になるギルドがしょうもないから冒険者全体がクズみたいに言われて悲しいって言ってたよ。

「ほら、マロンみたいな小さな子でも知っているのに。
 国のトップのあんたが知らないってどういう事よ。
 良い、よく聞きなさい。
 冒険者ギルドが無法者の集団になっているのは、あんたがいけないのよ。
 冒険者ギルドは国が監督することになっているの。
 広域指定を受けているギルドは年に一回国の監査が入っているはずなのよ。
 なのに、『監禁部屋』なんてモノが何十年も放置されていたってどういう事よ。」

 アルトは、国の監督不行き届きだって、王様を叱責したんだ。
 この間、『アッチ会』の前で揉めてた、シフォン姉ちゃんを買ったと言う貴族のおっちゃんが言ってた。
 冒険者ギルドが大きな顔してられるのは貴族がお目こぼししているからだって。
 『お目こぼし』って、ギルドの悪さを見て見ぬ振りをしてるってことだよね。

「この国の貴族、冒険者ギルドと癒着しているのがいるわよ。
 このあいだ、『アッチ会』の前で風呂屋の常連だと言う貴族に会ったわ。
 大きな声で、『お目こぼししてる』って公言してたわよ。
 監査に入った者達も手心を加えてるんじゃないの。」

 アルトも、おいらと同じことを考えていたみたい。
 ギルドの前で会った貴族のおっちゃんの事を引き合いに出していたよ。

「そうなのか、モカ?」

 アルトに監督不行き届きと叱責されて身を縮み上がらせてた王様が、おそるおそるモカさんに問い掛けてた。

「はい、お二方の言う通り、ギルドは本来冒険者を監督するための組織です。
 冒険者の起こした不始末に連帯責任を負わせることで、しっかり指導させようとしたのですが。
 いつの間にか、荒くれ者の方がギルドを乗っ取ってしまい、今の状況になってしまいました。
 ご指摘の通り、一部の貴族とギルドの癒着はかねてから噂されていますが証拠が掴めなくて。
 噂では、ワイロは勿論のこと、酒場や風呂屋での接待、更には接待賭博なども行われていると耳にします。
 とはいえ、相手は貴族なので、明確な証拠なしには摘発に入ることが出来ませんで…。
 それで、アルトローゼン様は二つのギルドは見逃せと申しますが、いったい何をお考えで?」

 モカさんは、王様においらとアルトの話を肯定して、今どんな状態なのかを説明したの。
 そんでもって、アルトに何を考えているかを尋ねてきたんだ。

「別に難しいことを言ってる訳じゃないわ。
 王都の冒険者連中を束ねている冒険者ギルドを全部潰しちゃったらどうなると思って?
 荒くれ者の冒険者が野放しになっちゃうじゃない。
 てんでばらばらに悪事を働かれたら収拾がつかなくなるわ。
 いったん全部潰して、ギルドに代わる新しい組織を創っても良いけど。
 あんた達、それを真面目にやるつもりある? 多分すごく大変よ。
 それより、今あるギルドを活用して、行いを改めさせれば良いじゃない。
 国がきっちりと監督責任を果たしなさい。
 一番、簡単なのは監査をゴリゴリと厳しくやる事。
 監査には屈強な騎士を当てれば良いわ。
 しかもワイロなんて受け付けない高い倫理観を持つ騎士を。
 冒険者ギルドって、弱い者にはとことん強気に出るけど、強い者には媚び諂う連中ばかりだから。」

 冒険者ギルドってしょうもない事ばっかりしているけど。
 一応、町に人に役立つこともしているんだ。
 その典型が、町の人が個別にギルドへ頼む依頼。
 ギルドには依頼の内容に応じて決まった相場があって、常に一定の依頼料で依頼が出せるんだ。
 ギルドがけっこうな手数料をぼっているんだけど、そこそこ許容範囲なんだ。
 ギルドが無くなって個別に冒険者に依頼するなると、法外な依頼料を強要する連中が出てくるかも知れないの。
 それこそ、腕にモノを言わせてね。
 だから、どのみち、荒くれ者の冒険者たちを統率する組織は必要なんだ。

 で、アルトは言うの。
 ギルドの監査に貴族の役人なんか使ったら、癒着するに決まってるじゃないかと。
 相手は強面の奴らだから、ひ弱な貴族の役人が強気で監査なんてできないって。
 怖い思いをして真面目に監査するより、甘い汁を吸ってお目こぼしする方が楽だし、良い目を見られるからって。
 アルトは、騎士団員を使って徹底的に監査をして、冒険者ギルドが悪事を働けないようにすれば良いと勧めたの。

「そうですな、それは良いかも知れませんな。
 では、今後、冒険者ギルドの監査は、近衛騎士団がするとにしましょうか。
 そうやって、冒険者ギルドの監督責任が誰にあるかを明確にしておけば。
 冒険者ギルドが不始末をした時に、最終的に誰に責任が回って来るかはっきりしますからな。
 ねえ、国王陛下。」

 アルトの提案を聞いたモカさんは、椅子の陰に隠れている王様を睨みつけて言ったんだ。
 その目は暗に言ってたよ。

『今後、冒険者ギルドが不始末をしでかしてアルトの不興をかったら、責任取るのは陛下ですよ』って。

「余が、あのならず者共の監督責任を負うのであるか。
 そんな、責任ばかり重大になって、割に合わんではないか。」

 王様ってば、そんな愚痴をもらしてたよ。
 ということで、二つのギルドは今回は不問に付されることになったの。
 これから悪事をしでかして、近衛騎士団に摘発されたらどうなるかは知らないけどね。

      *******

 二つのギルドの処分の話に一応の決着がついたあと。

「ところで、アルトローゼン様。
 『アッチ会』の先鋒になって荒事を担っていた『STD四十八』と呼ばれる愚連隊が見当たらないのですが…。」

 モカさんはアルトにそう問い掛けてきたんだ。その目は『隠しているでしょう』と言ってたよ。

「まあ、あれだけの大人数ですもの。
 そこのおマヌケじゃなければ、気付かない訳がないわね。
 あれね、少し気に入ったから、今回のお駄賃に貰えないかしら。
 良いでしょう、国が手を出せなかったギルドの悪事を暴いてあげたんだから。
 あのチンピラ共、あんたに渡したらどうせ縛り首でしょう。
 あんなに笑わせてくれるのだもの、再利用しないと勿体ないわ。
 安心して、金輪際悪さはさせないから。
 もし悪さをするようなら、私が廃棄するわ。」

 アルトは、王様をおマヌケと言って小バカにしてから、モカさんに『STD四十八』を強請ねだったの。

「まあ、アルトローゼン様が責任もって監督してくださるのなら。
 差し上げても結構ですが、絶対に悪さをさせないでくださいよ。」

 犯罪者を勝手にアルトにあげちゃって良いのって思ったけど。
 モカさんが良いと言っているんだから、そこはツッコまなかったよ。

 王宮からモカさんの屋敷に帰って来て、その中庭。

「あんた達に、選択肢をあげるわ。この場で選びなさい。
 一つは、これからカタギには一切迷惑を掛けないと誓って、更に私に忠誠を誓う事。
 もう一つは、トレントの餌になって、王都の人達に甘味料を安く届けるための糧になる事。
 さあ、どっちが良い? 今が選択の時よ。」

 中庭に放り出した『STD四十八』の連中を前にアルトはそう告げたの。
 まる一日以上、食事も与えられずに『積載庫』に監禁されてたんで、『STD四十八』の連中は憔悴しきっていたよ。
 しかも、おいらが折った腕の骨は手当てせずに放置してるんで、みんな痛そうにしてる

 唐突に選択を迫られた連中、最初は戸惑っていたけど、そのうちアルトの言葉の意味が呑み込めたようで…。

「トレントの餌は勘弁してください。
 俺は、まだ、二十歳にもなってないんだ。
 これから、もっと華麗なステップと剣舞に磨きをかけて、ビッグになりてえんだ。
 姉さん、金輪際、カタギ衆には迷惑かけねえ、忠誠を誓えと言われれば誓うから。
 お願いだから、命ばかりは勘弁してください。」

 連中の一人が青い顔をして、アルトに忠誠を誓うと言い、命乞いをしてたよ。
 だから、華麗なステップと剣舞って…、それって最初から芸人を目指しているじゃ…。

「うん、期待通りのリアクションを見せてくれて嬉しいわ。
 その言葉、忘れるんじゃないわよ。
 今後、少しでもカタギに迷惑を掛けようものなら、即座にトレントの餌だからね。」

 満足そうな微笑みを見せたアルトは、そのニイチャンの右腕に『妖精の泉』の水を掛けてあげたんだ。

「おお、折れた腕がキレイにくっついている。もう痛くねえぜ。
 すげえぇ、姉さん、有り難うございます。
 俺、一生姉さんに付いて行きます。」

 すると、…。

「俺も、忠誠を誓いやす。
 トレントの餌になるくらいなら、足を洗ってカタギになります。」

 何という声が次々と上がって。

「結局、トレントの餌になりたいって『勇者』は一人もいなかったわね。
 まあ、良いわ。
 私に誓ったことを忘れるんじゃないわよ。
 永劫に近い時間を生きる妖精に対する誓いは一生有効だからね。
 誓いを破った時は、楽には死なせてあげないから覚悟しなさいよ。」

 全員の腕の骨折を治したアルトは、『STD四十八』を手に入れて満足そうだった。

「それじゃあ、あと数日、さっきの空間に入っていてもらうわ。
 四十八人もこの屋敷に世話になれないからね。
 安心して、今度は水と食事は差し入れてあげるから。
 その間は、ステップの練習でもしていないさい。」

 そう告げると、アルトは連中を『積載庫』に戻してた。
 ステップの練習って、アルトの『積載庫』にある『獣舎』ってどんだけ広いんだろう。

 何はともあれ、やっと住み慣れた町に帰れるよ。 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,015pt お気に入り:14,341

【完結】三角関係はしんどい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:16

鬼子母神

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

ねえ、番外編

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:855

石橋を叩いて渡れ、冒険者人生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:256pt お気に入り:18

プラトニックな事実婚から始めませんか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,299pt お気に入り:19

処理中です...