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第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記

第90話 一件落着みたいだよ!

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 無事に『ハエの王』も生み出したし、謎のスキル『金貨採集量増加』の効果も判明したよ。
 これでもう魔物の領域でする事は全部終わったので、おいら達は王都へ戻ることにしたんだ。

 アルトにかかると王都まで一っ飛びで、あっという間に着いちゃった。
 この日も、アルトは真っ直ぐに王宮へ向かったんだ。

 王宮勤めの人達はアルトの恐ろしさを身に染みて感じているようで。
 アルトの姿を目にしたら、すぐに王様の部屋に通してくれたんだ。

 王様、アルトが急に現れたものだから、青い顔してブルブル震えていたよ。
 また何か、アルトの機嫌を損なうことがあったかと思ったみたい。

「急に来て悪かったわね。
 別にいちゃもんをつけに来た訳じゃないから、そんなに怯えなくても良いわよ。
 無事に『ハエの王』を生み出せたから知らせておこうと思ってね。
 もちろん、あの愚か者には『ハエの王』を生み出す糧となってもらったわ。」

 来訪の目的を告げたアルトだけど、王様はすっかり怯えてしまって声が出なかったんだ。

「この度は、我が国に属する者が多大なご迷惑をおかけしまして申し訳ございませんでした。
 二度とこのようなことが無いように、『魔王』には手出し無用の勅令を再度発しておきました。」

 そんな王様に代わって、モカさんが一連の不始末について詫びたんだ。
 そして、モカさんは言い辛そうに尋ねてきたよ。

「それで、あの者の最期はいかがなものでしたか?」

 勘当したとは言え自分の息子だもの、どんな最期を迎えたは知りたいだろうね。
 普通だったら、モカさんの辛い気持ちを酌んでいたわるようなことを言うんだろうけど。
 
「あんたねえ、いったい、どんな育て方したの。
 あの愚か者、泣き言は言っていたけど、最期の最期まで反省してなかったわよ。
 羽虫や愚民を犠牲にしたくらいで、貴族がこんな仕打ちを受けるのはおかしいってほざいてたわよ。」

 でも、アルトはそんなことお構いなしに、キャラメルの最期を酷評してモカさんに説教を始めたの。
 モカさん、羞恥に顔を真っ赤にしていたよ。

「申し訳ございません。
 私の愚息が、最期の最期までアルトローゼン様に不快な思いをさせてしまったようで。
 私は、愚息が幼少の頃から王の側近として中々家にも帰れない生活をしておりまして。
 全然愚息をかまってやれる時間が無かったもので…。
 どうやら、周りが甘やかし過ぎた様子で、気付いたらあんな風に育っていました。
 長男で失敗したと気付いたもので、次男と長女はなるべく自分で躾けるようにしたのですが…。
 なるべく、家族との時間がとれるようにと常識的な時間で退勤していたところ。
 今度は王宮で、色々と不始末が起こるありさまで…。」

 アルトに詰め寄られて、苦しい言い訳をするモカさん。
 恨めし気な目で王様を見ていたんだ。

「ひっ!余は何も悪くないぞ!
 余はこの国で一番偉いのだ、余の判断が絶対なのだ。
 もしそれで何か問題があれば、上手く収めるのが臣下の役割であろうが!」

 飛び火を恐れたんだろうね、王様が慌てて口を挟んで来たよ。

 なるほど、この王様が諸悪の根源なんだ。
 目を離すと何をするか分からない王様の尻拭いに、若いうちから奔走させられていたんだね。
 それで、長男の教育に全然タッチできなかったと。
 長男のダメさ加減に気付いた時はもはや手遅れで、次男に期待をかけて育てたわけだ。

 なるべく、次男とクッころさんの躾けに時間を取ろうと、早い時間に王宮を退勤していたら…。
 今度は、目を離した隙に王様が好き勝手をして、色々と問題を起こしたみたい。

 モカさんの弁明を聞いたアルトは今度は王様に説教の矛先を向けたんだ。
 逃げること叶わず、王様はコンコンと説教をされることになり。

 最期には、

「あんた、あんまり調子こいてるじゃないわよ。
 大人しくしていないと、本当にプチっとっちゃうからね。」

とアルトに脅さる始末だった。

 結局、今後は何する時には必ずモカさんに相談すること、ダメだと言われたら絶対にしないことを誓約させられちゃった。

「余が王様なのに、何で臣下の許可が必要なんだ…。」

 とか言って、王様は涙目になっていたよ。

 おいら、知っているよ、それって『身から出た錆』って言うんだよね。

    ********

 その晩、おいらが厄介になっているクッころさんの部屋で。

「ノイエ、おいてっちゃって悪かったわね。
 これ、約束の『高速連撃』の実よ。
 レベル十まで上げるのに必要な二万個とっておきなさい。
 『生命の欠片』は大した足しにもならいかも知れないけど…。
 一応、分け前ねレベル三十相当分渡しておくわ。」

 アルトはクッころさんの家においてったノイエの今回の分け前を配ってたの。

「わーい! アルトお姉さま、大好き!
 『高速連撃』の実、アタシも欲しかったんです。
 『生命の欠片』だって、久しぶりのまとまった数なんで嬉しいです。
 殺し御法度の私達じゃあ、中々手に入らない貴重品ですもの。」

 ノイエはそう言ってご機嫌で、『高速連撃の実』と『生命の欠片』を『積載庫』にしまっていたよ。

「妖精のお二人が持っている『妖精の不思議空間』って凄ご過ぎですわ。
 私や愛馬も辺境から王都まで、その空間に入れて運んでくださいましたし。
 ドロップ後一時間で腐る『高速連撃』の実を長期間保存できるって羨ましすぎですわ。」

 目の前で、今回の収穫をノイエに分け与えている様子を見てクッころさんが感心してた。
 クッころさんてば、すっかり『妖精の不思議空間』っていうアルトの説明を信じ込んでいる。
 『積載庫』のことを気付く様子がないから助かるよ。

「あんた、エクレアって言ったっけ。
 あんたにも、分け前をあげるわ、『生命の欠片』。
 あんたにも手伝ってもらったし、数日ここでノイエが世話になったからね。」

 そう言ってアルトはクッころさんの前に、『生命の欠片』の山を出したの。
 今さっき、ノイエに分けた山より、一回り小さな山の欠片を。

「ええっと…、こんなに頂いてしまってよろしいのでしょうか?」

 本当に山積みに積まれた欠片をみて、クッころさんは遠慮がちに確認するけど…。

「遠慮せずに取っておきなさい。
 私達が持っていても端数にしかならないけど、あなたには役立つでしょう。
 それ全部取り込めば、レベル二十まで上がるはずよ。
 その辺の魔物なら後れを取ることは無くなると思うわ。
 ついでと言ったら何だけど。
 もし欲しければ『シュガートレント』から採れたスキルの実も上げるわよ。」

「それでは、お言葉に甘えて『生命の欠片』は頂戴いたしますわ。
 『シュガートレント』から採れたスキルの実ですか、それはどんなスキルなのでしょう?」

 アルトの好意に甘えることにしたクッころさん。
 さっそく生命の欠片を取り込みながら、スキルの実について尋ねていたんだ。
 そういえば、おいらも『シュガートレント』を狩ったの忘れてたよ。

「『命中率アップ』のスキルね。
 弓使いの兵士とか、弓で猟をする猟師とかに人気のスキルね。
 中々いないけど、レベル十まであげると『必中』に化けるお便利スキルよ。
 ただし、これも三日で腐るから。
 今回レベルを上げるとしても、人の身じゃどう頑張ってもレベル五、六かしら。」

 そう言ってアルトが出して見せたのは柿の実のような『実』だったよ。
 この間の、『ハニートレント』がドロップしたスキルの実と同じくらいの大きさの。
 クッころさん、三日三晩食べ続けて、レベル六まで上げてたね。

「わたくし、弓は使いませんが、スキル枠が空いてしまってますの。
 他に何かスキルが手に入る見通しもございませんので。
 頂けるのであれば頂戴しますわ。」

 そう言って、クッころさんはアルトから『命中率アップ』の実を分けてもらってた。
 また、レベル六を目指すと言って二百五十個。

 最後に、アルトはクッころさんに『シュガートレント』に生ってた実『シュガーポット』も分けていたよ。
 その名の通り、つぼ型の実の中に砂糖がぎっしり詰まっているの。
 これも、高級品でお店で買うと銀貨一枚もするの。

 アルトが百個ほど出したら、クッころさんすごく喜んでたよ。

 こうして、愚か者が引き起こしたスタンピードの後始末は全て終わったんだ。
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